16話 初めての友達は距離がおかしい
「いやぁ、すみませんねぇ! うちの娘がいきなり抱きついたりしてしまって!」
「いえいえ、仲良くしてくれるなら嬉しいですよ!」
「ぎゅー」
入園式が終わり、今後の説明などが終わった後、俺達は幼稚園の外で話をすることになった。
女の子の親は今日はお父さんだけで来ているようだ。
ま、その話の中に俺は居らず、俺はと言うと入園式の頃からずっと女の子に抱き着かれたままである。
もう流石に危険もないだろうから振り払う事もできるだろうが、この2人の親の手前、あまり仲の悪い所を見せるというのも憚られる。
別に減るもんでも無いので、仕方なく抱き着かれたままのこの状況を受け入れている。
「あ、そうだ、自己紹介がまだでしたね、青葉と言います、どうぞこれからよろしくお願いします」
「あっ、よろしくお願いします……えっと、私は……」
「あぁ、大丈夫ですよ、ほら、陽芽も挨拶するんだ!」
「あおばひめ……3歳」
父親に自己紹介を催促されたひめは小さな声でそう自己紹介した。
父親の言う事を素直に聞いているのを見ると、悪い子では無いのだろうが、どうしていきなりこんな突飛な行動に出てしまったのだろうか?
「ほら、はじめも!」
「あかつきはじめ、3歳です!」
元気よく挨拶すると、お母さんは誇らしげに俺の頭を撫でながらはちゃめちゃに褒めちぎってくれた。
というか、お母さんのテンションは外に出ても変わらずこんな感じなんだな……勝手に内弁慶タイプだと思っていたんだが。
俺がそんなことを考えているうちにもお母さんとひめのお父さんは話を続ける。
「いやぁ、それにしても人見知りの激しいひめちゃんがこんな大胆な行動に出るなんて…………よっぽど気に入ったんですね」
「そうなんですか?」
「えぇ、いつもなら知らない人が居たら私の後ろに隠れてしまいますし、今日も席につくまではぐずって仕方がなかったんですよ?」
確かに、席につく時ひめはお父さんにおんぶされながらここまで来ていた。
しかし、俺を見つめ始めてからはちゃんと席に座っていた。
となると、俺がひめにとって落ち着くような容姿をしていたとか、初めての場所で緊張してる中、自分と同じ子供が近くにいて安心したとかそんなところだろうか?
「陽芽、はじめ君のどこがそんなに気に入ったんだ?」
「…………」
お父さんにそう聞かれ、ひめは少しだけ顔を上げる、そしてまた俺の顔をじーっと見つめた。
「……かわいいから……すき」
「っ!」
その瞬間、お母さんの肩がビクッと跳ねた。
あ、まずい、この流れは…………。
「だ、だよねぇぇっ!? うちのはじめ君、可愛すぎるよねぇっ!?」
やはり食いついたか……。みこちゃんが俺の事を可愛いと言った時も同じように大袈裟に自慢していたからもしかしたらと思ったがやっぱりこうなったか。
このままだとあと小一時間俺の可愛いところを話し始めるだろうから、何とかしなくては……!
「お、お母さんうるさい〜!」
「えっ!? あっ、ごめんっ、け、けどもっと可愛い所を伝えなくちゃ………っ!」
「こーら、ダメでしょ? 落ち着きなさい? ごめんなさいね、この人はじめ君の事になるとちょっとおかしいので……」
「いえいえ、子供が可愛いってのは親なら誰でも分かりますから!」
ひめのお父さんは快活に笑いながら俺の顔を見つめる。
「それにしても、この歳で面食いとは……やるなぁ」
「…………ぎゅー」
親たちに好き勝手言われているのを全く気にせずにひめは俺に抱きつき続ける。
しかし、それはひめのお父さんがひめを俺から引き剥がすことによって終わりを迎えた。
「ほら、もう帰るぞ、美味しいご飯作ってやるからさ」
「やぁ! やだっ!」
ひめは激しく暴れるも、流石に大人の力には勝てず、俺から引き剥がされた。
「それじゃ、家事も残っていますので、今日はこの位で……これからもよろしくお願いしますね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
そう言って軽く頭を下げ合うと、陽芽のお父さんは暴れる娘を抱えたままこちらに背を向ける。
「やぁ! はじめ! はじめぇ!」
「ば、ばいばい……」
「いやぁぁっ!!」
凄い泣き叫びようだ、別に今生の別れという訳でも無い……というか明日になればまた会えるのだからそんなに泣くことはないのだが、子供にはそんな事が理解できるわけもない。
ここまで泣き叫ばれると、流石に可哀想になるな。
やがて2人の姿が見えなくなると、お母さんが俺を抱き上げてこっちも帰ることになった。
「はじめ君、お友達できて良かったね」
「うん!」
まぁ、ちょっと濃いが、友達ができたのは間違いない。
幼稚園に馴染めるかと心配していたが、こんなに早く友達ができたのは素直に喜んでもいいだろう。




