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24.


 一方で、と店長の話は続いた。


「先帝は外能自体にはさほど興味がなかったようです。ただし精神体の研究には食いついた」


 外能は精神体に起因している。特殊能力の外能よりも、精神体に注目した?

 店長の目がスッと細くなった。


「先帝が研究していたのは人体創造です。長年成功しなかった人工的な人間。遺伝子情報を一から操作して創り上げた人間。失敗する原因はここにあったのではないか、と目をつけた」

「遺伝子操作からの人体創造は禁忌ですよ?」


 思わず声を上げた。

 遺伝子情報についての研究が急激に盛んになったのは、だいたい60年と少し前だ。しかし、人道的な立場から人造人間は各国で禁止されている。

 宗教的価値観による忌避感という面もあれば、使い捨ての――例えば兵器としての人間の大量生産を危惧される面もある。

 研究すること自体が罪になるのに、帝が率先して関わっていただと?

 眉間の力が強まり額に熱が溜まると同時に、向かいに座るアツがゴホッと大きく咳をした。


「そう、禁忌です。だからこそ隠れて研究していた。おおっぴらにできないから必要な情報がなかなか集まらなかった。そこに父親の研究内容です。それに光明を見出した。だから、先々帝が亡くなった後もしばらく外能者狩りが続きました。『外能把握』がない分、効率は落ちたようですが」


 ケホケホと咳を続けるアツを見て苦笑いした店長が、私にウィスキー・ミストを勧めてきた。

 グラスの外側についた結露が指を濡らして、頭に上った熱が冷めた。

 少し薄まったウィスキーが喉を通るのを見届けてから、話が再開された。


「何度も計画が立ち上がっては凍結してを繰り返した末、とあるプロジェクトが開始されました。今から34年前です」


 咳の治まったアツが、再度足をピコピコさせ始める。


「32年前。ようやく1人の赤ん坊が誕生しました。新生児検診も問題なく、乳児期も健やかに育った。今までにない経過に、先帝も関係者も沸き立っていたようです」


 32年前? 私と同い年だ。ふとアツを見ると無表情だった。足は相変わらず私の脛を蹴り続けている。


「しかし、25年前……今帝が18歳になった時、先帝はなぜか急に亡くなりました。当時は暗殺説や陰謀説が飛び交いましたね」


 店長とテンシさんが頷きあう。2人はよく覚えているのだろう。


「今帝が即位した後、研究方針が公表されました。『人道的な見地に立った機械と人の調和』というものです。隠れて行われていた先帝関連のプロジェクトは完全に停止。唯一の人造人間成功例は齢6歳にして宙ぶらりんとなったわけです」


 6歳だと初等1年か2年か。私が先生からも遠巻きにされ始めた頃だ。

 でも、恐怖を抱えながらも子育てを投げ出さなかった親は参観に来てくれていた。食卓を囲んで温かいご飯も食べていたし、父親に薦められたたくさんの本も読んでいた。

 やさぐれることのなかった自分。

 6歳で投げ出された子はどうだったのだろうか。


「プロジェクトに関わった1人は、探究心からか、義務教育が終わる年齢までは経過を確認したいと考えたのでしょう。成功例の子供を引き取り、そして育てた。子供は何事もなく育ち……今も生きています」

「その人について一度も聞いたことがないのは、プロジェクトが闇に葬られたからですか?」


 私の質問に店長は僅かに眉を下げて小さく頷く。


「それこそ公になるとまずい話です。知っているのは当時の関係者と本人くらいでしょう」

「じゃあ何で店長は知っているんです? 関係者だったんですか?」


 先程までとは打って変わって黙ったままのアツ。代わりに私は質問を続ける。

 店長の年齢を想定すると関係者の可能性は低いと思うのだけれど、先々帝や先帝の情報を知っていることもあり、疑ってしまう。


「関係者ではありませんよ。ただ、僕も一時期、高等院で研究をしていた経歴がありまして。その時のテーマ、表向きは差し障りのないものでしたが、実際はこういう話を追求していました」


 あぁ、そういえば以前、店長は研究者をやっていたと聞いた。近現代社会の調査だとか何とか。

 研究内容はこのことだったのか。


「更に、僕の外能が一役買っています」


 店長の外能は『移動』や『空間跳躍』だよね。さっきの現象を思い浮かべていると、店長は水を飲んでから微笑んだ。


「僕は、変異に変異が重なったような特殊ケースなんです。いくつも外能を持っています。その中に『外能把握』があります」


 首を傾げる。あれ、さっき聞いたぞ。


「先々帝が持っていた外能と同じですか?」

「そう、まさにそれです」


 それがどう一役買うのだろう。


「先に言った通り、『外能把握』は他人の精神体を見ることができます。先帝の研究内容と、他とは明らかに違う作り物めいた精神体。関係者以外では、僕だけがそれらを紐付けられる」


 アツが、静かに息を深く吸った。

 店長がアツに向き直る。


「あなたの精神体は黄金比が至る所に配置された完璧な形状です。そして通常とは違う質感。弾き出される答は」

「創られたものだから、です」


 店長の言葉をアツが引き取った。


「ええ、そうです。僕が唯一の成功例。初めて実用に足る精神体を搭載した禁忌の人間です」



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