27話 奥の手
今の陽芽に何とか説明して宥めるのは難しいだろう。
陽芽1人ならまだ何とかなるが、そこに悠莉の邪魔まで入るとなると、難易度は一気にハードモードになる。
そのため、今は陽芽を宥めるよりも先に、悠莉を黙らせるという方針で行く方が良さそうだ。
「悠莉……僕は男だよ」
「…………え?」
「勘違いしてるみたいだから訂正しておくね」
「……あ、え……けど…………」
よしよし、効いてるみたいだ。悠莉の理論だと、俺と陽芽が女の子同士だから結婚できないと言ってるみたいだし、これで引いてくれるならそれでいいんだが……。
そのまま引いてくれるのを待ってみるが、悠莉はそれでもまだ諦めてくれないようで、ついには一線を超えてしまう。
「そ、それなら、女の子みたいな男の子なんて……かっこよくないもん!!」
「…………は?」
低い声が聞こえた。
俺ではない。
隣を見ると、さっきまで泣きそうになっていた陽芽が、悠莉の方をじっと見ていた。
こんな陽芽を俺は見た事がない。
…………あ、これ、バチギレですやん。
くっ、これじゃあ俺が奥の手として隠していた高レベルの《演技》による被害者の号泣をしてしまえば火に油を注ぐ結果になってしまう可能性が高い!
くっ、早急にどうにかして悠莉を黙らせなくては……。
そんな俺の焦りを他所に、悠莉は挑発を続ける。
「だって、はじめよりも僕の方がかっこいいし……」
「……は? 何言ってるの?」
「だ、だから…………」
……やばい、陽芽が悠莉に掴みかかろうとしている!
陽芽は体力テストでは普通くらいの体力だとなっていたが、俺から離れたくない時などに出す力はかなり強い。
俺ですら剥がすのが困難になるほどだ。
そんな陽芽が悠莉に牙を向けば……怪我人が出る!
陽芽に前科をおわせる訳には行かない。
その一心で俺は陽芽の前に飛び出た。
「ひっ、な、なにっ!?」
俺と陽芽の剣幕に悠莉は思わず壁に向かって後退りする。
俺はそのチャンスを見逃さず、悠莉を壁に向かって追い込み、その口を手で塞いだ。
悠莉を追い込むために壁を付いたことにより、ダァン、と言う大きな音が教室内に響く。
「むぐっ!?」
「ねぇ、悠莉……そんな事言わないでよ」
「っ!?!?!?」
「次そんな酷いこと言ったら…………分かるよね?」
俺がそう脅すと、悠莉はガクガクと首を縦に振った。
よし、作戦成功だ! 少し脅す形になってしまったが、やむを得ない。2人を守るにはこうするしかなかったのだ。悠莉がこれ以上余計なことを言わなければ、陽芽も落ち着いてくれるだろう。
俺は悠莉の口から手を離し、念のためもう一度確認する。
「もう変なこと言わない?」
「…………」
「悠莉?」
「…………う、うん」
何故か返事が遅かったが、ちゃんと理解してくれたらしい。これで一安心だ。
さて、次は陽芽だな。
「陽芽、もう大丈夫だから……」
「…………」
「……陽芽?」
返事が無いため振り返ると、陽芽はぷくーっと頬を膨らませて俺の腕を引っ張り悠莉から引き剥がした。
まだ怒っているのかと思い、陽芽を止めようと考えるが、先程までの悠莉にキレていた時とはまた様子が違ったため、とりあえず警戒態勢だけを敷き、話を聞くことにした。
「えっと、陽芽? 」
「…………ふんっ」
陽芽はぷいっと顔を背けて話をしてくれはしなかった。
怒っている……というよりは拗ねているといった感じだな。怒りのランクが一段階落ちたことは間違いないようだから、一旦は一件落着か。
「もういいもん、早く図書館行こ」
「え、あぁ、うん」
拗ねてはいるものの、俺にくっつくというのは変わらないようで、俺の腕を抱いたままグイグイと引っ張って俺を図書館へと連れていこうとしていた。
あの、もう今から行っても5分も見れないのですが……?
だが、これに従わなかったら後が怖いので、仕方が無く文句は言わずにそのままついて行くことにした。
「…………あ…………え?」
教室に残された悠莉は何が起こったのか分からず、異常なまでに脈打つ心臓に不思議に思いつつ、沸騰しそうなほど熱くなった顔を両手で冷まそうと包み込んでいた。
しかし、顔の火照りは一向に治まらず、それどころかどんどんと熱くなっていく。
2人を一緒にからかっていたはずの友達は先程の2人の剣幕を前に蜘蛛の子を散らすように逃げてしまっており、教室に仲の良い友達は残っていない。
「な、何なの……あれ……」
そう呟きながら、悠莉は先程の光景を何度も頭の中で思い返す。
壁際まで追い込まれたこと、口を塞がれたこと、いつもより少し低い声で名前を呼ばれたこと。そして……すぐ目の前にあった、はじめの顔。
可愛い女の子だと思っていたはじめの……その美しさ。
「…………っ」
思い出した瞬間、また顔が熱くなった。
怖かった、確かに少しだけ怖かったはずなのに、それとは別の何かが胸の中でずっと暴れている。
心臓がうるさい、顔も熱い、なのに不思議と嫌な感じはしない。
「……なんなの、ほんと……」
悠莉は意味も分からないまま、まだ鼓動が激しい胸元をぎゅっと握った。
陽芽の名前を漢字にしてみたのですが、どうでしょうか? 読みにくければ直します。
あ、あと、今日は4話投稿する予定です。




