55話 確定申告
目を擦り、何度も確認してみるが、やはりその額は変わらない。
「まじかぁ……」
あまりの調子の良さに俺は喜びを超えて恐怖を感じていた。
俺がソフトを公開してからはっきりいってそれほどの時間は経っていない。
しかし、それなのにも関わらず、売上は既に10万を超えていた。
コンクールなどでちまちまと稼いでいた時代の稼ぎを一瞬で超えてしまったことに多少の寂しさを感じながらも、やっとちゃんとした稼ぎを素直に喜んだ。
「いやぁ、この調子だと確定申告しなくちゃかぁ?」
俺は浮かれながらそう呟く。
とはいえ、今は8月の終わり、今年ももうあと4ヶ月で終わる。
その4ヶ月で確定申告をしなければいけないほど稼ぐかと言われればさすがにそのレベルは無理だろうから心配はいらないだろう。
今回の収益は前に作ったソフトを使ってくれた人とかが買ったりもしてくれてるだろうし、かなり上振れた結果と言えるだろう。
だからこそ、今年は特に考える必要はない……そう思っていた時期が私にもありました。
「ひゃ、100万円……?」
年も明け、同級生達は家でダラダラしている頃、俺は画面に表示された数字を見ながら頬を引き攣らせていた。
もう一度確認し、桁を数える。
「……うん、やっぱり7桁だ」
どうやら見間違いではないらしい。
どうしてこうなったのか、理由は分かっている。
……俺が調子に乗ってあれから更に二本のソフトを販売したからである。
その結果、その2本のソフトが初めに有料で販売したソフトよりも売れ、利益がどんどんと膨らんでいったのだ。
「これは……またお母さんに言わなきゃだよなぁ、はぁ……」
別に犯罪に手を染めている訳でもないのだからちゃんと話せば良いだけなのだが、明らかにおかしなことが起きてはいる為、説明にかなりの労力がかかるだろうと思うと少し憂鬱になった。
家に帰り、通帳を持ってお母さんに話しかけに行くと、何故かお母さんはサッと手を前に構えて臨戦態勢を取っていた。
「えっと……ママ?」
「なぁに! なんでもばっちこいよ!」
お母さんは興奮気味にそう言い放つ。
どうやら、最近俺が衝撃的な事を話しすぎたせいでかなり警戒されてしまっているらしい。
その度に百面相を見せるお母さんも可愛らしくて好きだったのだが、これはこれで話が早そうで悪くない。
俺はそんなお母さんに通帳を見せ、確定申告が必要な事を伝えた。
「…………」
「…………」
お母さんは黙ったまま通帳を見つめている。
一ページ、また一ページ。
何度も確認するように視線を動かし、最後にゆっくりと俺の方を見た。
「はじめ……」
「は、はい」
お母さんは大きく息を吸い、それでも喋りずらそうにしながら俺に親指を立てる。
「だ、大丈夫よ、想定内だわ……!」
いやいやいや、あなためちゃくちゃ吐きそうになってますけど?
「ほ、本当に大丈夫なの?」
「えぇ、もち……ろん、平気……よ!」
うん、平気じゃ無さそうだ。
ただ、このまま乗り切ってしまえば一旦悩みの種が取り除かれることによってお母さんも落ち着くかもしれない。
そう思い事前に用意していた書類をお母さんの前に出した。
「……これは?」
「去年の売上とか、ソフトを作るために使ったお金とかをまとめたやつ」
「…………」
「あと、買った本とかパソコン関係の領収書も一応まとめてあるよ、どれが経費で落ちるか分からないから一応ね」
「…………」
お母さんが無言になった。
あれ、もしかして、また何かやらかしただろうか。
「ママ?」
「……はじめ」
「はい」
「いつこんなの作ったの?」
「昨日」
「昨日!?」
急に元気になった。
「だって必要になると思ったから……」
「必要になると思ったからって、小学三年生が夜に税金の書類を整理しないの!」
そう言われても困るのだが。
放っておいたところで税金が消えてくれるわけでもないのだから、できることは先にやっておいた方がいいだろう。
「でも、これでちょっとは楽になると思うよ?」
「そういう問題じゃないのよぉ……」
お母さんは少し涙目になりながら頭を抱えた。
しかし、すぐに起き上がり、気合を入れるように頬をパンッと叩いた。
「いや、ダメよ私、この程度で驚いちゃ、この子は多分今後もっととんでもない爆弾を持ってくるんだから……!」
「聞こえてるよ?」
「よぉし、はじめ! 確定申告、今日中に終わらせるわよ!」




