新たな問題
鬼塚ひとみは久しぶりに帰宅し、湯船に浸かっていた。
(あの不細工なぬいぐるみ。どこで買ったんだろう。)
そして、今日の出来事を思い返していた。
仕事中にフィギュアが次々と一言ネタを披露し始め、家に置いてあった懐かしい赤ちゃん人形まで現れた。
そして、最後に買った記憶のない、ぬいぐるみが目の前で喋った。
そのぬいぐるみの不細工さとあまりのシュールさについ笑ってしまったのだ。
本来なら驚愕すべきことだが、なぜか受け入れている自分がいた。
「あ、いけない。明日も始発で行かないと」
そう言い、鬼塚ひとみは急いで湯船から上がり、髪を乾かして明日からの終わりが見えないデスマーチに備えた。
そのころ天界では笑望使がはしゃいでいた。
「いやー、仕事のあとの一杯は最高やな!なっ!笑友使!」
笑望使はご機嫌で笑友使の肩を叩いていた。
「ふん。ただのまぐれだろ?」
「負け惜しみかね。笑友使君」
「いいや。ただ真実を言っているだけだけど?」
「『ちみ』にできるのかね?んん?」
「そんなことはどうでもいいんだよ。あれから鬼塚さんの様子はどうなんだ?」
「何だ、お前も俺の女神さまのことが気になるのか?」
「お前のじゃない。で、どうなんだ?1週間たったけど」
「あかん。あれからまた、1回も笑ってへん。もっと続けなあかん」
「そうか。5年間も笑ってないだもんな。1回だけじゃな」
「ひーとーみーすゎーーーん!好きだーーー!!」
「うるさい!急に叫ぶな!」
「いや~、ひとみさんを思い出したら急に思いが溢れてきちゃって。わりーすっ」
「殺されたいようだな!」
笑友使が金棒を召喚したとき、後ろから声が聞こえた。
「元気そうじゃのう。二人とも」
二人は声のする方を見ると、そこには大笑神が立っていた。
「た、大笑神様。なぜこのような所に?」
笑友使が急いで立ち上がった。
「いやぁ、天界で人間を笑わせることに一生懸命な天使が居ると聞いてな。気になっておったんじゃ」
「笑神様たちの間でそのような話が広まっていたんですか?」
「それで先日ついに5年ぶりに笑わせることができたと聞いてな。それで会いにきたんじゃよ。将来が有望な天使にな」
「それは私のことです!!」
笑望使は調子よく立ち上がり、前に出た。
「ふ。お恥ずかしい。既に笑いの神々の元までお話が届いていたなんて。自分の才能が恐ろしい」
「おぉ、おぬしがその天使じゃったか。そうかそうか」
「それで、わざわざ顔を見るためだけに大笑神様がこんなところまで来られたんですか?」
笑友使は改めて確認した。
「いやいや、実は伝えたいこともあってな」
「伝えたいことですか?」
「そうじゃ。近々、新しい笑神を追加しようと考えておってな。笑望使も候補者として指名されたんじゃよ」
「本当ですか!?」
笑望使よりも笑友使が驚いていた。
「お言葉ですが、大笑神様、笑望使には笑いの才能は皆無ですよ?」
「な、何言うてんねん!笑友使!俺には実績があるやろ!実績が!」
「どうじゃ、笑望使。笑神へ挑戦するか?」
「もちろんであります!この笑望使、全身全霊を込めて挑戦いたします」
「おい、笑望使ちょっと待て、落ち着いてよく考えろ!」
「ふん。だまらっしゃい!人の出世を邪魔しないでくれたまえ。笑友使君」
「何だと!だれが邪魔するか。心配しているだけだ」
「心配?ふ。なら心配無用や。大笑神様、ぜひお願いします」
「決まりじゃな。笑望使、詳しいことは使いの者から説明させる。期待しておるぞ」
そう言い残し、大笑神は消えていった。
「よっしゃーーーー!」
笑望使は雄たけびを上げた。
「お前、状況を分かっているのか?」
笑友使は心配そうに笑望使に声をかけた。
「さっきからなんや?何を心配してるんや?そうか俺が笑神になったら、会われへんようになって寂しなるからな。大丈夫やそんな心配せんでええで。いつでも...」
ガッツ!鈍い音が響いたと同時にやっとその場が静かになった。
「まったく。はしゃぎやがって。うるさい奴だ」
笑友使の傍にはさっき使ったであろう金棒が置かれていた。
「笑望使よく聞け。まずお前に会えなくても寂しくない。そんな事を心配していない。思い上がるなクズが。いいか、神になるということは、今のように自由に人間界に行けなくなる。それが何を意味するかはバカなお前でもわかるだろ?」
「ひとみさんに会われへんやん!それはあかん!あかんて!」
「だろう?だから、あれほど言ってやったのに。俺は知らないよ。まぁせいぜい頑張れよ。あ、そうだ。鬼塚さんいや、ひとみさんのことは気にしておくよ。たまに様子見ぐらいはしてやるから。頑張れよ昇進。いや笑神か」
「くっ。このままやったら完全にあかん。笑神になることだけは避けなあかん。笑友使どうしたらええかな?」
「知らねーよ。自分で考えろよ」
「そんなこと言うなや。親友やろ?な!」
「親友じゃない」
「一緒にひとみさんを見守ってきた中やん!」
「俺はお前が犯罪行為を犯さないように、『お前』を見張ってただけだ。一緒にするな変態」
「何でやねん!ちょっとぐらい一緒に考えてくれてもええやろ!」
「何度も注意してやったのに、お前が勝手にやったんだろ?」
「それは...すまん。謝るから、何かええ方法はないんか?」
「しょうがない奴だな。笑神試験に落ちるしかないんじゃない?」
「それはあかん。天使史上最高傑作と言われているこの俺が、笑神試験に落ちるなんて、天界が黙ってへんで!」
「じゃぁ、諦めろ。それじゃぁな」
「ま、待って。落ちる。落ちるって」
「最初からそう言え、プライドだけは一丁前なバカがよ」
「なぁ、最近お前の言葉が強い気がするねんけど。キャラ変った?」
「お前のせいだよ」
こうして二人の天使による笑神試験の不合格作戦が始まった。




