54話 銀行口座
モヤモヤとした気持ちを抱えたま帰宅した俺は、とりあえずソフト開発を進めることにした。
何かに没頭すれば頭が整理され、解決策も思い浮かぶかもしれない。
何より、ただ悩んでいるよりかは何倍もマシだ。
そうして、それからは毎日コツコツとソフト開発を続けていった。
この世界は俺の前世と比べて変わっているところもあるので、俺が開発する前に同じようなものが発表されるのではないかとひやひやしていたが、完成するまでにそういった事も起こらず、何とか公開まで漕ぎ着けることができた。
……が、問題も起きた。
「よく考えてみたら……俺、銀行口座持ってないじゃん」
そう、偶に忘れかけるが、俺は小学生だ、自分専用の銀行口座など持っているはずもない。
匿名でやっていく以上、銀行口座への入金以外でお金を受け取ると言うことはできないから、何とかして手に入れなくてはならない。
その為には親権者に頼んで代理で手続きをしてもらわなければならない……となれば、必然的にお母さんに頼らざるを得なくなるのだ。
「はぁ、まさかこんな所で頼ることになるとはな……」
心配をかけないため、少なくとも中学生くらいまでは隠していようと思っていたのだが、思ったよりも早く話さなくてはいけなそうだ。
自分の迂闊さに悲しくなりながらも、俺はパソコンの電源を落とし、リビングへ向かった。
「お母さーん」
「なぁに?」
声を掛けると、台所からお母さんがひょこっと顔を出す。
「ちょっとお願いがあるんだけど……」
「お願い?」
俺がそう言った瞬間、お母さんの顔が僅かに引きつった。
この前パソコンと言う高価なものを買ってもらったばかりなので、またそのレベルのお願いをされるとでも思ったのだろうか?
「……またパソコン関係?」
「な、なんで分かったの?」
「最近のはじめ、パソコンの前にいる時だけ目の色が違うもの」
やはりそう考えられるか、最近はずっとパソコンにかじりついているからな。
というか、俺そんなに変な感じでパソコン弄ってたのか……自分じゃ分からないもんだな、気をつけなくては。
ま、お母さんは少し警戒しているようだが、今回はお金はほぼかからない頼みだから、それに関しては聞いてくれるだろう。
ただ、問題はソフトを販売するという許可を得られるかどうかだ。
「えっと、また買って欲しいものがあるとかでは無くて……その、銀行口座を作りたいんだ」
「…………?」
お母さんは予想外すぎたのか、口を何かの言葉を発しようとした形のままで固め、目を丸くしている。
それから俺はお母さんが機械の話に疎いというのは分かっていることだから、できる限り噛み砕いて分かりやすくして経緯を話した。
お母さんはわかっているようでわかっていないような反応を見せながらも、いくつか俺に質問をしてきた。
それは犯罪じゃないのかとか、それは危険ではないのかとか、思ったより随分と慎重に質問を受けたが、しっかりと返答をすると、何とか納得してくれた。
「それじゃあ最後に……顔とかは出してないのよね?」
「うん、もちろん、名前も年齢も、個人情報は何一つ出さないようにしてるよ」
「そう……分かったわ、それなら銀行口座作ってあげるけど……何かあったらすぐに私に言ってね?」
「うん! ママありがとう!」
そう言って勢いよくお母さんに抱きつく。
すると、お母さんは嬉しそうに笑い、頭を優しく撫でてくれた。
その数日後、俺はお母さんと一緒に銀行に来ていた。
流石にこういった手続きを俺が行うというのは俺の能力がどれだけ高くともできないため、お母さんに任せっきりになってしまった。
こう考えると、やはり子供という立場は不便だと痛感させられる。
どれだけ能力があったとしても、大きな制約によってすぐには行動ができないのだから。
だが、それでも辛くなったりはせず、のびのびと生きられているのは、お母さんのおかげだ。
「ほんと、ありがたいな」
「ん? 何か言った?」
「いや、なんでもないよ!」
聞こえないように言ったつもりだったが、少し聞こえてしまったらしい。
俺は恥ずかしさを隠そうとお母さんとは逆の方向にあるパンフレットなどを眺めて時間を潰した。
そうしていると、どうやら手続きも終わり、俺名義の銀行口座が作られたようだ。
その約1ヶ月後、俺は下校時に通帳を持って全速力でATMへと向かった。
そう、ソフトを公開して早数週間、今日がそのお金が入金される日である。
俺は背伸びしながら通帳をATMに押し込み記帳し、そこに書いてある残高をしたから読んでいった。
「いちじゅうひゃくせんまん……じゅうまん……?」




