38話 コンクール
次の休みの日、俺はお母さんと一緒に一旦は図書館に向かった。
ここに良さそうな本が沢山あるのならそれで良かったのだが、やはり数冊の簡単な本はあったが、それだけで何か事業を始められるレベルのものは無かった。
次に大手の書店へ向かった。
しかし、やはりここにも同レベルの本しか置いてなかった。
まぁ、想定通りだ。本当にここに俺の求める本が置いてあるとは思っていない。
だが、ここは全国展開している大手の書店だ。この時代だとしても、他の書店にある本を調べて取り寄せる事ぐらい出来るはずだ。
というわけで、早速店員さんにお願いして調べてもらった。
すると、やはり俺の思った通り、本土の方にはこの書店とは比べ物にならない数のプログラミングの本が置いてあるようだ。
その全てを取り寄せるとなるとパソコンを買うのと同じくらいの値段がかかってしまうため、とりあえず図書館で借りられそうな入門書などは省いた専門的な内容のものを中心に取り寄せてもらうことにした。
これでかなりの収穫にはなるだろう。
しかし、これだけではある程度プログラミングの勉強ができたとしても、根本的な問題は解決していない。
そう、PCがない以上実践に移ることができないのだ。
どれだけ勉強したところで、実践ができない以上はいずれ限界が来るだろう。
だから、何とかパソコンを手に入れる術を見つけなければいけない。
「そういえば、なんでパソコン買えないの?」
「それは……はじめは知らないだろうけど、パソコンってすっごく高いのよ。うちはお金が無いわけじゃ無いけど、流石にパソコンを買ってあげられる程の余裕はないのよ」
「そっか……」
子供にはまだ早いとかそういうのなら何とか言いくるめれば買ってもらえる可能性はあっただろうが、金銭的な問題ならかなり厳しくなるだろう。
俺はかなりの数の習い事をさせてもらっているし、それにもかなりのお金がかかっているのだろう。
それらを辞めれば多少お金を工面出来るかもしれないが、そう易々と辞めてしまうのは良くないだろうし、それでPCを買ってくれと言ってもすんなり了承してくれるとは思えない。
かと言って俺が直接お金を稼ぐというのは法律などで子供が働けないようになっている関係もあって難しい。
前世よりもそれ関係は少し緩くなっているようだが、それはお金の無い家庭限定だったりするので、うちは当てはまらないだろう。
有効な策が思い浮かばなかった俺は、今はとりあえずプログラミングの勉強に集中する事にした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
本が届くまでの間は図書館で借りられるものを片っ端から読みまくった。
スキルのお陰か、その内容はみるみるうちに吸収でき、数週間で基礎は完璧なはずだ。
しかし、百聞は一見にしかずとも言うし、いざ実践してみたらできないかもという不安もあるが、少なくともやらないよりはましだろう。
そして、それが終わった頃、丁度本土から取り寄せていた本が届いたようで、かなり専門的な本が沢山読めるようになった。
本体がなくともこれだけあればある程度何とかなるだろう。そうその時は思っていた。
しかし…………。
「……分かりにくい」
そう、その本たちは本体がある事を前提に書かれているため、ただ読むだけでは理解が進まなかったのだ。
これは大きな誤算だ。
入門書を完璧に覚えるのにもかなり時間を要したのに、専門書を読むのがそれより早いとは考えにくい。
だから今のうちにゆっくりと読んでいこうと考えていたのだが、この遅さだと何年経っても読み切れなさそうだ。
「やっぱり、実物が無いと厳しいか……」
本を閉じ、そのまま机に突っ伏す。
「パソコンさえあればなぁ……」
結局そこに戻ってきてしまう。
お金。
小学一年生の俺にはどうしようもない問題だ。
何か方法はないかと考えてはいるのだが、良い案は全く思い浮かばない。
そんな状態のまま数日が過ぎた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「はじめくん、今日はこっち描いてみようか」
「はーい」
その日はいつも通り、絵画教室に来ていた。
俺が通っている習い事の一つだ。
教室には俺と同じくらいの子供から、少し年上の小学生まで十人ほどが集まっている。
今日は机の中央に置かれた果物を見ながら絵を描くらしい。
「好きな物を中心に描いていいからね」
先生の言葉を聞き、とりあえず鉛筆を取る。
今まで何度も描いてきたが、やはり《描画》のスキルはかなり強力だ。
輪郭を取るのも、物の位置を合わせるのも難しくない。見た物をそのまま紙に写すような感覚で手を動かしていけば、自然と形になっていく。
その上、美術的なセンスも向上しているようで、我ながらかなり良い作品が描けているように感じる。
絵画教室は天才肌の子供もかなり混じっているようで、俺がある程度本気で描いても、天才とは思われたりするが、おかしいとは思われないのも面白いところだ。
「うん、はじめくんはやっぱり凄いね、1年生とは思えないわ!」
「あはは、ありがとうございます」
「受け答えも1年生とは思えないわね……」
「あ、あはは」
いや、この先生が鈍感すぎるだけかもしれない。
俺が誤魔化しながら絵を描き進めていると、先生は思い出したように奥から1枚のプリントを持ってきた。
「そういえば、はじめくん」
「はい?」
「前から思ってたんだけど、今度コンクールに出してみない?」
「コンクール?」
「うん、子供向けの絵画コンクール。はじめくんなら、結構いいところまで行けると思うのよね」
そう言って先生はプリントを俺に見せてきた。
内容は小学生から中学生までの絵画の全国コンクールの案内のようだった。
特に興味は無かったため、断ろうと思っていたのだが、最後の文言を見て気が変わった。
金賞商品:給付型奨学金10万円




