23話 席が近くて良かった……?
そんなやり取りをしているうちに、体育館の中には続々と新入生が集まってくる。
それぞれ緊張した顔をしていたり、周囲を興味深そうに見回していたり、親の姿を探して何度も後ろを振り返っていたりと反応は様々だ。
俺も何となく後ろを振り返ってみる。
「はじめーっ!」
その瞬間、お母さんがぶんぶんと両手を振ってきた。
目立つ目立つ、やめてやめて。
しかもその隣では、みこちゃんが頭を抱えている。
なんか、うちの母がすみません。ご苦労をおかけします……。
また少し離れた所を見ると今度はひめのお父さんがこっちを見ていた。
しばらくして俺の視線にも気付いたのか、ニコッと笑い、身振り手振りで俺に何かを伝えようとしてきた。
えーっと、なになに? 両手を合わせて、それを離して、片方の手で片方の手をボコボコに…………。
あ、これ、手離せってことか。
けっ、親バカめ、こんな小学生に嫉妬すんなよな。
俺は見せつけるように繋いだ手を少し挙げて、フンッと笑ってから前を向いた。
すると、ちょうど入学式が始まるところだったようで、司会の先生の声が体育館内に響いた。
その声に、それまで騒がしかった子供たちも多少は静かになった。
しかし……。
「ママー!」
「トイレ行きたいー」
「……ひぐっ、ぐすっ」
まぁ、まだ子供だよなぁ。
まだ入学したばかりなんだから当然といえば当然だが、幼稚園から劇的に成長している訳ではない。
見た目だけなら少しお兄さんお姉さんになっているが、中身はまだまだ子供だ。
それに比べればひめは大人しい方なのだろう。
「はじめくん」
「ん?」
「手、ぎゅってして」
「…………はいはい」
ひめの呼び掛けに答えて手をしっかりと握ると、満足そうに笑みを浮かべながらもう一度前を向いて先生の話を聞き始めた。
……大人しい方、だよな?
少なくとも騒いではいないからな……うん。
そうやってひめと戯れているうちに式は進行していった。
なんというか、懐かしい感じがするなぁ。
前世でも幼稚園の記憶とかはもうさっぱりなくなっていたが、小学校の記憶は多少覚えている。
入学式……はどうか分からないが、少なくともこういう式のようなものは何回も出席していた。
俺はその度に寝ちゃって友達に起こされてたっけな。
だが、久々に聞いた話は思ったよりも面白い……事は一切無く、実につまらないものだったが、ひめが定期的に手を握ることを要求してくるため、眠らずには済んだ。
そして、体感ではかなり長く感じた入学式もようやく終わりを迎えた。
「これで入学式を終了します。新入生の皆さんは、先生の指示に従って教室へ移動してください」
その言葉が聞こえた瞬間、俺は小さく息を吐いた。
「はぁ、やっと終わったよ…………」
やはり式典というものは、何歳になっても退屈なものらしい。前世では寝ていたからまだマシだったのかもしれないが、今世では割とマジめに聞こうと少し頑張ったせいで余計退屈に感じた。
「はじめくん、終わった?」
「終わったよ」
「じゃあ、もう離れなくていい?」
「いや、教室でも席あると思うよ」
「…………」
やめてっ! そんな絶望した顔をしないでっ! こっちまで心苦しくなるじゃない!
「でも、多分近くにはいられるから」
「ほんと?」
「多分ね」
「ほんと?」
「……うん、本当」
卒園式での一件以降、ひめの疑り深さが酷くなった気がする。
まぁ、それはそうとして、出席番号的に近くの席になる事はほぼ確定している。
俺があかつき、ひめがあおばだからな。
だから嘘は言ってないが…………俺からひめにくっつきに行くということはあまりない為、ひめが俺とくっつきたい場合後ろを向かなくては行けなくなる。そうなると怒られるのは確定でなんだよなぁ。
まあ、その辺りはひめ自身に頑張ってもらうしかない。
流石に授業中までずっと相手をしていたら、俺まで一緒に怒られてしまうからな。
「それじゃあ、みんな先生についてきてねー!」
先生の声に従い、俺達はぞろぞろと体育館を出て教室へと向かう。 廊下には『にゅうがくおめでとう』と書かれた色紙や、上級生が描いたと思われる絵が飾られており、いかにも小学校といった雰囲気だ。
「ここがみんなの教室ですよー!」
先生が扉を開けると、子供達から一斉に歓声が上がった。
俺も中へ入り、自分の名前が書かれた机を探す。
「あ、あった」
前から三番目の右端の席。そして、その一つ前には…………。
「はじめくん!」
満面の笑みを浮かべたひめがいた。
「ほら、近かっただろ?」
「うん!」
先程までの絶望顔はどこへやら、嬉しそうに何度も頷いている。
うんうん、これなら大丈夫そうだな。
「はじめくん」
「ん?」
「ずっと後ろ向いてるからね!」
「ダメだよ!?」
前言撤回、全然大丈夫じゃない。
5話投稿したので褒めてください()
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