34話 力
しばらく枕で頭を冷やしていると、枕が俺の体温で暖められてしまった。
一旦くるりと反対にしてもう一度冷たい面を頭に当てる。
「はぁ、どうしよう……」
知らない方がいい事というのはこういうことなんだろうな。
この国について、何も知らない頃はただ何も考えずに今後の人生をどうするか、俺の力について、純粋に楽しむだけでよかった。
だが、この世界の事を知ってしまった以上はそうもいかない。
前世で俺は何となく、少しでも世界が良くなればと一日一善を行っていた。
しかし、今世での俺には力がある。
何となくではなく、しっかりと考えて物事を行えば、確実にこの世界を良くすることができるだろう。
本当にそうなら、やらなければ俺の気が済まない。
いやぁ、知らなければ俺の力を全部俺の為に使うことも出来たんだけどな。
そう、残念に思いつつも、俺の口元には笑みが零れていた。
しかし、俺には力があるとはいえ、それは小学生ではある程度のものだ。
今のままの力ではせいぜい小金持ちになる程度で、この国から貧困を無くしたり、社会制度に改良を加えることなどはできるはずがない。
いくらスキルが大量に手に入れられたとしても、所詮は個人だ。できることには限りがある。
だったら……更なる力を手に入れないといけない。
金、権力、人脈、知識、影響力。これらの力を手に入れられることが出来れば、それを世界のために使う事だって可能になる。
幸いな事に俺には非常に大きなアドバンテージが2つもある。
まずはスキルの存在。毎日増え続けるスキルを駆使すれば、普通の人間では何年もかかるようなことでも、俺なら遥かに短い時間で身につけることができるだろう。
勉強でも、運動でも、芸術でもいい。必要な能力があれば、それに関係するスキルを手に入れればいい。
つまり、俺には努力の効率そのものを大きく引き上げることができる。
そして、もう一つ……俺には前世の知識がある。
歴史に大幅な違いがあるとはいえ、結果として今は似たような歴史に収束している。
見た感じの家電なども俺が知っているようなものと差異はない。
つまり、これから起こることの大まかな流れはわかるという事だ。
とは言っても、俺がその全てを完璧に覚えているわけではない。
歴史の本を読んでいる時にも気付いていたが、俺の記憶は明らかに多くが失われている。
《記憶》のスキルもあるため大丈夫だと考えていたが、どうやら《記憶》は現在の記憶力を強化するもので、既に失われてしまった記憶を取り戻すことのできるスキルではないようだ。
その為、《記憶》を獲得する前に失われてしまった記憶や、そもそも前世でも忘れてしまったものなどは思い出すことが出来ない。
だから、今微分積分とか、molの計算とかをしろと言われても確実に手に負えないだろう。
まぁ、《算術》や《学習》などのスキルがあるため、勉強してからなら話は別だろうが。
だが、そもそもその全てを覚えている必要も無い。
感覚として持っているだけでもいいのだ。
スマホやインターネット、前世の俺が子供の頃には無かったが、大人になった頃には急激に普及が進んだものなどは肌感覚で分かっている。
それが分かれば、その時を待って対策を練り、その利益にあやかることだってできるだろう。
だが、その具体的なやり方が分からない以上、結局は学生の本分である勉強をするというところに戻ってくる。
俺はまだ小学一年生なのだ。金も無ければ、自由に使える時間だって限られている。
だが、学びは制限されない。
確かに小学校での勉強は俺にとっては分かることばかりかもしれない。
しかし、そこでは今の俺に欠如しているであろう、この世界での常識を学ぶことができゆ。
前世での常識がこの世界でも通用するのか、その確認ができるのだ。
そう、結局、今できるのは、このまま今まで通りに生活を続けていくだけだ。
小学校に通い、習い事へ行き、偶に陽芽やほかの友達と遊ぶ。そしてその合間に将来に繋がりそうな知識を蓄えていく。
そう考えると、少しだけ肩の力が抜けた。
世界を良くするなんて大層な目標を掲げたところで、今すぐ何かができるわけじゃない。
なら、焦る必要もないのだ。
今まで通り毎日を過ごし、その中で少しずつ力と知識を蓄えていく。
そして、いつか本当に動ける時が来たなら、その時に持っている全てを使えばいい。
「……よし」
やることは何も変わらない。
ただ、その先に目指すものが一つ増えただけだ。
そう思うと、不思議とこれからの日々が少しだけ楽しそうに思えた。
すいません、今日は1話投稿です……。




