↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
底辺娼姫ですが、娼姫道を極めたいので公爵様には溺愛をご遠慮いただきます。  作者: 四方初志
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/38

第25話 ここで刺繍を?

 陽の光が燦々と差し込む大ホール。


 そこには、10歳前後の少女たちが一列に緊張した面持ちで並んでいた。


 正面に並べられた長テーブルには、女将、旦那、そしてラナが腰掛けている。


「じゃあ、1番。前に出な」


 女将の声が響く。

 

「ヘザーです! 9歳です! 特技はバイオリンです!」

「じゃ、やってみな」

「はいっ!」


 第1回「グラン・コルチザン妹分オーディション」


 ——それが、この場所で開催されていた。


◇


 数日前、執務室での会話だった。


「『グラン・コルチザン』となったからには、これまで通りってわけにはいかないよ。妹分を持たなきゃね」


「妹分……」


「何人持てるかねぇ? 普通は2〜3人だが、アンタの今の格なら6人は欲しいね」


「6人もですか!?」


 頭を抱えたのは旦那だった。


「部屋が問題だな。公爵が同席を嫌がるから、お越しの間、妹達が待機する部屋が必要なんだよな。公爵が一階でラナが二階。いまのままだと黄金宮に空きが無いぞ」


「じゃあ、公爵に向こうへ移ってもらうんだね。黄金宮の二階に」


「ご承知なさるかしら……。それに、それでも一階に3人がせいぜいですよ」


「そもそもが公爵がわがままを言わなきゃいいだけの話だろ」


「でも女将さん、無理に妹達を同席させたって、ノア様の出すあの冷気で妹たちが凍死しますよ」


「……はぁ。確かにねぇ」


 女将が苦々しい顔で煙管を吹かす。 そこへ、ラナは切り出した。


「じゃあ、これはどうでしょう?」


「……妹を20人!?」


「はい。ただ囲うのではなく、『妹分候補生』として面倒を見るんです。豪華な講師陣を集めて稽古は十分につけてあげますが、寝食は本館の大部屋で共同生活させます」


 ラナは人差しをたてた。


「選抜された3人だけが、黄金宮の部屋付きになれる。選抜試験は定期的に行い、徐々に人数を絞って行くんです。」


「落ちて他店へ流れる子も、『グラン・コルチザンの妹候補生だった』というだけで箔がつきますから、本人にとっても受け入れる店にとってもメリットがあります」


「なるほどねぇ……だが——」

「いいじゃねえか!!」


 女将の言葉を遮り、旦那が食い気味に叫んだ。


「チッ、こいつは本当に新しいもの好きなんだから……」


 女将は呆れつつ煙を吐き出したのだった。


◇


 アプレンティスに昇格するまでの期間、行儀見習いの少女達は、「プティ・アンジュ」と呼ばれる。


 厳しいオーディションの末、見事部屋付きのプティ・アンジュに選ばれたのは、リリー、キャシー、ジェーンの3人。

 ……そして、ラナがどうしても気になって追加した、もう一人を加えた計4人だ。


「アビーです。……特技はお裁縫です」


 そう言って3人の前に座ると、彼女は無言で刺繍を始めた。 流れる、長すぎる沈黙。


「おい、この間に次の子を呼んでもいいかい……?」


 痺れを切らした女将が、我慢の限界を迎えてそう呟いた。


 だが、出来上がった可愛らしい花の刺繍と、彼女の人の良さそうな笑顔。

 その不器用な佇まいが、どこか衣装屋のジャンを思わせ、ラナはどうしても放っておけなかったのだ。


 ミーナとルーナは実家へと帰っていった。


 裕福な貴族が「プティ・アンジュ」の期間だけ娘を娼館へ預けることは、よくあることだ。

 コルチザンが持つ最高峰の品位と教養は、表社会でも高く評価されているからだ。

 そうした貴族の令嬢たちは、アプレンティスへ昇格する前に親が買い戻して連れ帰る。


 双子が帰るには少し早かったが、あのソフィアの悲劇があったため、実家が慌てて引き取ったのだ。


(ごめんね、双子たち。……ちょっとだけホッとしている私を許して)


(……だって、あの二人の無邪気な毒舌、心臓に悪いんだもの)


◇


「——ということでして、明日からお部屋のご移動をお願いしたいんです」


 黄金宮で、ラナはノアに向き直って切り出した。


「一晩中、同室ということか」


「はい」


 ノアは少しだけ思案するように考え込んだ。「外」の世界との兼ね合いで、何か不都合があるのかもしれない。


「……まずいな」

「え?」

「お前の魅力に抗える自信が無い。今晩中にでも、白旗を振ってしまいそうだ」


 真剣な顔で呟くノアに、ラナはクスリと笑った。


「うふふ、それも私の作戦ですよ」


 ふたりは、互いに優しく微笑み合った。


◇


 翌日には、さっそく部屋の引っ越しが始まった。


 館の男衆たちが大きな絵画や調度品を抱え、黄金宮の階段を慌ただしく行き来している。


 ラナも、プティ・アンジュたちのために呼ぶ講師陣の招聘や、妹たちの新生活の準備に追われることとなった。


「グラン・コルチザン」の称号を得てからというもの、目まぐるしいスピードで周囲の環境が変わっていく。


 だが、その目が回るような多忙さが——奇しくも、胸に渦巻いていたはずの寂しさや葛藤を大いに紛らわせてくれていた。


(……女将さんには敵わないな)


 叶わないのには、もうひとつ理由があった。


(20人なんて言うんじゃなかったーっ!!)


 10人もいれば充分だったのに、調子に乗って勢いづいてしまった。


 このヴェルヴェット館には、「稼げば稼ぐほど借金が増えていく」という恐ろしい罠がある。


 トップへ近づき格付けが上がれば、部屋や衣装の維持費が桁違いに跳ね上がる。


 その上、妹分を一人育てるたびに、その衣装代や教育費、数百万円にのぼる水揚げの支度金がすべて姉の借金に上乗せされる。


 おまけに、客が一度に数百万円単位の花代を支払ったところで、大部分はサロンの手数料や経費、チップに消える。


 手元に残るわずかな取り分から返済に充てるため、いくら売れっ子になっても元金は一向に減らないのだ。


(ほとほと、一度入ったら抜け出せないように上手く出来た世界だわ……)


 あまりにも完璧な搾取システムに、ラナは遠い目をするのだった。

★最後までお読みいただきありがとうございました!

本編から新章突入です!


少しでも気に入っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります!

11月7日の三十日月の出る頃に、本作は完結を迎えます!ぜひ最後までお付き合いください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。