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幕間:ヒサ


 自分の変な力――人の思考を読める力を、嫌だと思ったことはない。


 小さい頃は馬鹿正直に話をしてしまってゴタゴタしたけれど、初等1年生の時の担任がこっそりと、公にすると人攫いに遭うから黙っていた方が良い、と教えてくれた。

 こうして、人に言わないという正解を知った。その後、人の考えが分かるこの力は人間関係で楽できると重宝した。

 ただ、つまらなかった。

 人の考えていることが見えると、面倒を避けられる反面、起伏がない。先回りできる安心感なんて、退屈と表裏一体なのだ。

 この能力は嫌ではないけれど、もうちょっと人生を楽しみたかった。


 それがここでは叶う。


 隠れ家バーなんて興味もなかった。外見にだって特別目立つところはなかった。何のドアかも分からなかったくらいだ、普通は素通り一択のはずだ。

 それなのにめちゃくちゃ気になる、入ってみたい、と感じて後先考えずにドアを開けた。

 店に入ってびっくりした。そこにいる誰も彼も、考えが読めなかったからだ。

 意識して目を凝らしてようやくほんのりと見えた。これは歓迎しているのか……?


「いらっしゃいませ。おひとりですか?」


 はっと意識を戻すと、目尻に皺のある長身の男がいた。今の感情はこの男のものだ。

 けれどおかしい、もう見えない。

 もう一度胸元を凝視していたら、ふふっと微かな笑い声と共に面白がる気が滲んだ。


「見えますか」


 さっと男の顔にピントを合わせると、


「カウンター席はいかがでしょう?」


 と何事もなかったかのように案内された。


「飲みながらゆっくり試してみてください。ようこそ、Bar Mistへ。歓迎します」


 見えないけれどピンときた。この男は変な能力について詳しい。そしてたぶん、俺の話を笑わずに聞いてくれる。

 口も堅いとみえる。この男は安心だ。人攫いを気にせず済むだろう。

 直感というものを実体験したのは初めてだった。


 結論を言う。大当たりだった。

 見えないまま勘が当たるというのは楽しい。

 外れていても楽しかったのだろうが、今回は当たっていたことで人生が変わった。

 男――この店のマスターだったらしい――に、力について詳しく聞けた。

 マスター自身が常識外れの力の数々を持っていることも聞いた。

 そしてこのバーの秘密も聞いた。

 この中でなら、俺の力は抑制される。先回りのつまらなさを捨てて、何が起こるか分からない楽しい会話ができる。力を使いたければ、店から出ればいい。

 ああ、俺にとってはとてつもなく都合のいい場所じゃないか。


「でも、どうしてそこまで教えてくれるんです?」

「ええ、実は人手を探していまして。スタッフを増やしたいんですよ」


 なんで俺がフリーターだと分かったのやら。さっきの話では、この人の能力にそんな千里眼はない。


「名探偵ではないですが、観察すればある程度の見当は付きますよ。あとは勘です」


 マスターの言葉に、俺は一瞬遅れて反応した。


「これ、面接だったんですか?」

「スカウトと言った方が正しいですけれどね。さて、いかがでしょうか」


 どうやら合格はしているらしい。それなら悩む必要もない。俺は勢いよく右手を差し出した。

 ここでの仕事は絶対に楽しいものになる。


「大当たりでしたね」


 そう言って目尻の皺を深くしたマスター。




 そして、人生2度目の直感も当たった。



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