10話 深夜の育児本攻略作戦
それから約2ヶ月は特に何の情報も得られなかった。
ただひたすらに赤ちゃん生活を満喫させてもらいました。
そんな中、転機はいきなり訪れた。
「それじゃ、おやすみ」
「…………」
寝たフリをして目を閉じていると、お母さんは俺が寝たと勘違いし、自分も寝ようとベッドに入る。
俺は目を少しだけ開け、ちらりと視線を横に移す。
お母さんはベビーベッドのすぐ横にベッドを置いているため、あまり動かなくても少し首を傾けるだけでその様子は伺える。
もう夜なため真っ暗になっているが、同じようなことを何度も繰り返していると《夜目》というスキルが手に入ったことにより、顔がある程度見える程度には夜でも周りが見えるようになった。
しばらく様子見をし、お母さんがしっかりと眠ったのを確認した後、全身に力を集め、思い切り踏ん張る。
そして、手で力いっぱいベッド押し出す!
「……んー!」
するとあら不思議、何とか座れたではないか!
恐らく、生後3ヶ月で座ることができる赤ちゃんなど俺くらいだろう。
あれ以降《身体》のスキルはレベルをあげていないため、急激な成長は無いが、それにしても赤ちゃんの成長は中々に早いため、それにスキルが乗ることによって普通の赤ちゃんとは比べ物にならないスピードで体を動かせるようになっているのだ。
ここまでお母さんにバレてしまうのを恐れてあまり激しく動かないようにしていた俺だったが、今になっていきなり動き出したのには理由がある。
俺は座った体制から今度はうつ伏せの状態になり、ベビーベッドの下の方へとずり這いしながら何とか進んでいった。
目標物までは無限とも思えるような距離があったが、それでも諦めずに進み続けた。
そして、ついに俺は目標物にたどり着く。
俺の体の3分の1くらいの大きさ、つるりとした表面と温かみのある質感の中身。
生まれてすぐの頃に1度見て以降、ずっとしっかりと見てみたい思っていたものが今、俺の目の前にある。
…………そう、育児本だ!
動かしにくい指に鞭を打ち、何とか表紙を捲り、目次を見る。
そして、その目次を見て、重要そうなところに目星をつけ、必死にそのページを開く。
赤ちゃんだと本を読むのすら一苦労だ。
それでも何とか目的のページまで辿り着き、書かれている文章へと目を走らせる。
まず俺が確認したかったのは、赤ちゃんの成長についてだ。
今まで俺は、自分がどの程度普通から外れているのかを感覚でしか判断できていなかった。
前世でも赤ちゃんを見る機会くらいはあったが、いつ寝返りをして、いつ座って、いつ歩き始めるのかなんて詳しく覚えているわけがない。
だからこそ、これを一度ちゃんと確認しておきたかった。
「…………」
ページには月齢ごとに、赤ちゃんがどのようなことをできるようになるのかが書かれていた。
首がすわり始めるのは生後三ヶ月前後、寝返りはそれより少し後。一人で座れるようになるのは、さらにその先で…………。
俺は文章を読み、ゆっくりと自分の体を見る。現在、生後三ヶ月ほどの赤ちゃんの体はぷにぷにしていて触り心地が良さそうだが、かなり貧弱にも見える。
だがしかし、俺は先程起き上がり、座り、更にはずり這いで本がある所まで移動している。
…………これは、お母さんに見られたら一大事だな。
ぶっちゃけもうそろそろはいはいとかし始めてもちょっと早いくらいでそこまで不自然ではないと考えていたが、はいはいをし始めるのはだいたい8ヶ月ぐらいで、早くても5ヶ月くらいだと書かれており、3ヶ月の俺がいきなりはいはいなんてし始めたら化け物扱いされていたかもしれない。
この世界にステータスがなく、特殊な能力の測定なども一切されていない以上、スキルも無いと考えられるため、あまり行き過ぎた行動は危険だ。
その後の行動もどのくらいでやっていいのかそこまでわかっていなかったため、このタイミングでその正確な時期を知ることができたというのはありがたい。今後の方針を定めるのに非常に役に立つ。
そんな事を考えながらそのページをしっかりと読み込み、まだ発達していない脳に全力で積み込む。
俺の前世の記憶が入っている影響か割と思考はしっかりとできるが、それでもやはり赤ちゃんの脳なので記憶することや素早く考えるということは難しい。
この本の内容も1回パラッと読んだだけではほとんどが覚えられないままになってしまうだろう。
だからこそ、同じところを何度も読んだりすることによってしっかり暗記するのだ。
まるで受験前の学生かのような気迫で本を読み込む俺だったが、赤ちゃんの体の活動時間はあまりにも短い。
特に最近はある程度夜に眠ることができるようになったばっかりに、この時間帯は抗えない眠気に襲われるのだ。
今後この本が読める機会がいつ来るか分からないため、もっと読んでおきたいのだが、これを読んでいることがバレても不審がられるため、名残惜しいが泣く泣く元の位置へと戻ることにした。
どうも、黒飛です。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
もしよろしければ、ブクマや星をお願いいたします!
切に願いますっ!!!




