44話 水中呼吸
水着回が描きたかった。
夏になり、2年生になって初めてのプールの授業が始まりった。
とは言ってもやる事は1年生の頃と変わらない、水になれるという内容が中心の授業だ。
プールの縁を伝って歩いたり、みんなで手を繋いで前後に息を合わせて動き、波を作ったりして遊ぶあの授業である。
俺は《身体》や《運動神経》のスキルを持っている上、高いレベルの《水泳術》のスキルを持っているため、普通に泳ぐとなればとんでもない速さになるだろうからその授業内容はかなり助かる。
今後の授業で本格的に泳がなくてはいけなくなった時にある程度の速度に調節する為にも一、二年生の水泳の授業で慣らしておくというのは必須だ。
という訳で今日も1年の頃に引き続き、先生の目を盗みながら泳いでいた。
あまり水面に出ていると気付かれやすいため、しっかりと隠れながら水中の深い所で身体を慣らし、逆にどこまで速度を出せるのか試してみたりもしていた。
そんな風に、人目につかないよう水中を泳ぎ回っていた時だった。
「……?」
俺は不意に違和感を覚え、動きを止めた。
水の中でじっとしたまま、その違和感の正体を探る。 身体が重いわけでもないし苦しいわけでもない。
なんなら陸上に居るのとさほど変わらない程だ。
…………ん? 陸上に居るのと変わらない?
そこで俺は明らかにおかしな現象が起こっているという事にようやく気付いた。
そう、俺は水中に潜ってから一度も息継ぎをしていないのだ。
いや、正確にいえば少し違うな。
俺は確かに潜ってから一度も水上に顔を出していない。
が、呼吸はしているのだ。
普通に呼吸をしている時、その時に意識をして息を吸ったり吐いたりする事は無い。
しかし、水中にいれば意識をして呼吸を止める。
つまり本来であれば、水中に潜った瞬間に無意識に行っていた呼吸を自分で止めるはずなのだ。
だが、今の俺はそれをしていなかった。
呼吸を止めようとすらせず、陸上にいる時と同じように、何の疑問もなく息を吸い、吐いていた。
改めて意識しながら水中で呼吸をしてみる。
普通なら水の中で息を吸えば肺に水が入り大変なことになる。
しかし、今の俺はまるでエラ呼吸をしている生物かのように当たり前に水中で呼吸をすることが出来ている。
「流石におかしい……って、声まで出せるんだが……」
摩訶不思議な現象に驚きながらも、とりあえずは冷静になってステータスを開いてみた。
もしかしたら水中で呼吸が出来るようになるスキルが手に入りでもしたのかもしれないと思ったからだ。
しかし、特に新たなスキルが増えたような形跡は無いようで、謎は深まるばかりだ。
「強いて言うなら……これか?」
俺が目をつけたのは《水泳術》だ。
このスキルのレベルは365、ちょうど1年間上げ続けたのと同じレベルになっている。
前世ではこのレベルになっている人間は居なかった為レベルを上げ続けたらどうなるかというのはよく分かっていなかった。
前世では100レベル程度が最高だったため、それ以上の情報は俺も知らない。
少なくとも今まではレベルが上がればそれだけ能力が向上していく、ただそれだけだと思っていた。
しかし、考えて見れば不可解な点もある。
それは、スキルによってはある程度までなら能力が向上するだけでも説明が出来るものの、そのある程度を超える事ができるのか怪しいものもあるという点だ。
例えば《夜目》だ。これは単純に夜に視界が確保しやすくなるというものだが、100レベルを超えた辺りからもう普段の日中の視界とそこまで変わらないようになっている。
それからレベルが上がっても多少視界がクリアになる程度で、劇的な変化は無い。
スキルの能力向上効果が加算である以上、ある一点を超えればそのスキルはそれ以上のレベルがあったとしても殆ど意味が無いものになってしまう。
今まではまあそんなものだろうと思い、もうこれ以上あげても意味の無いスキルなのだと考えるようにしていた。
しかし、今回の《水泳術》の一件でその評価を一新しなくてはいけなくなった。
そう、ある一点を超えた後に、今までとは違う効果が発言するといった可能性があるからだ。
《水泳術》が特別だという可能性も無くはないが、ここまでの変化が起こってしまった以上、他のスキルでも検証する必要性がある。
どのレベル辺りで特殊な能力が発現するのか、その規則性を知ることが出来れば、俺はもしかしたら更なる力を得ることができてしまうかもしれない。
何年も検証を続け、俺の力についてわかった気になっていたが、どうやらそれは大きな勘違いだったようだ。




