22話 小学校でも離れません!
あどけない表情をした子供たちがピチッとしたスーツスタイルの服装に身を包み、初めての通学路を歩いていく。
その顔は多少の不安を含みながらも、確実に大人の階段を1歩踏み出した凛々しい顔立ちに見える。
そう、今日が待ちに待った入学式の日である。
「はじめ君……良かった、本当に一緒の学校だった……」
俺の腕に抱きつきながら、ひめは少し瞳を潤ませる。
卒園式での事を引きずってか、あれ以降、偶に会う時には毎回のように本当に小学校へ一緒に行けるのかと聞いてくるようになってしまっていた。
何度説明しても本心から信じることはできなかったようだが、こうやって一緒の小学校に登校することによってやっと信じられたようだ。
そうして、その元凶であるひめのお父さんは俺たちの1歩後ろを歩きながらにこやかに笑っていた。
俺、こいつ、嫌い。
「ははは、それにしてもあの冗談をずっと信じてるなんて、ひめも困ったものだ…………」
ふざけんな、もう1発蹴ってやろうか?
そんな眼差しでひめのお父さんを見つめると、流石にその視線に気付いたのか、すすすっとひめに隠れるように場所を移動しやがった。
今度もう一発蹴る。
「はじめ…………スーツ姿も……可愛すぎっ」
「ちょ、鼻血出てるって! は、早くティッシュ……!」
俺の家族はお母さんとみこちゃんが来てくれている。
みこちゃんは別に俺の家族という訳では無いのだが、ことある事に俺のお世話やお母さんのサポートをしてくれている人なので、この場所にいたとしてもなんの違和感もなくなってしまった。
この2人の関係について、お母さんについてはまだ2人とも話してはくれないが、こうして2人が幸せそうにしているのだから一旦は聞かないことにしている。
「はじめっ! 次はポーズとって!」
「ママ、もう行こうよ……」
「いやまだよっ! あと百枚は……!」
お母さんも変わらないなぁ、すんごいデジャブを感じる。
周りの人達にも見られているし、非常に居た堪れない。
「もうっ、行くよって!」
「あぁっ! ご無体なっ!」
こうやって無理やり引っ張ってくのもデジャブだぞ? それでその後みこちゃんに怒られるんだよな。
……と、思っていたが、みこちゃんは予想と反して特に怒ったりはせず、先を急ぐように俺と一緒にお母さんを引っ張っていってくれた。
珍しいこともあるものだな、みこちゃんはいつもお母さんに説教してばかりなのに。
そんなトラブルもありながらも、俺は入学式の会場である体育館に通された。
このまま何事も無く終わればよかったのだが、ここは小学校だ。幼稚園の頃とは違い、あることが決定的な問題になってしまうのだ。
そう、それは…………。
「えーっと、ひめちゃんとはじめくんだね? …………その、入学式の間はちゃんと離れて座らなきゃ駄目だよ?」
「…………やだ」
そう、ひめが俺にべったりなことである!
先生の言葉を聞いたひめは、俺の腕をさらに強く抱き締めながら、ぶんぶんと首を横に振った。 俺としては予想通りの反応である。
「で、でもね? 入学式ではみんな決められた席に座ることになってるの。ひめちゃんの席は隣だから、ちゃんとそっちに…………」
「やだ、離れないもん」
「でも…………」
先生は困った顔をしながら唸り始めてしまう。
そりゃそうだ、ここまでべったりな小学生というのも珍しい。というか幼稚園だとしても珍しい。
無理やり引き剥がすという事もできるが、どうにも俺はひめには弱いんだ。出来る限り優しくしてやりたい。
とりあえずは優しく言い聞かせてみるか…………。
「先生……」
「え、あ、はじめくん、どうしたの?」
「手、繋ぐのはいい?」
「えー、本当は駄目なんだけど……このままよりかは……」
少しの間悩んだ後、先生は吹っ切れたような表情になり、グーサインを出す。
「うん、いいよ!」
「だってさ、ひめ……ずっと抱きついてたらいつか本当に怒られちゃうよ、だから今はこれで我慢しよ?」 「……うん」
うむ、ひめも成長したな。うんと聞き分けが良くなった。
俺が手を差し出すと、ひめは少しふふくそうにしながらも、すぐさまその手を両手で包み込むように握った。
「えへへ……」
それでも満足にするひめを見ると、なんだかこちらまで嬉しくなってくる。
これなら一応、それぞれ自分の席には座れるから、万事解決だ。
「じゃあ、ちゃんと座ろうな」
「うん!」
先程までの頑なな態度はどこへやら、ひめは素直に自分の席へと座った。 俺もその隣に腰掛ける。
周りの子供達がちらちらとこちらを見ているのが少し気になるが、これくらいなら幼馴染同士としてギリギリ許される範囲だろう。
「ねえ、あの二人ずっと手つないでる」
「なかよしなのかな?」
「付き合ってるのかな?」
最後のやつ誰だ、ませすぎだろ。




