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旅先で、突然異性になりました  作者: ざっきー


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ペンダントの秘密


 マーシアが取り出したのは、同じ意匠(デザイン)のペンダント。

 しかし、よく見ると嵌められている色石が違う。

 一見すると黒色のようだが、マーシアが光にかざすと黒から一変紺色に変わった……彼女の瞳と同じように。


「これは……」


「このペンダントは、わたくしの瞳の色を模したものなのよ」


「ということは、僕の持っているものは……」


「アイザックの瞳を模したものよ。つまり、あなたの瞳は祖父の色を受け継いでいるの」


 ハンクス家の三人は、皆、不思議な色の瞳を持っているそうだ。

 ちなみに、ビリーの祖母(マーシアの妹)は茶色から赤色に見える瞳で、彼女も同じペンダントを持っているとのこと。

 孫であるビリーは、昔そのペンダントを見せてもらったことがあるようだ。


「そしてこれは、『持ち主の願いを叶えるペンダント』と言われているの」


「!?」



 ◇



 今から七十年以上も昔、マーシアたちの両親が結婚したばかりの頃、彼らは旅先である人物を助ける。

 それは、道端で賊に襲われていた老婆だった。

 彼女は持っている杖を使い応戦していたが多勢に無勢。そんな中、彼らが偶然通りかかったのだ。


「老婆は、加勢し軽症を負った護衛の傷をその場で癒したそうよ。彼女の正体は……魔法使いだったの」


「魔法使い……」


 旅の途中だと言い両親へ丁重に礼を述べ立ち去ろうとした彼女に、彼らは道中の足しになればとお金と食料を渡す。

 喜んだ彼女は、『このお礼は、いつか必ず』と言い残し姿を消した。

 それから一年後、マーシアを妊娠中の母親の前に現れたのは、あの魔法使いだった。


「生まれてくる子らの『お守り』にしてほしいと、彼女は三つのペンダントを差し出したの。まるで、これから生まれてくる子の人数と、それぞれの瞳の色がわかっていたかのようにね」


「では、このペンダントは『魔道具』の一種なのですか?」


「魔法使いが作ったのだから、そうなるわね。あなたが男性へ変化したときに、月の光が……とのことだけど、おそらく月の魔力を借りたのだと思うわ。彼女は『月の魔法使い』と呼ばれていたそうだから」


 何か不思議な力があるとは思っていたが、まさかペンダントが本物の魔道具だったとは。

 そして、私がこれを無意識に使用し男になってしまったわけだが……


「でも、どうして満月の度に男女が入れ替わるのでしょうか?」


「何か理由があるとは思うのだけど、かなり昔の話だから……一度、詳しく調べたほうが良さそうね」


 マーシアは、ハンクス家に残されている古い文献を調べることを約束し、私たちは一旦休憩となった。





 私とビリーは、一度家へと戻ってきた。


「おい、大丈夫か?」


 椅子に座ったまま動かず、ぐったりとしている私を見兼ねたのか、お茶を飲んでいたビリーが手を止めた。


「いろんなことが判明して、頭の中がパンクしそうです」


「ハハハ、そうだな。祖父母のこと……ペンダントのこと……かなり、情報過多ではあるな」


「あの、ビリーさんはどこまでご存知だったんですか?」


 彼がどの程度まで話を把握していたのか、実はずっと気になっていた。


「初めておまえの瞳を見たときに、どこかで見覚えがあるなと思った。その後、ペンダントを見せられて思い出したんだ。幼い頃に一度だけ会ったことがある、アイザック大叔父様の瞳に似ていると」


「だから、私を連れて王都へ来たのですね」


「おまえがハンクス侯爵家に(ゆかり)のある者だと確信はしていたが、迷いはあった。でも、貴族に目をつけられ逃げてきたおまえには、強力な後ろ盾があったほうがよいと……まさか、その他の面倒事にまで巻き込まれるとは、夢にも思わなかったがな」


「ふふふ、たしかに様々なことがありすぎて大変でしたが、私は王都へ来てよかったと思っていますよ」


 ビリーの過去のことも、自分のことも、一応の決着はついたのだから。


「ウィロウ叔母上から、おまえを捜していたと聞かされたときは驚いたが、さらに驚いたのは、彼女が目的達成のために手段を選ばなかったことだ。おまえを飲み屋に潜入させたり、囮に使ったり……マーシア大伯母様はまだご存知ではないようだが、もし知られたら確実に大目玉を食うぞ」


 私も傍で見ていて、さすがのウィロウもマーシアには頭が上がらないようだったから、彼女が叱責される様子は容易に想像がつく。


「じゃあ、私も一緒に叱られようと思います」


 今回も前回も、作戦を言い出したのは他でもない私だ。

 ウィロウだけがお説教されるのは、申し訳ない。


「おまえは叔母上に巻き込まれただけだと思われるから、安心しろ。それに、貴族は皆たとえ相手のためであっても、自分の利益もしっかりと計算に入っている。だから、余計に手段を選ばない。クリスだって、そうだしな……」


「同じ貴族でも、ビリーさんは違います。そんなことは、絶対にしない人です!」


「おまえは俺を、『聖人君子』か何かと思っているのか? 俺だって、これでも貴族の端くれだ。欲しいものを手に入れるためには、手段を選ばないときもある」


「じゃあ、ビリーさんがそこまでして手に入れたいものって、具体的に何ですか? お金? 地位……は絶対に違うな。あっ、貴重な薬草だ! シルクさんとの駆け引きには、手段を選ばないってことですね」


「得意げなところ悪いが、全部違うぞ。俺が手に入れたいものは───」


「入れたいものは?」


 興味津々の私がビリーの顔をじっと見つめていると、目が合った途端、急にふいと顔を逸らされる。


「……おまえには教えない」


「ど、どうしてですか! 教えてくださいよ!!」


「自分で考えろ」


「私が、わかるわけないじゃないですか!」


 結局、それから私がどんなに粘っても迫っても、ビリーは絶対に教えてはくれなかった。



 ◇



「母の手記の中に、ペンダントに関しての記述が残っていたわ。ウィロウ、二人へ説明を」


「かしこまりました、伯母上」


 途中で休憩を挟んだとはいえ、マーシアが年齢の割りには元気だといっても、さすがに疲れが出たようだ。

 高齢の彼女に代わり、ウィロウが後を引き継ぐ。


「それによると、願いを叶えるにはいくつかの条件があった。まず、ペンダントの色石と同じ瞳を持つ人物であること。つまり、持ち主以外は使えないということだな」


 ウィロウの説明に、隣でビリーが「やはり、魔道具には使用者制限があったのか……」と呟いている。

 以前、彼が話してくれた『現存する全ての魔道具が、使用できない』理由は、これのようだ。


「そして、『願いを叶えることができる日』も決まっている。それは、一年で最も月の魔力が高まる日……『特別な満月の日』だけだ」


「……そうなると、おかしいな。おまえが故郷を出た日は、その日ではなかったはずだよな?」


「はい、普通の『三日月』の日でした」


 その場では特に何も起きず、村に着いた満月の夜に男となってしまったのだ。


「通常であれば何も起こらないはずが、数日後の満月の夜に願いが叶った。しかし、その後の満月の度に男女が入れ替わる。まるで、魔法にかかったり、解けたりするように……」


 新たに得た情報を整理するように、ぶつぶつと頭の中で自分の考えをまとめている様子のビリー。

 私も、一つ気になったことを確認してみることにした。


「マーシア様のペンダントを、もう一度見せてもらえないでしょうか?」


「構いませんよ」


 借りたペンダントと自分のをテーブルに並べてみると、その違いがより鮮明になった。


「これは……」


 さすが、ビリーも気付いたようだ。

 光に当てると色石が変化して見えるのは同じだが、私のはさらにキラキラと輝いている。

 見慣れていたためこの現象を不思議に思わなかったが、マーシアのは全く輝いていない。


「もしかして……石に魔力がこもっているのか?」


「おそらく、そうでしょうね。そして、その理由も見当がつきます」


「それは、何だ?」


「『お月見』です。我が家では、毎年その一番魔力が高まる日に開催していましたから」


 祖母も母も私も、普段からペンダントをずっと身に着けていた。

 父によると、祖母と母は見える位置にしていたそうだから、月光が当たり長年魔力がこめられていたとしても、何ら不思議ではない。


「そのペンダントの魔力で魔法がかかった。しかし、魔力が足りず常時不安定な状態のまま、通常の満月の魔力の影響で男になったり女に戻ったりを繰り返しているというわけか……」


「……であれば、次の満月でこの状態を是正すれば良いのだろう? 解決の糸口が掴めたな」


 ウィロウの言うように問題の解決が見えた今、ようやくこの不安定な状況から脱することができそうだ。

「良かったな」と声をかけてくれたビリーの笑顔に、私も嬉しくなる。


「ここで確認をしたいのだが、君は『男性(アンリ)』と『女性(アンヌ)』のどちらを選ぶんだ?」


「えっ、どういうことですか?」


 私は本来女だから、もちろんアンヌに戻るつもりなのだが……


「君はこれから、ハンクス侯爵家の跡取りとして生きていくことになる。アンリを選択するならば、跡取り教育の後、それなりの貴族家の令嬢と結婚してもらう。そのときは、あのクソ女───」


「ウィロウ、口を慎みなさい」


 マーシアから窘められ、ウィロウが慌てて姿勢を正す。


「───彼女のような女性は間違っても選びはしないから、安心してくれ。それで、本来のアンヌとして生きていくのであれば、ビリーに婿入りをしてもらう」


「えっ?」


「婿入りの件は、ビリー本人も了承済みだ。先ほど言い忘れていたが、君がアンリを選択した場合は、ビリーには側近として補助(サポート)してもらうことになる。どちらを選んでも、ビリーとはこれからも一緒だ」


「…………」


 これからも、ビリーの傍にいられる……私がずっと望んでいたことなのに、なぜか素直に喜ぶことができない。


「君が戸惑うのも無理はない。次の満月まではあと十日ほどあるから、ゆっくり考えて結論を出してほしい」


「……はい、わかりました」


 ビリーに「行くぞ」と促され、私はぼんやりとしたまま席を立つ。

 そんな私の様子を、マーシアが黙って見つめていた。




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