40話 金賞
俺は授賞式に出席するべく東京行きの便の飛行機に乗っていた。
地味にこの世界に来て初めて北海道の外に出ることになるため、本来ならもっと楽しむべきなのだろうが、今の俺はそれどころではなかった。
……はっきりいって俺の作品は完璧に限りなく近かったはずだ。俺が負けた理由がわからない。
それを確かめるため、俺は今東京へ向かっている。
銀賞の賞品は奨学金10万円だ。これは別に授賞式に出なくても貰えるものだ。
だから、はっきり言って金賞をとった訳でもないのに向かう理由は無い。正当な手続きを踏めば欠席することもできるのだ。
だが、俺がどうして負けたのか、それが気になって仕方がない。
あの俺の作品を超えて金賞を取った作品を、その作者を見てみたい。
数時間後、飛行機は無事東京へ到着し、そこから電車を乗り継いで授賞式の会場へ向かった。
「やっぱり人多いねぇ……手離さないようにね?」
「うん」
お母さんはサングラス姿で海外のセレブのような姿で俺の手を引いて歩いていた。
東京に来たから張り切っているだろうが、いつもとのギャップで少し違和感がある。
街の様子はやはり前世の見慣れた東京と比べると全体的に古臭いように感じる。
しかし、それでも東京は東京と感じさせられるような活気に満ち溢れていた。
しばらく歩き、俺達は授賞式が行われる会館へ到着した。
受付を済ませて中へ入ると、会場には既に多くの親子が集まっていた。
小学生から中学生まで全員が競い合うため、技術力の差で当然ながらこの会場に集まっているのは中学生が多い。
だが、小学生も中々に頑張っていたようで、中には俺と同じくらいの年齢に見える子も混じっている。
俺も人の事は言えないが、その年齢で中学生と張り合うとは中々の才能だ。
少しするとアナウンスが流れてきた。
どうやらこの式では親と子は別れて座ることになっているらしい。
俺とお母さんはその指示に素直に従い、離れて座ることにした。
席は自由席のようなので、とりあえず先程見つけた俺と同じくらいの年齢の子の近くに座ろうと思い話しかけることにした。
「やぁ、こんにちは、隣いいかな?」
「……え、あ、僕?」
「そうそう」
「も、もちろんいいよ……」
了承を貰ったので、俺はその子の隣の椅子へ腰掛ける。
近くで見ると、やはり俺とそう年齢は変わらなそうだ。恐らく小学校低学年くらいだと思う。
かなり大人しい感じの性格のようで、俺と話す時も視線を俺から離すようにしながら少し俯いて話している。
うぅむ、それでも授賞しているということはもしかすると筆を持つと性格が変わるタイプなのかもしれないな。
「君も受賞したんだよね?」
「う、うん」
「やっぱりね、何年生?」
「……2年生」
「そっか、僕の一個上か……先輩って呼んだ方が良い?」
「えっ、いやいやいや、そんな事しないで! 僕は偉い人じゃないから!」
思った以上に強く否定された。両手までぶんぶんと振っている。
「別に偉いとかじゃなくて、一個上だから言っただけなんだけど」
「そ、それでも普通でいいよ……」
「じゃあ普通に話すね」
そう言うと、少年はほっとしたように小さく息を吐いた。
なんというか、本当に気が弱いな。少し冗談を言っただけなのに、ここまで慌てるとは思わなかった。
少年は息を整えるとハッとした様子で俺の顔を覗き込んできた。
「あ、それじゃあ、君は1年生なの!?」
「え、うん、そうだけど」
突然の勢いに若干引きつつもしっかりと返答すると、少年は何かブツブツと呟き出した。
「そ、それじゃあ、この子ならもしかしたら……」
「えっと、僕がどうしたの?」
「あえっ!? え、えっと、その……」
少年は顔を真っ赤にしながら俺に手を差し伸べてきた。
「ぼ、僕と……友達になってくれませんか!?」
「……え、あ、うん」
何をそんなに気合を入れて言うことがあるのかと思ったが、友達くらいなら別に断る理由もない。
「ほんと!?」
「う、うん。本当だけど……」
「や、やった……!」
少年は胸の前で小さく拳を握り、心底嬉しそうな表情を浮かべた。
……なんだろう、友達ができた程度でここまで喜ばれると、逆に俺の方が戸惑ってしまう。
「そんなに嬉しいの?」
「えっ!? あ、その……僕、あんまり友達いなくて……」
少年は先程までの勢いが嘘だったかのように、また俯いてしまった。
まぁ、この性格なら何となく分からなくもない。 話しかけられただけでここまで緊張するようでは、自分から誰かに声をかけるのは中々難しいだろう。
だがまぁ、ここは俺が一肌脱いで、最初の一歩になってやろう。
「ま、それじゃあ改めて、僕の名前は……」
俺がそう言いかけたところで会場の電気がバンッと消える。
「皆様、お待たせいたしました、これより…………」
どうやら授賞式が始まったようだ。
会場内が静まり、俺達も自然と前を向く。結局、少年とは名前すら交換できなかった。
まぁ、式が終わってからでも遅くはないだろう。
そんな風に思いながら自分の名前が呼ばれるのを待つ。
しばらくして銅賞の発表が終わり、続いて銀賞へと移る。
「紅月一さん」
「はい」
名前を呼ばれ、俺は壇上へ向かう。賞状を受け取り席へ戻ると、隣の少年が小さく拍手をしてくれていた。
「お、おめでとう」
「ありがとう」
さて、これで残る大きな賞は金賞だけだ。
俺は自然と姿勢を正す。ようやく、俺を負かした相手が分かる。
「それでは、金賞を発表いたします」
会場が静まり返る。
「金賞……江島 巧」
名前が読み上げられた瞬間。
「……は、はい!」
隣から、聞き覚えのある声がした。
「え?」
振り向くと、先程友達になったばかりの少年が、緊張した顔で立ち上がっていた。




