30話 知らない歴史
次の日から早速図書室での調べ物を開始した。
今まで見つけられなかったステータス以外の前世との違い、期待半分不安半分といった気持ちだ。
図書室に向かい、目当ての本を探して棚の合間を歩いていく。
昨日見つけたあの孤児院について調べられそうな本を片っ端から記憶していく。
「今日は何読むの?」
陽芽が質問してくる。図書室だからかいつもよりも声の大きさを抑えながら耳元で喋ってくるため、少しくすぐったい。
「今日は一旦面白そうな本を探す日にしようかなって思ってる。陽芽も面白そうなのあったら読みなよ?」
「んーん、陽芽ははじめくんと同じのがいい」
そうか……歴史の本を探すのなら、少々子供には残酷な内容のものも混じっているだろう。
ここは小学校の図書室なのだから、そこまで酷いものは無いだろうけど、一応少し警戒しながら探すとしよう。
そう考えながらそれらしい本を記憶し、次の日また図書館に訪れ、その本を手に取る。
まず俺が手にしたのは福祉の歴史の事が書かれている本だ。都合良く孤児院の事について詳しく書かれていそうな本があったため、俺は迷わずこの本を手に取った。
そして、その数ページを読んでみたのだが……そこには衝撃的なことが書いてあった。
「……待て待て待て、日本が分割されていた……? なんの冗談だ?」
俺は最初の数ページに書いてある目次の部分を読んでいたのだが、そこの最初の部分に書かれていた文言を読み俺は思わず声をあげてしまう。
そこに書かれていたのは「分割後の日本」や「日本人民共和国の福祉」などの前世では一切見た事がない文言だった。
「……いやいや、まさか」
流石に見間違いかと思いもう一度よく見てみるが、やはりその文言はそのままだ。
……どう考えてもおかしい。
この世界は前世の世界とかなり似た世界なはずだ。この場所だって前世で見た風景と何ら変わりはない。
なのに、いきなり分割……?
俺の知っている日本は、戦後に連合国の占領下には置かれたものの、東西ドイツや朝鮮半島のように国そのものが二つに分割されたりはしていない。
ましてや日本人民共和国なんて国、聞いたことすらない。
「……どうしたの?」
俺があまりにも同じページを凝視し続けているからか、隣に座っていた陽芽が不思議がって俺の顔を覗き込んでくる。
「あぁ、大丈夫、面白そうなところ見つけたから読んでたんだ」
「……? けどここ、もくじ? だよね」
「そうだけど……まぁ、えっと……あ、これこれ、この絵が可愛くって」
そう言って俺はロケットのイラストを指さす。
「はじめくん、ロケット好きだっけ?」
「……最近ちょっと好きになった」
「ふーん……」
陽芽が少し怪しむように俺の顔を見てくる。
……何で小学一年生相手にこんな苦しい言い訳をしてるんだ俺は、もう少し自然に誤魔化す方法があっただろう。動揺しているのか……?
「陽芽はロケット好き?」
「はじめくんが好きなら好き」
「そういう答えじゃなくて……」
「?」
あぁ、やめだやめ、こんな調子じゃ陽芽に心配されてしまう。
俺は一度本を戻し、深く息をする。
気になる、滅茶苦茶気になるが、このまま読んでしまえばもっと気になることになる。その上、自分の世界に入り込んでしまい、陽芽に変な事を言ってしまうかもきれない。
そうならない為にも、今日は一旦やめにしておこう。
それに、実はもうすぐ1年生の貸し出し禁止期間が終わり、本の貸し出しが解禁されるのだ。
本を借りれるようになれば、家に帰ってからその本を読むことが出来る。
習い事もあるため、時間の確保が難しい上に、俺の体はまだ幼い子供らしく長時間の睡眠を必要とする。
そのため本を読める時間は限られてしまいはするが昼休みの短い時間で慌ただしく読むよりは余程マシだろう。
「今日はもう戻ろうか」
「もう読まないの?」
「うん、今度ゆっくり読むことにした」
「じゃあ陽芽も一緒に読む」
「あぁ、この本は借りて、家で読もうと思ってるんだ」 「…………じゃあはじめくんの家行く」
「それはまた今度ね」
「むぅ……」
露骨に不満そうな顔をする陽芽を宥めながら、俺は先ほどの本を元の場所へ戻す。念のため棚の位置も覚えておく。
しかし……日本の分割、日本人民共和国。
今までならただの架空戦記の設定にしか思えないような言葉が、この世界では当たり前の歴史として本に載っている。
孤児院のことを調べるだけだったはずなのに、とんでもないところに足を突っ込んでしまった気がするな。
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