19話 さよならぼくたちのようちえん
幼稚園に通い始めてからの日々は、思っていた以上に長く感じられた。
子供の体になった影響なのか、それとも毎日が新鮮だったからなのかは分からない。
だが、そんな幼稚園生活を振り返ってみての感想は……思っていた数倍楽しかった、の一言に尽きる。
流石に身体能力を披露するということは化け物扱いされるためできない。
しかし、歌やお絵描きなどでほんの少しだけ俺の才能を見せつけることが出来、それによってちやほやされるというのはかなり気分が良かった。
それに、幼稚園児だからと遊んだりしてもついていけないと考えていたが、それも間違いだった。
心はおっさんといえど体は子供だ、積み木遊びやお遊戯などをやるだけでもかなり楽しいのだ。
これに関してはお母さんにあやされたりするのも大変心地よい事だという経験があったのだから分かっていた事だったのだが、ここまで楽しいとは思っていなかった。
こういう事からも、幼稚園は十分楽しい場所だったのだが、それ以上に楽しい事があった。
…………それは、幼稚園ではステータスでの教室分けなどが無かったという事だ。
まぁ、この世界にはステータスがないのだから何もおかしい事では無いのだが、前世では何をやるにしてもステータスを基準にして分けられていた。
さらにスキルの有無でも分けられており、有用な高レベルスキルを所持している人は幼稚園などには通わず、最初から専属の保育士や教師をつけてマンツーマンで指導を行うというのが常識だった。
これによってスキル持ちやステータスの高いものは将来さらに能力を発揮できるようになっていたが、それが無い者たちはそもそも幼稚園や学校に通え無かったり、通えたとしても扱いはあまり良くなかった。
だからこそ、この世界ではどの園児の待遇も同じだという事がたまらなく嬉しかったのだ。
ただまぁ、色々とトラブルもあった。
運動会でお母さんが俺の事を応援しすぎて若干引かれていたのを子供の振りをしながら何とかカバーしたり、を出しすぎて先生達から妙に注目されたり、ひめが俺以外の子と遊ぶのを嫌がってちょっとした喧嘩になったりと、振り返れば何も起こらなかった日の方が少ないくらいだ。
それでも、不思議と嫌だった記憶はほとんど無い。
むしろ、そういう出来事も含めて全部楽しかった。
…………しかし、そんな幼稚園生活も今日で終わりだ。
そう、今日は卒園式である。
幼稚園の玄関を抜け、いつもの廊下を歩いていく。
毎日のように通った場所なのに、今日に限ってはどこか違って見えた。
壁には俺達が作った飾りや絵が並び、廊下の所々にはそつえんおめでとうとあまり綺麗とは言えないが、心のこもった暖かな字で書かれた紙が貼られている。
……なんだろうな、まだ式すら始まっていないのに、少しだけ寂しい。
入園式では皆、家族と一緒に入った広場だったが、年長さんになった今では皆一人で会場に入れるようになっている。
泣いてる子もいるし、あまり何が起こっているの分かっていないような子も居るが、それでも皆の成長が見れて、俺も同じ卒園生であるのにも関わらずなんだか親のような気分になってしまう。
「…………懐かしいな」
あの日は、お母さんに写真を撮りまくられ、隣に座ったひめにひたすら凝視され、最後には突然抱きつかれたんだったよな。
……改めて思い返すと、初日から濃すぎないか?
「はじめくん」
「おっと」
そんなことを考えていると、聞き慣れた声と共に後ろから抱きつかれる。
ちょうどいいタイミングに少し面白く思いながら振り返ると、案の定そこにはひめが居た。
「ひめ、おはよ」
「おはよう」
そう返事をしながらも、陽芽は相変わらず俺から離れようとはしない。
……三年前から本当に変わらないな、この子。
入園式の時は突然抱きつかれて困惑していたというのに、今ではこうして抱きつかれることが当たり前になってしまっている。 慣れとは恐ろしいものだ。
「今日で幼稚園終わりだね」
「…………うん」
ひめは一言だけそう返答すると、目に涙を貯め始めた。
ま、まずい、3年間一緒に過ごしているから分かるが、この感じはかなりの大泣きをする流れだ。
卒園式で号泣しているのもそれはそれで悪くはないが、出来れば笑顔の方が良い。
…………幼稚園生活最後の仕事だ、ひめを笑顔にしてあげよう。
昨日投稿できなかったので今日多めに投稿します。




