39話 銀賞
今までコンクールの賞品といえばそのほとんどがその競技に使用する器具などが進呈されるだけであり、直接的なお金などが貰えるものはほとんど無かった。
それであれば俺が優勝する必要は無い。
それどころか、俺以外の本気でその道に進もうとする子供たちが優勝する事ができなくなってしまうだろう。
俺はその道に進む可能性は少ないのだから、それならば俺は出ない方が良いと思っていた。
だが、今回は別だ。
奨学金30万円。これは直接的なお金では無いが、これがあるだけで将来の出費が減る。
そうなれば俺のパソコンへの道が近ずくだろう。
「まぁ、嫌だと言うなら別に……」
「う、受けます!」
俺は食い気味に了承した。
一緒にコンクールに出る子供達は少々気の毒には思うが、30万円が掛かっているとなれば話は別だ。
将来が掛かっているのだ、この位は許して欲しい。
あまりの勢いに先生は少し驚きながらも嬉しそうにコンクールの詳細を渡してきた。
「それじゃあ、これを読んでおいてね、私も色々協力するからね」
「ありがとうございます!」
先生から手渡されたプリントを読んでみる。
開催日時は1ヶ月後、対象年齢は先程読んでいた通り小中学生、別れたりすることはなく全員が同じコンクールを受けるらしい。中学生も一緒となると中々に上手い者もいるだろう。これならしっかりと本気を出さなければいけないだろう。
そして金賞の商品は給付型奨学金30万円。
うむ、見間違いでは無かったようだ。
テーマは自由、何を描いても良いらしい。
これはありがたいようで厳しくもある。
指定された題材を描かなければならないのであれば、その題材について色々と考えなければならないが、自由なら俺が一番描きやすいものを選べる。
極端な話、目の前にある鉛筆一本を描いても問題は無いのだろう。
ただ、優勝を狙うとなれば話は別だ。
描くものをしっかりと選ぶセンスも問われるため、ただひたすらに描く技術があればいいだけでは無い。
俺は描写の技術だけならスキルがある為、俺の優勝は間違いないだろう。
何せ、この技術があれば写真よりも綺麗に描けると言っても過言では無いからな。
だが、自由題となればそれだけではダメだ。
少なくとも、金賞を確実に狙うのであれば、技術以外の部分もしっかりと考えなければならない。
「何を描こう……」
「悩んでいるんだったら、とりあえず自分の思う素敵なものを描いてみるっていうのもオススメよ」
「素敵なもの……わかりました、やってみます」
素敵なもの…………か、それならひとつ心当たりがある。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「わぁ……!」
ロープウェイの窓に張り付くように外を見ながら、俺は思わず声を漏らした。
眼下には少しずつ小さくなっていく街並み。出発したばかりの頃は一軒一軒の家の形まで見えていたのに、山を登るにつれてそれらは徐々に光の粒へと変わっていく。
今日はコンクールに出す絵の題材を探すため、お母さんに頼んで山まで連れてきてもらっていた。
この山は前世でも何度か登り、彼女へのプロポーズをここで行ったりもしている場所だ。
前世とは少々この光景も様変わりしているが、それでも綺麗なことに変わりは無い。
「……綺麗、よくこんな所知ってたね」
「あ、あはは、学校でちょっとね……」
お母さんはこの場所については知らなかったか。
なら一石二鳥だな。俺が思う素敵な場所を描くことが出来た上、それをお母さんにも見せられたのだからな。
俺はしばらくその光景を眺めた後、持ってきていたスケッチブックと鉛筆を取り出した。
「もう描くの?」
「うん、とりあえず下書きだけ」
完成させるのは家に帰ってからでもいい。
だが、今この瞬間に感じたものまで後から思い出せるとは限らない。
俺は近くにあったベンチへ腰掛け、スケッチブックを膝の上に置いた。
まずは構図を決め、素早く細部を描き留めていく。
うむ、我ながら良い出来だ。だが、これから家に帰り、色を付けていくとなれば更に美しく仕上がるだろう。
その日は十分に景色を目に焼き付けてから家へと帰った。
そして、その日の夜から早速色を塗り始める。
夜空の色、山の暗さ、街を照らす無数の光。記憶の中に残っている景色とスケッチを見比べながら、少しずつ色を重ねていく。
「……ふっ、これは金賞確定だな」
俺は満足気な表情を浮かべながら完成した作品を眺める。
素晴らしい出来だ、これならば大丈夫そうだな。
その後、絵は先生を通してコンクールへ提出された。
そして数週間後。
「それじゃあ、結果を発表するね」
先生が一枚の紙を手に教室へ入ってきた。
俺は自信がある為、何の心配もせずに先生の言葉を待った。
「今回、うちの教室からは二人が入賞しました!」
おお、なら俺も当然その中に……。
「はじめくんは……銀賞です!」
「…………え?」
一瞬、聞き間違いかと思った。
銀賞、つまり二位だ。
「すごいよ! 一年生で銀賞なんて!」
先生は満面の笑みで褒めてくれている。
だが、俺の頭にはほとんど入ってこなかった。
「……金賞じゃ、ない?」
奨学金三十万円。
俺のパソコン。
その二つが頭の中で遠ざかっていく。
技術なら負けるはずがないと思っていた。
それなのに……。
「なんで……?」
どうやら、絵というものは俺が思っていた以上に、単純ではないらしい。




