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幕間:ナギサ


 東京出張でホテルに辿り着くのに、スマホの地図を見ながら歩いていたの。

 なのに、よ。

 ナビの指示通りに歩いていただけなのに。階段に引っかかって落ちたのよ。おかしいよね絶対。私悪くない。

 で、顔面から地面に激突するはずが、なぜか尻餅ついたの。

 ギュッて瞑っていた目を開けたら、イケメンさんたちが目を見開いてこっちを見ていた。

 そりゃもう恥ずかしかったのなんのって。慌てて立ち上がったけど靴は片方どっか行ってるし、スマホはどっかに投げ出しちゃってるし、鞄すら見当たらないし。

 仕方がないから、


「すみません」


 って謝るだけ謝っておいた。


「お姉さん、どっから来たの」


 やっとのことで声を絞り出したって感じの掠れた声で、一番のイケメンくんが近寄ってきた。

 どっかのアイドルみたいな顔だね、背は小さいけど。あ、芸能人は背が低くても誤魔化せるんだっけ?

 ……とか考えて凝視しちゃった。思い返せばめっちゃ失礼。


「俺、ちゃんと鍵かけたよね?」


 今度は、推し声優さんにそっくりな声のお兄さんが、私の横をすり抜けて後ろの方へ歩いていった。振り向いたら、ドアをガチャガチャやって鍵を確認していた。

 え、何それ、私ってば不法侵入? どうやって? 転んだだけですけど?

 何だかよく分からなくて首を傾げた。

 ちっちゃいイケメンくんと推し声兄さんが揃って私を見てきた。

 更に恥ずかしくなって何となく髪の毛を耳にかけたら、その直後に耳の赤さがばっちりバレたことに気付いたの。失敗した。

 ぱんぱん、と音が大きく響いた。手を叩くのが上手な人がいるんだね、って変に感心した。

 音の方を見たら、ふわふわした髪で優しそうなお兄さん――オジサンまではいかない、少し年上のお兄さんって感じの人が、目尻に皺を寄せて微笑んでいた。


「僕は気にしていないよ。2人とも、それでいいかな?」


 お兄さんのその一言で、私を凝視していたイケボ兄さんが、あー、と言いつつ元の位置へ戻った。

 それにつられるようにしてイケメンくんが首を捻りながら踵を返した。


「テンシ、頼まれてくれるかい?」

「ああ。……いや、何も」

「うん、それならそれでいいよ。なるほどね」


 背の高い白いふわふわお兄さんと、同じく背の高い色黒スポーツマン的お兄さんが、私を見ながら何やら謎の言葉を交わして頷いていた。

 2人並んでいる様がオセロって感じだ、後ろ向いたら逆の色合いだったりしてね、なんて想像をしてしまった。これまた失礼。


「お姉さん。詳しく話をしたいところだけれど、今は少し時間がないんです。ここは飲食店で、今は開店直前。ですので、しばらくここで待っていてもらえますか?」


 ふわふわなお兄さんは話し合いをしてくれる気があるらしかった。友好そうで一安心。

 といっても、私は何も持っていなかったし、靴もなかったし、外へ出て行けないんだから頷くことしかできなかったんだよね。

 引いてもらったパイプ椅子におとなしく腰掛けて、手と膝を揃えて背筋を伸ばした。

 今更だけど、闖入者はこれ以上怪しまれないようキチンとしなきゃ、ってね。頭の中で適当なことを考えていようが、取り繕うのは得意なのよ。

 私の様子を見て頷き、話を再開した男性4人。

 はー、もしかしてこれってアニメとかラノベとかでよくある、アレじゃないですかね。アレ。

 密かに妄想を膨らませたんだよね。




 夢想が現実に変わるのに時間はかからなかった。

 ここがどこか、とふわふわ兄さん――マスターさんに質問したら、全く知らない地名が返ってきたんだ。

 見た目普通に日本人だったからちょっと半信半疑だったけど、これでもう間違いなかった。

 念の為、私の住んでいた住所と出身地の住所、会社のだいたいの住所を言ったけど、即座に首を横に振られたよ。


「行政区の名前が違いますから。似ているけれど別の世界ですよ」


 やっぱり!

 そりゃそうだよね、東京を知らないってあり得ないもんね。決まり!!


「異世界トリップってやつですね!」


 私の目はキラキラ輝いていたと思う。

 夢が現実に。夢が現実になったの! 毒親からついに! 逃・げ・切・れ・た!

 凹むことなくすんなり受け入れた私が予想外だったのか、マスターさんは口を結んで数秒固まっていた。

 何でもいい。衣食住を手に入れさえすれば、私はここで生き延びてみせる。元の世界になんて帰るもんか。

 その意気込みを語ったら、下を向いて吹き出したマスターさんが、


「いいでしょう、僕があなたの面倒を見ます。しばらくはここで生活に慣れてください」


 と素晴らしく助かる提案をしてくれたんだ。




 こうして私はBar Mistで働くことになったの。

 この上階のマンションに部屋も貰い、衣食住は完璧。マスターのお陰で、少しずつ世界に馴染んでいる最中。

 スマホはないけどそれに代わる「標準デバイス」とかいうのを与えてもらったし、パソコンはないけど超高性能なタブレットみたいなのも貰ったし。脳波入力とかいうのができるんだって。異次元だわぁ。

 そのタブレットでテレビも見られるしゲームもできるから新しい推しを発掘できたし。

 通販でほとんどの生活必需品を賄えるし。

 ホワイトな職場で仕事できるし。

 新しい世界を満喫中!

 一つだけ心残りがあるとするなら、次シーズンで楽しみだったアニメと推しキャラの存在だね。

 でもさ、考えてみるとね、マスターもおかしいんだよね。私の言った「東京」だとか「大阪」だとかに困惑するでもなく、むしろサラッと「別の世界」とか言っちゃうんだよ?

 ――ね、何でそんなこと知ってるの?



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