17話 幼稚園生活
「はじめ、寂しくなったら先生に言うんだよ、すぐ行くからね」
「う、うん」
「ママの事、忘れないでね?」
「忘れないよ……半日で帰ってくるし……」
「うぅぅ、やっぱり嫌だぁっ」
お母さんは昨日のひめと同じような様子で幼稚園のバスに乗ろうとする俺に抱きついてくる。
お母さん……嬉しいけど、毎日これだったら大変なんだけど……。
お母さんは一向に離れようとはしなかったが、何とかその拘束から抜け出し、俺は幼稚園バスに乗りこんだ。
……さて、いよいよ始まりました、幼稚園生活。
馴染めるだろうかと心配思ったりもしていたが、どうやらそれは杞憂だったようで、割としっかりと馴染めている。
その要因の1つとして園児が思ったよりも多様性に溢れているということがあった。
静かな子も居ればなんかずっと叫んでる子も居る。
だからこそ、俺が少し落ち着いていたとしてもそこまで違和感は無かったのだ。
…………だが、懸念点もある。
「…………ぎゅー」
この子である。
青葉陽芽。俺と同い年の女の子で、どうやら俺の事を異常なまでに気に入っているらしい。
幼稚園での生活が始まった初日、ひめは俺を見つけた瞬間、俺に向かってタックルするくらいの勢いで抱きついてきた。
「はじめーっ!」
「ぐふっ!」
入園式で別れてからまだ1日しか経ってないのにまるで何年も会っていなかったくらいの勢いだ。
一発目がこれなのだから当然それ以降も俺にベッタリであり…………。
「はじめ、こっち」
「あ、うん」
「お絵描き、しよ」
「分かったよ」
「……トイレ」
「そ、それはダメだって!」
こんな調子である。
何をやるにしても俺と一緒、トイレの時は何とか説得して別々にして貰えるようにしたが、それ以外は俺に抱きついて離れてくれず、保育士さんも微笑ましい程度にしか見てくれ無いため、俺の隣は完全にひめの専用席になってしまった。
まぁ、少し動きにくさはあるが、何かする時はちゃんと離れてくれるし、俺に迷惑をかけようと言う気持ちも無いようで、大人しくしているため、別に嫌という訳では無い。
それどころか、ここまで俺と警戒心も無く仲良くしてくれる子が居るというのは情報を集めると言う点でも有益な事でもある。
友達を利益で見るのはどうかとも思うが別に俺だってその為だけに仲良くしようとしているわけでも無いから、許して欲しい。
それに、ひめは子供の中ではかなり綺麗好きな方なようだ。大人の感性で言えば幼稚園の子供が色んなものを触った汚れた手で触れられるというのは少し忌避感がある。
が、ひめはちゃんと手も洗うし、服なども綺麗にしている。育ちの良さがひしひしと感じられる。
そういう子ならベタベタくっつかれても不快ではない。こんな子だったらここまで懐かれるのは嬉しいくらいだ。
そのうえでこの世界のことを知れるのなら至れり尽くせりだ。
そんな訳で、保育士さんから少し離れた位置に行けるタイミングでひなに色々と聞いてみることにした。
「ひめちゃんのおうちって、テレビある?」
「ある」
「おっ」
やっぱりあるのか。となればやっぱりうちに無いのは珍しいのだろうか。
「どんなの見るの?」
「……ねこ」
「ねこ?」
「ねこ、でるやつ」
…………番組名は分からないか。
まあ三歳児相手に情報収集する以上、こんなものだろう。
「じゃあ、ひめちゃんのおうちには誰がいるの?」
「パパと、ママ」
「そっか」
やはり普通に両親が揃っている家庭もあるらしい。
当たり前のことではあるのだが、俺にとってはそれすら貴重な情報だ。
俺がそんなふうにひめに色々と質問していると、今度はひめが俺に話しかけてきた。
ここまで過ごしてきてひめが俺に話しかけてくることは殆ど無かったので少し面食らいながらも話を聞いたを
「はじめくん」
「ん? どうしたの?」
「はじめくんって……女の子?」
……ん? どういう事だ?
「ぼく、おとこのこだよ?」
「ほんと?」
「ほんとだよ!」
何故疑う。
俺がそう返すと、ひめは納得いかない様子で首を傾げながら、また俺の顔をじっと見つめ始めた。
「でも……かわいい」
「…………」
なるほど、そういうことか。
確かに俺の《魅力》はかなり高くなっているし、昔からお母さんにも可愛い可愛いと言われ続けている。
とはいえ、男として生きている身としては、女の子と間違われるほど可愛いと言われるのは少し複雑だ。
「かわいいけど、おとこのこ!」
「……そっか」
ようやく納得したのか、ひめは小さく頷いた。
しかし、すぐに少し悩んだような表情を浮かべた。
「じゃあ、ひめと結婚できないの?」




