51話 疑惑
土に草、木の匂い、遠くまで見晴らせる平原の奥からは気持ちのいい風が吹いてきている。
「おぉ……」
俺は思わずこの歳の子供には似合わないような感嘆の声をあげてしまう。
例え歴史が変わろうと、大自然の前にはそんなもの些事だと言われているかのようだった。
俺たちが今回来たのは、都市部から少し離れた位置にあるロッジ付きのキャンプ場だ。今回はここに一日泊まって帰ってくる予定だ。
「さぁ、今日はたらふく肉を食うぞ! はじめくんも中野さんも遠慮せず食べてくださいね!」
陽芽のお父さんが大量に持ってきた肉をじゃんじゃん焼いてくれ、俺達はそれを心ゆくまで堪能することができた。
特に、俺の皿には脂の乗った肉を大量に置いてくれたため、非常に満足度の高い食事となった。
こういう事は昔からあり、陽芽のお父さんはやたらと俺にご飯を食べさせたがる。
まぁ、あの人のことだから、俺に脂っこいものを沢山食べさせて、太らせて陽芽に嫌われるようにしてるんだろうが、生憎俺は成長期であり、その上毎日のように頭を使ったり様々な活動を活発に行っているため、全てそのエネルギーに使われるんだけどな。
ちなみに中野というのはみこちゃんの苗字のようだ。
俺も初めて知った。
お母さん達のことを詮索するとはぐらかされたり、嫌がっている様子なのであまり聞かないようにはしていたが、よくよく考えてみれば、俺はそんな初歩的な事すら知らなかった。
これは……何とかもう少し探った方が良いのかもしれないな。
それからしばらくは俺と陽芽がお花摘みをしたり、ちょっとしたスポーツなどをして時間を過ごした。
陽芽はかなり物静かな方ではあるが、それでも俺の前では結構はしゃいでくれ、嬉しく思う。
小学生に入ってから陽芽は陽芽で友達もできたようで、少し俺から距離ができたように見え、最近は少し
寂しく思っていたからな。
昔は俺と結婚するとか何とか言ってくれていたが、今ではこんなに可愛く育って、おそらくはもう覚えていないんだろうなと思うと、なんだか父親のような気持ちになってしまう。
「はじめくん、見て!」
「ん?」
声のした方へ振り向くと、陽芽が両手いっぱいに小さな花を抱えてこちらへ走ってきた。
白や黄色、薄紫色の花が混ざっていて、本人はかなり満足そうな顔をしている。
「いっぱいあった」
「おぉ、すごいね」
「これ、はじめくんにあげる」
「俺に?」
「うん」
そう言って陽芽は、その中から一番綺麗に咲いている白い花を一本選び、俺の手へと乗せてきた。
「ありがとう」
「えへへ」
俺がお礼を言うと、陽芽は嬉しそうに頬を緩ませる。
……まぁ、少なくとも嫌われてはいないらしい。
例え、結婚とかそういう話がなかったとしても大切な幼なじみだし、守っていきたいとは思っているから、さっき感じたお父さんみたいな気持ちはあながち間違いではないのかもしれないな。
そうしてしばらく遊んでいると、次第に太陽は沈んでいき、あたりは段々と暗くなってきた。
みんなそこまでお腹は空いていなかったが、陽芽のお父さんが寝ている途中にお腹が減ったら嫌だろうからと余った具材で豚汁のようなものを作ってくれたので、みんなでそれを続きながら談笑した。
まぁ、ここからはもう大人の時間なため、子供はロッジに備え付けられているテレビでも見ていよう。
そんな風に思いながら陽芽と肩を並べ、豚汁片手にテレビの前に座っていたのだが、その時間は唐突に終わりを迎えた。
「はじめ君、ちょっといいかしら?」
「……はい?」
突然後ろから名前を呼ばれ、振り返ると、そこに立っていたのは、陽芽のお母さん……光子さんだった。
「少しだけ、こっちに来てもらえる?」
「え、あ、はい」
何だろう、俺何かやったか?
今日一日の行動を頭の中で高速で振り返ってみるが、怒られるようなことをした覚えはない。
強いて言うなら陽芽と二人で遊び回っていたくらいだが、それで怒られるなら今まで何度怒られているか分からない。
「陽芽、ちょっと行ってくるね」
「うん」
陽芽にそう告げ、俺は光子さんの後をついていく。
連れていかれたのはロッジの外だった。
「えっと、僕何か悪いことした?」
「……それを今から聞くのよ」
光子さんは辺りをキョロキョロと見渡し、誰もいないことを確認してから、ずいっと俺に詰め寄り、小声で俺に問いかけた。
「あなた、陽芽と付き合ってるの?」
「…………へ?」




