3話 この世界にはステータスが無い?
皆様、おはようございます、赤さんの起床でございます。
この体は不便なもので、栄養を取ればすぐ眠くなり、そのくせ少し時間が経っただけでお腹がすき目覚めてしまうのである。
とはいえ、もう既に泣き方はマスターした、さっきのように空腹に苦しむことは無い。
「あら、もうお腹すいたの? はじめ君は食いしん坊なのかな?」
そんな優しげな声が聞こえてくる。
イエス、マム、お腹すきました。
その意志を伝えるべく先程のように一泣すると、お母さんは俺の言葉など一切分からないにも関わらずちゃんと察し、すぐにまた飲ませてくれた。
いやあ、何たる幸せ、赤ちゃんの頃の記憶などとうに忘れてしまっていたが、こんなにも幸せだったのか……。
生まれてからまだ数時間しか経っていないのにも関わらず幸せを再確認していると、少しずつこれから起こるであろうことについて思い出してきた。
恐らく、これから俺はある程度状態が安定してすぐに機械に通され、ステータスを測られるだろう。
ステータスではの5つの能力値を知ることができる。高ければ高いほど社会において有利になるため、皆死にものぐるいにこのステータスを上げようとし、会社はステータスが高い者を採用する。
とはいえ、赤ちゃんのステータスはどの赤ちゃんもほとんど変わらない。じゃあ何のために測るのか。その理由はスキルだ。
スキルはステータスでは測れない特異な才能の事を指すものである。どんなスキルであろうともそれを所有しているだけで基本的にはその分野の仕事に就くことは容易になる。
そのため、スキルがあると分かった段階で親はそれに合った子育てを赤ちゃんの頃から行う。故にステータスの測定はできるだけ早くおこないたいものなのだ。
前世の俺はスキルも無かったため、しがない雇われのコンビニ店長に就いていた。
しかし、今俺は生まれ変わり、新たな人生を歩もうとしている。つまり、もしかしたらスキルやステータスも新たなものになっているかもしれない。そこで素晴らしいスキルを手に入れられれば華々しい未来が待っているだろう。
体調もかなり安定してきたので、早速確認してみようかとも思ったが、ひとつの考えが頭をよぎったため思いとどまることにした。
その考えとは、今現在赤ちゃんの頃しか味わうことの出来ないこのひとときに水を差したくないという考えだ。
有用なスキルがあったりするのであれば何も問題は無いのだが、もし仮にスキルも何一つ持っておらず、その上大人になったとしてもあまり数値の変わらない「運」の数値がかなり低かったりすればそれからの時間、俺の思考は将来の不安でいっぱいになってしまうだろう。
そうなればこの幸せな時間は一瞬にしてなくなってしまうかもしれない。
もしそうなるならばステータスなど見ない方がいい。
どうせ測られる時に大人達の反応を観察すれば良かったのか悪かったのかくらい判断できる。良かったらその時初めて見れば良いし、悪かったならある程度成長してステータスの存在を教わった時などまで見ないようにして今は束の間の幸せを噛み締めればいい。
その考えから俺はステータスを見るの辞め、とりあえずはひと泣きしてお母さんに構ってもらうことにした。
少し泣けばお母さんはあわあわと慌てながらも、俺にご飯をあげようとしてくれていた。
先程いただいたばかりなので特にお腹は減っていないが、据え膳食わぬは何とやらだ。慣用句としての意味では無く、文字のままの意味だが。
そうやって眠くなったら寝て、お腹が減ったら泣いてを繰り返していると、いつの間にか窓から差し込む光が朱色に染まっていた。
どうやら生まれてから半日ほどが経過したようだ。
その間、俺の体調が安定してからは看護婦や医者が部屋に訪れて健康診断のようなものを行ったり、別の部屋に連れて行って体重計測などを行ったりはして。
……だが、肝心のステータスの測定がいつまで経ってもおこなわれない。
そこまではっきりした記憶がある訳では無いが、普通ならもう測られていてもおかしくないはずだ。体調に関してもすこぶる元気なため、体調の不安定さは理由にならない。
その上、周りの会話に耳をすませてもそれらしい会話は一切聞こえてこない。
……なにか、おかしいぞ?
測定が数日遅れた程度で大きな問題が起きるわけではないが、それでも病院側が何の説明もしないというのは考えにくい。
もしかすると、この病院には測定機がないのだろうか。田舎の小さな病院ならともかく、ここは見たところ、それなりに設備の整った場所だ。少なくとも、測定機の一台も置けないほど困窮しているようには見えない。
様々な可能性を考えてみるが、どれもしっくり来ない。
それに、妙なのはステータスが測られないことだけではない。お母さんの態度もだ。
子供のステータスを知ることはかなり優先度が高いはずだから、それが遅れているのになんの確認もしないというのは少し不自然だ。
疑問に思いながら情報を得ようと周りを見渡していると、視界の端に一冊の本が映った。
これは……育児本か? 出産前に読んでいたのか、何ページか捲られた状態で置かれている。
「あら、この本が気になるの?」
そう言うと育児本を手に取り俺の前でパラパラと捲ってくれた。
……そうか、育児本なら間違いなくステータスのことについて書いてあるはずだ。前世では独身だったし、ぶっちゃけ詳しくは知らないから、もしかしたらステータスについても勘違いしている部分があるのかもしれない。
そう思いながら捲られていくページを見にくいながらも一生懸命内容を読み取っていく。
しかし、どれだけ読み進めてもステータスの文字は1文字も見つからない。
ステータスやスキルによって子育ての方針が変わるというのは流石に常識であるため、その事が一切書かれていない事などありえない。
だが……可能性はある。
「この子、本に興味があるの……? 生まれて直ぐに本を読みたがるなんて……我が子ながら末恐ろしいわね!」
そういいながらお母さんは嬉しそうに俺の頬をぷにぷにとつつく。
そんな姿とは裏腹に俺は頭の中がこんがらがって軽いパニック状態に陥っていた。
…………もしかしたら、この世界にはステータスが無いのかもしれない。




