52話 真剣に
光子さんは顔を少し赤らめながら俺に質問する。
えっと、聞き間違いだろうか、俺が陽芽と付き合ってる……?
「えっと、陽芽ちゃんのお母さん、付き合ってるって何?」
「はぁ、白々しい、あなたみたいなお利口さんがそんな事も知らないわけが無いでしょ?」
確かに……先程までの演技が仇となったか。
だが、付き合っていないのも事実だ、特にやましい事は無いのだから、そのまま言えば良かったのだが、突然の衝撃発言に驚いてしまい、失敗してしまった。
「それで、結局どうなの? そういう反応をするって事は…………」
「い、いや、付き合ってはいないよ!」
俺はこのままだと悪い方向に進むだけだと感じ、急いで訂正した。
しかし、相手が悪かったようで、光子さんは俺が慌てて言った言葉から失言を素早く抜き出した。
「付き合っては居ない……ね?」
光子さんの目が光る。
こ、これは、完全に狩りに来ている……!?
もしかして、光子さんも親バカで、俺と陽芽を引き剥がそうとしているのか?
もしそうなら俺もしっかりと応戦しなくてはならない。
陽芽は俺の大切な友達であり、離れ離れになるのは嫌だ。それも、その理由が陽芽自身で無いというのなら尚更だ。
俺は今更ながら覚悟を決め、臨戦態勢を取る。
「えっと、僕はまだ8歳だから、そういうのはまだ早いかなって……」
「ふぅん……けど、それじゃあ陽芽の気持ちはどうなるの?」
「陽芽の気持ち?」
「あなたの事が好きなんでしょ?」
「…………」
これは……どっちだ?
かまをかけられているのか、それともなにか別の意図があっての発言なのか。
ただ、分かるのはどっちにせよこの人の発言を認めてしまえば、良からぬ方向へと話が進んでいくだろうということだ。
落ち着け、俺は何もやましい事はしていないしする気も無いのだから、事実をそのまま答えればいいんだ。
「陽芽ちゃんは僕のこともう好きじゃないよ、昔は僕のこと好きでいてくれたみたいだけど、最近はちょっと遊ぶ回数も減ったし、距離も離れてきてるから……」
「え? あれで?」
よし、なんでか分からないけど光子さんの圧が少し減った……!
このまま畳み掛けて俺が陽芽とやましい関係には無いということを認めさせようとし口を開こうとする。
しかし、それは光子さんの制止によって阻まれてしまう。
「ちょっと待って、私少し勘違いしてたかもしれないから少し考えさせてちょうだい」
「は、はい」
光子さんは少し考えるような素振りを見せた後、先程までの圧を全て無くして俺に話しかけてきた。
「えっと、確認だけど、本当に陽芽とは付き合って無いのよね?」
「うん」
「そう……私、ちょっと勘違いしてたみたい」
光子さんのその言葉を聞き、俺は胸を撫で下ろした。
一時はどうなる事かと思ったが、何とか乗り切れたみたいだ。
光子さんはそんな俺の様子を見て、申し訳なさそうにしながら謝罪をしてきた。
「ごめんなさいね、私てっきりあなたが陽芽と付き合ってるのだとばかり思ってたのよ」
「うん、大丈夫だよ」
「それでまぁ、話したかったことなんだけど……あなたって色んなジャンルのコンクールで賞とか取ってるわよね?」
穏やかになっていた脈拍が急に飛び跳ねる。
「え、えっと……うん、何個かは」
どうして急にその話をするのだろうか、というかなぜ知っているんだ?
その話は基本的にお母さんしか知らない話だろうし、そこまで各方面で話題になるほど賞を取りまくったりもしていないはずなのだが。
俺が警戒しながら答えると、光子さんは少し困ったように笑った。
「えっと、はじめ君は知らないだろうけど、私結構偉い人だから、そういう情報もよく聞くのよ」
「そ、そうなんだ」
そうか、そういえばこの人国会議員だったっけ、それなら納得だ。
「それで、あなたっていわゆる天才って言うやつだと思うの、今日の受け答えもあれ、狙ってやってるでしょ?」
「…………えぇと」
「別に責めてるわけじゃないわ、ただ、貴方は他の子達よりもずっと大人っぽいのよ」
「うん……?」
「だから、あなたにとっては陽芽はずっと子供に見えると思うわ」
俺は意図が読めず、首をかしげてしまう。
確かに俺は前世の記憶を持っているのもあり、体は同じ年齢でも精神年齢は倍以上離れている。
陽芽と話していても、陽芽が子供だと思うことはよくある。
だが、それがなんなんだ?
「けど…………出来れば、あの子のことについて、真剣に考えて欲しいの」
「えっと、ごめんなさい、ちょっとよく分かんなくて……」
「……そう、ならいいのよ」
そう言うと、光子さんはどこか寂しそうに笑い、それ以上この話を続けることは無かった。
結局、何が言いたかったのだろうか。陽芽のことを真剣に考えて欲しいと言われても、俺にとって陽芽は大切な友達だし、真剣とはまた違うかもしれないが、少なくとも適当に仲良くしているわけでは無い。
「そろそろ戻りましょうか。あんまり遅いと陽芽が探しに来そうだし」
「うん」
その真意に気づくことは最後までなく、俺は光子さんと一緒にみんなのいる場所へ戻った。




