33話 歴史Ⅲ
「そうか、だから…………」
色々と読み進めていくにつれ、俺が知りたいことは少しずつ分かってきた。
生命保護法は戦後まもない頃は人口の回復という意味ではかなりの効果を得られたようだ。
その要因として、国が児童福祉を大幅に強化したというものがあった。
戦争によって子供を失った家庭も多く、その為復興後は子供を守るという意識がかなり強くなっていたようだ。
しかし、戦後なのもあり、子供を産んでも育てられないという家庭が多く、またもや子供を失ってしまうのかと国への抗議が日に日に大きくなっていた。
その為、政府は特別養子縁組制度や国による孤児院の設立、支援などが行われ、出産やその後の生活へのサポートも手厚くなった。
「だから、あんなに多かったのか……」
以前見かけたあの孤児院を思い出す。前世の感覚からすれば妙に数が大きいと思っていたが、この世界では戦後から国がそういった施設に力を入れてきたのだと考えれば納得できる。
さらに、子供を引き取る家庭への補助や養子縁組の手続きの簡略化なども進められたことで、血の繋がっていない子供を家族として迎え入れることも、前世より一般的になっているらしい。
ただ、当然ながら良いことばかりではなかった。
生命保護法によって人工的に妊娠を終わらせることが難しくなった以上、望まない妊娠をした人間も出産せざるを得なくなる。
その為、父親側にも養育の責任を負わせるため、認知や養育費の支払いに関する法律も前世より厳しいものになっているようだ。
そして、その法律は現在も生きており、それの結果として、日本の出生率は前世よりもかなり高い水準を維持しているみたいだ。
現にその人口もかなり多くなっており、およそ前世の1.5倍ほどになっている。
前世ではステータスが高いものが優遇される社会だったこともあり、沢山の子供を産むよりも能力の高い子供を産み、その子を育てる方が良いとされていたため、この世界のように戦後のベビーブームのようなものが起こることも無く、その後も出生率はかなり低い水準になっていた。
そのため、少子高齢化などの問題が俺が生まれた段階から深刻化していたため、この世界のその人口は少し羨ましく感じてしまう。
まぁ、それが完全にいいことだという訳でもないんだけどな。
「…………ふぅ」
あらかた読み終わった俺はベットに倒れ込むように寝そべり、枕を頭上にのせる。
誰も使っていなかった枕は少しひんやりとしており、様々なことを考えていた頭を冷やしてくれた。
色々調べた結果として、俺が抱いた感想は……落胆だった。
俺はこの世界を前世とは比べ物にならないほど暖かい世界だと感じていた。
ステータスが測れないからこそ、その人個人のことをちゃんと見て、その人自身を評価する。
そんな世界なのだと、どこかで勝手に思い込んでいた。少なくとも前世よりはずっと優しい世界なのだと。
だが、これはそう単純な話でも無さそうだ。
俺の居た世界は冷たかった。人々はステータスだけを見て物事を判断し、自分やりたいことを追いかけるよりも、自分ができることをやる社会だった。
……だが、だからこそ非常に効率が良かった。
基本的にはどの国も人材は適材適所で使われ、そのお陰で経済難になる国は少なかった。
そのいい例として、日本ではベーシックインカムという制度があり、月に一度だけ全国民に一律いくらかの金銭が与えられていた。
別に国が優しかったからなんて理由ではなく、単純に、その方が効率が良かったのだ。
ステータスによって得意不得意が明確に分かる世界では、どう頑張っても社会から必要とされにくい人間というものが存在した。そういった人間を無理に働かせて生産性の低い仕事をさせるよりも、最低限の生活だけ保障して、能力のある人間を重要な仕事に集中させた方が社会全体として得になる。
かなり冷たい考え方ではあるが、そのお陰で前世では食うに困る人間は少なく、最低限の生活だけなら殆どの人間が送ることができていた。
だが、この世界はどうだろうか?
今見た中ではアフリカなどの国々では未だに争いが絶えず、人々は貧困に苦しんでいるらしい。
日本でもそうだ。生命保護法によって人口は大きく増えた。増えた人口はそのまま国力となり、それが国民に分配される事によって国民は豊かになる。
…………だが、それにしては飢えるものが多すぎる。
福祉の本を見れば、バブル崩壊後は急激に孤児院などの利用者が増え、完全に飽和状態らしい。
国も支援を続けてはいるものの、明らかに資金や人材が足りてない。
前世では格差はあったが貧困はここまでではなかった。
しかし、今世では格差はそこまで酷くないが、貧困があるのだ。
歴史回これにて終わり! 読者様方も疲れたと思いますが、私も疲れましたわ……。
労いのブクマや評価、感想が欲しいですわ……。




