50話 青葉光子
キャンプ当日、俺はお母さんに見送られながら陽芽達家族の車にみこちゃんと一緒に乗り込んでいた。
「ママ、本当に行かなくていいの?」
「えぇ、大丈夫、ほらやっぱり男の子はママが居ると本心をさらけ出せないって言うじゃない? 折角のデートなんだから、そんなのって陽芽ちゃんが可哀想じゃない? だから、私はここに残るわ、うふふふふ」
「はぁ、だからって私がついて行く事ないじゃない」
キャンプへ行くことをお母さんに伝えると、お母さんは何故か色々と悩んだ末、結局お母さんはついては来ないことになった。
何か色々と変な想像をされている気もしないでは無いが、まぁたまにはお母さんも一人の時間を作った方がいいだろうし、ここは何も言わない事にした。
概ね問題は無く、これから楽しいキャンプが始まろうとしていたのだが、一つだけ気になることがあった。
「……えぇ、それで構わないわ……いや、それは……」
そう、陽芽のお母さんが車に乗ってから一度もこちらを向かず、何かの資料を見ながら電話をしているのだ。
今までのことから多忙なのだとは分かっていたが、まさかこれ程までだとは思っていなかった。
こうやってキャンプに来ているということは恐らく休みが取れたのだろうが、折角の休みにも連絡が来るような職業……少し気になる。
ただ、陽芽の話からも別に怖い人では無いのだろうから、とりあえずは心配せずにキャンプへ向かうことにした。
暫くして、小休憩を取るためにコンビニによった時、丁度陽芽のお母さんの電話も終わり、少しため息をついてこちらを向いた。
これは好機と思い、俺はこの生涯で必死に磨き上げた必殺技を繰り出す事にした。
「……こんにちは、僕ははじめって言います、今日は、よろしくお願い、します!」
そう、ハイパーぶりっ子いい子ちゃん挨拶&スーパーあざと大人が好みそうな笑顔だ!
この技を受けた人間は例え子供嫌いと噂される先生であったとしてもコロッと俺に対して最大級の第一印象を抱いてしまうのだ。
この技は初めて会った人にしか最大級の効果を与えることができないが、その分効果は絶大な奇襲技である!
さあ、恐れおののけ、我が魅力に堕ちるのだ!
「ごめんなさいね、急に連絡が入っちゃって自己紹介も出来なくて、私は…………」
そこまで言い、俺の顔を見た瞬間、陽芽のお母さんの表情が固まった。
はじめは俺の魅力に膠着してしまったのだとばかりに思っていたが、よくよく見てみると、その顔はどうやら気持ちの悪いのもでも見るような表情になっていた。
あれれ、おかしいな、こんなはずじゃ無かったんだけど。
「あの……?」
思わず笑顔を維持したまま首を傾げる。
おかしい、今までならこの辺りで「あら〜、可愛い!」だとか「しっかりしてるのねぇ」だとか、そういう反応が返ってくるはずなのだ。
だというのに、目の前の陽芽のお母さんは俺の顔をじっと見つめたまま、何とも言えない表情を浮かべている。
「ねぇ高一さん」
「ん〜? なんだ?」
「最近の子ってみんなこんな感じなの?」
「ん? どういう事だ?」
「……まぁいいわ」
陽芽のお母さんは、俺達に聞こえないようこっそりとそう小声で会話した。
俺の《聴力》のスキルがある程度あることもあり何とか聞き取ることができたが……どういう意味だ?
もしかして、俺の挨拶がしっかりとし過ぎており、変に思ったとかそういう事か? いや、まさかあざとい感じがもう俺の年齢では通用しないとかか……?
そんな風に色々と考えていると、再度陽芽のお母さんがこちらを向く。
そして、その頃には先程までのなんとも言えないような表情は無くなり、いかにも優しそうなお母さんの表情を浮かべながら俺に話しかけてきた。
「えっと、私は陽芽のお母さんです、今日はよろしくね?」
「あぁはい、こちらこそよろしくお願い……しま……す」
俺はとりあえず当たり障りのない返答をし、その場を切り抜けようとしたが、その顔を見た瞬間、流石に固まってしまった。
そして、驚いたのは俺だけではなかったようで、隣にいたみこちゃんが俺よりも先に驚きの声をあげた。
「えっ!? まさか、あなたって青葉光子さん!?」
そう、俺はこの人を知っている。
青葉光子、確か、北海道選出の国会議員だったはずだ。
前世の記憶では聞いたことのない名前だが、この世界では若手ながらかなり知名度の高い政治家として、新聞やテレビで何度も見かけている。
「えぇ、そうだけど……そんなに驚くこと?」
光子さんは困ったように笑う。
なるほど、休日まで電話と資料に追われていた理由もこれで納得だ。
……だがしかし、国会議員か。
思わぬ所でコネクションができてしまったのかもしれないな。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ところで、あの子たち距離近くないかしら」
「あぁ、俺は断じて許してないからな!」
「最近の子ってみんなこんな感じなの?」




