46話 念願のパソコン
「とんでもなく高いのは買ってあげられないけど……良いのね?」
「うん!」
俺は目を輝かせながら家電量販店のPCコーナーにずらりと並んでいる機械たちを眺めた。
現代の最新機種たちと比べればサイズも大きく、無骨に見えるが、それでもパソコンはパソコンだ。
使えるのならなんだっていい。
苦節およそ2年強、実物が無いせいでとんでもない勢いで滞っていたプログラミングの勉強の効率が一気に上昇するのだから、その程度のことを気にする必要は無い。
「わ、わぁ、はじめ、これは無理よ……?」
そう言いながらお母さんが指さしていたのは今現在の最新機種で、50万円くらいする性能を金の力で詰め込んだものだ。
「大丈夫、僕が欲しいのはこれだから!」
俺はとあるパソコンを指さす。
「えーっと、に、25万円……ま、まぁそれなら大丈夫よ……」
「やったぁ!」
俺が指さしていたのは、おそらくこれからの環境で主流になっていくであろう規格のパソコンだ。
値段だけ見れば他のものと比べて比較的安い。
決して安い買い物では無いが、これから使い続けるものと考えればもっと良いものを買った方が良いのではないかと思うかもしれない。
だが、今は一旦このパソコンを選ぶのが得策なのだ。
何故なら、俺の記憶によれば、パソコンの性能や価格というのは数年で一気に変わる。
特に今の年代は激動の時代であり、1年も経てば今の最新機種も今回俺が買おうとしている物と同じくらいの値段になるばすだ。
それならもう少し待ってから買えばいいと思うかもしれないが、それもダメだ。
先程も言った通り、パソコンが無いせいで俺のプログラミングの勉強効率は著しく低下している。
俺のアドバンテージは早く行動すればするほどに強くなる為、そのタイムロスは非常に惜しい。
だからこそ、パソコンは今このタイミングで買う必要があるのだ。
それに、今回買おうとしている物でも俺がやりたい事をするには十分な性能がある。
少なくとも、プログラミングの勉強を始めるという目的だけで考えれば、店頭に並んでいる一番高い物を買う必要なんて全く無い。
「はじめ、本当にこれでいいのね? 私ははじめが何をやろうとしてるのか分からないから、はじめに任せるけど……」
「うん! これで大丈夫!」
お母さんは不思議そうな表情をしながら俺を眺めてくる。
息子がいきなりこんなよく分からないものを欲しいと言い出したら不安に思うのはおかしくない。
だけど、安心してくれ、ちゃんと数年でこのお金は回収する予定だから。
購入することを店員に伝えると、店員はお母さんに向かって商品の説明をし始めた。
しかし、聞き馴染みのない単語ばかりであたふたとし始めていた為、俺は横から口を挟んだ。
「大丈夫、僕が聞くよ!」
「……うん、お願いしていい?」
「うん!」
俺がそう言って前に出ると、店員は初めは驚いた様子を見せていたが、俺が話をしっかりと理解しているのをみると感心したようで、俺を1人の客として扱ってくれた。
うん、この人はできた人だな。小学2年生でも能力があると分かればしっかりと説明してくれる、名前を覚えておこう。
「……という訳です」
「分かりました、それでお願いします」
説明を聞き終え、そのまま必要な手続きを進めてもらう。
お母さんは途中から完全に俺に任せることにしたらしく、俺と店員のやり取りを横から眺めているだけになっていた。
「はじめ、本当に分かってるの?」
「うん、大丈夫だよ」
「……私より詳しいの、なんか複雑ね」
そう言ってお母さんは少しだけ頬を膨らませた。
必要なもの全てを揃えるとなるとかなりの金額になる。
しかし、今すぐに必要な訳では無いため、今回は最低限プログラミングに必要なものとこれから必要なもの少しだけを買うことにした。
全ての手続きを終え、お母さんが全てのお金を払った。
何故か全額をそのまま払った事に少し驚きながらも、今はそんなことよりも重要な事があった為、そっちに頭がいっていた。
「……ついに……ついにパソコンが僕の手に……!」
思わず小さく拳を握る。
長かった、本当に長かった。
ここまで来るのにどれだけ時間がかかったことか。
欲しいと思ってからすぐに手に入るような物でも無かったし、そもそも俺自身が子供である以上、どうしてもお母さんの協力が必要だった。
だが、それも今日で終わりだ。
俺たちは店員さんに用意してもらった荷物を受け取り、車に運び込んだ。
「それにしても、はじめ君はパソコン使うなんて……本当に神童ね」
みこちゃんが感心したようにそう呟く。
「まだ使うだけだよ。これから勉強するの」
「へぇ、何するの?」
「色々!」
俺は笑って誤魔化す。
今はまだ詳しく話すつもりはない。
だが、もし俺の考えている通りに進めるのなら、いずれ一人では手が足りなくなる。
「みこちゃんにも、いっぱい手伝ってもらうからね」
「……え?」
意味が分からないという顔をするみこちゃんを見て、俺は小さく笑った。




