41話 敗北
巧はぎこちない動きで表彰台へ立つ。
俺が銀賞を取った時もかなり驚かれていたようだが、金賞がこの少年だと分かった瞬間、会場はどよめきに包まれた。
その気持ち、大いに分かる。かく言う俺も驚きで開いた口が塞がらなくなっている人間の一人なのだから。
「最年少での金賞受賞となります!」
司会者がそう告げた瞬間、会場が再びざわついた。
最年少……そうだろうな、小学二年生が中学生の混ざったコンクールで金賞を取るというのは非現実的だ。
いや、俺が言えたことではないのだが。
巧は壇上で賞状を受け取ると、緊張で体を固くしながら何度も頭を下げている。
さっきまで隣でおどおどしていた少年と、今壇上に立っている金賞受賞者がどうにも頭の中で結びつかない。
……こいつが、俺に勝ったのか。
俺は自然と巧の姿をじっと見つめていた。
一体どんな絵を描いたんだ? このあどけない少年がどうすれば俺の描いたあの絵に勝つ事が出来るレベルの絵を描けるのか、純粋に気になる。
しばらくして巧が壇上から戻ってくる。
席へ戻るまでの間も会場中から視線を浴びていたせいか、巧の顔は真っ赤になっていた。
「お、おめでとう」
「ありがとう……」
俺が声をかけると、巧は小さく笑った。
「というか、金賞だったんだね」
「う、うん……」
「すごいね、言ってくれればよかったのに」
「だ、だって……自分から言うの恥ずかしくて……」
金賞なんだ、別に恥じる事では無いはずだが、まぁ、俺だって聞かれても自分から銀賞だとは言わなかっただろう。
周りが全員自分に負けているというのを勝者自ら宣言するとなると嫌味に聞こえたりもするからな。
「そういえば、巧っていうんだね」
「あ……うん、江島巧……です」
「僕は紅月一、さっき呼ばれてたから分かってると思うけど」
「う、うん、はじめ君……よろしくね」
巧は俺の名前を確かめるように小さく呟く。
これでようやく名前を交換できた。
だが、今の俺にはそれ以上に聞きたいことがある。
「それで、巧はどんな絵を描いたの!? 後で見せてくれる? というか見せて!」
「え、えっと、この式が終わったら作品を見る時間があるから……その時見れると思うよ」
「あ、そなの」
最初のうちは式に出席する気もなかったからあまり式次第について調べたりはしていなかった。
ということは、もう少し待てば巧の絵を見ることができるということか。
楽しみだな。
そんなことを考えているうちに、ようやく授賞式が終了した。
「それではこれより、受賞作品の展示会場を開放いたします。受賞者の皆様、ご家族の皆様はご自由にご覧ください」
その言葉を聞いた瞬間、俺は椅子から立ち上がった。
「巧、行こう!」
「えっ、あ、うん……!」
少し前のめりになりながら歩き出す。
後ろからお母さんの声が聞こえた気がしたが、今はそれどころではない。
受賞作品が展示されているのは、式典会場の隣にある広いホールだった。
壁際にはずらりと絵が並べられており、それぞれの作品の下には作者の名前や年齢、受賞した賞が書かれている。
当然ながら俺の作品もあった。
「あ、これはじめ君の? 凄い……綺麗な絵……」
「あぁ、ありがとう、それより……」
俺は自分のや他の人の絵には目もくれず巧の絵を探した。
金賞なのだから、恐らく一番目立つ場所に飾られているはずだ、そう考えながらホールの奥へ視線を巡らせていると……。
「……っ」
不意に、足が止まった。
まだ作者の名前すら見ていないし、何賞なのかも確認していない。
だが、その絵を見ただけで、その格の違いを一瞬で理解した。
夕暮れの公園、何処かで見たようなその光景が描かれた絵だ。
ベンチや遊具の中央に男の子が一人、こちらに背を向けて立っている。
線は曲がり、ベンチや遊具の立体感も少しおかしい。
男の子も少しアンバランスであり、小学二年生にしてはかなり上手いとは思うが、このコンクールの他の作品と比べれば中の上程度だ。
……だが、そんなものどうでもいいと思わせるほどの何かがこの絵にはあった。
「なんだ……これ」
心に強烈な寂しさを植え付けるような何かがある。
見ているだけで胸の奥がぎゅっと締め付けられるような、何とも言えない感覚が襲ってくる。
怖い絵では無いはずだ、だが、背中にその感情に近しい感覚が走っている。
その瞬間、俺は悟った。
これには……勝てない。




