第24話「もう一度、会えるなら」
一年が過ぎた。
AIペットは、黒瀬の言葉どおり大ヒットした。
発売当初から大きな話題を呼び、次々と新しいAIペットが市場へ参入する中、ミライリンクのAIペットは売上トップを記録していた。
ある日の午後。
千紘、理人、楽の三人が仕事をしていると、黒瀬が開発室へ入ってきた。
「三人とも、ちょっといいか」
「どうしました?」
三人が黒瀬を見る。
黒瀬はどこか嬉しそうだった。
「三人とも、よくやってくれた」
「え?」
「うちのAIペットが、AIペット部門の売上トップになった」
「おお!」
楽が声を上げる。
「今は他社からもかなりの数が出ている。その中でトップを取れたのは、実に喜ばしいことだ」
黒瀬は満足そうに頷いた。
「開発部も相当喜んでいてな」
「それで、これはお前たち三人への礼だそうだ」
黒瀬が振り返る。
そこには、三体のAIペットが並んでいた。
淡い水色。
淡いピンク色。
そして、淡いクリーム色。
三人の目が止まる。
「……二郎」
千紘が思わず呟いた。
「イチゴ……」
理人も淡いピンク色のAIペットを見つめる。
楽は何も言わなかった。
ただ、淡いクリーム色のAIペットをじっと見ていた。
黒瀬が笑う。
「もちろん販売品だから、あの三体とは違うが、好きな色を選んで用意してくれたらしい」
千紘は淡い水色のAIペットを抱き上げた。
「ありがとうございます」
理人も淡いピンク色のAIペットを見つめながら微笑む。
「それは嬉しいですね」
楽は淡いクリーム色のAIペットを見た。
「……こいつら、みんなに可愛がってもらってるのか」
「良かったな」
「ああ」
黒瀬は嬉しそうに頷く。
「それ、三体とも持って帰っていいそうだ」
「マジですか?」
「売上トップの功労者への特別報酬だ」
「大事にしろよ」
そう言い残し、黒瀬は開発室を出ていった。
三人だけが残る。
千紘は腕の中にいる淡い水色のAIペットを見つめた。
見た目は、二郎とほとんど同じだった。
丸い尻尾。
たれた耳。
柔らかな人工毛。
「……でも」
千紘が小さく呟く。
「同じものをもらっても、二郎は帰ってこないんだよね」
理人も淡いピンク色のAIペットを見る。
「……そうだな」
「見た目が同じでも、イチゴじゃない」
楽は黙ったまま、淡いクリーム色のAIペットを見つめていた。
三郎と同じ姿。
でも、この子は三郎じゃない。
その時。
「……待って」
楽が突然、顔を上げた。
「どうしたの?」
千紘が首をかしげる。
「もしかしたら……」
楽は淡いクリーム色のAIペットの箱を開け、持ち上げた。
「こいつら、販売品ですよね」
「そうだけど」
「だったら、中身はあの試作機を元に作られてる」
理人が楽を見る。
「……何が言いたい?」
「一年間の実証実験データ」
楽の言葉に、二人の表情が変わった。
「あの三体のデータ、会社に残ってますよね?」
「……残ってるはず」
千紘が答える。
「実証実験で集めたデータは、製品開発に使われたんだから」
「ですよね」
楽は三体を見る。
少しだけ間を置いた。
「ここに、あいつらのデータを入れて立ち上げたら」
「二郎もイチゴも三郎も、戻せるかもしれない」
千紘が目を見開いた。
「……できるの?」
「分かりません」
楽は正直に答えた。
「試作機と販売品じゃ細かい仕様も違うし、全部そのまま移せる保証もない」
「それに、データを入れたからって、本当に同じ個体として戻るのかも分からない」
千紘が、淡い水色のAIペットを持ち上げた。
「……やってみよう」
理人も頷く。
「ああ」
「何もしないよりいい」
楽は二人を見る。
「失敗するかもしれませんよ」
「それでも」
千紘は迷わなかった。
「もう一度、二郎に会える可能性があるなら、やってみたい」
理人も淡いピンク色のAIペットを箱から出した。
「俺もだ」
楽は二人を見て、笑った。
「……ですよね」
三人はすぐに作業を始めた。
保存されていた実証実験のデータを確認する。
二郎。
イチゴ。
三郎。
三体の名前が画面に並んでいた。
「あった……」
千紘が呟く。
一年ぶりに見る名前だった。 楽は慎重にデータを移していく。
「まず、二郎からいきます」
淡い水色のAIペットを充電器の上に置く。
千紘がその前にしゃがんだ。
楽が起動ボタンを押す。
短い起動音。
淡い水色のAIペットの耳が、ぴくりと動いた。
ゆっくりと目を開く。
「…………」
千紘は息を止めた。
AIペットは辺りを見回す。
そして。
千紘を見た。
『……千紘?』
『なんでそんな顔してるんだ?』
「二郎……?」
二郎は首をかしげた。
『なんだよ』
『俺のこと忘れたのか?』
千紘の目に涙が浮かぶ。
「忘れるわけないでしょ……!」
二郎は少し驚いたように千紘を見る。
『お、おい』
『泣くなよ』
千紘は二郎を抱き上げて、抱き締めた。
「二郎だ……!」
「本当に、二郎がいる……」
『苦しい!』
『力強すぎるぞ!』
そう文句を言いながらも、二郎は千紘から離れようとしなかった。
楽が笑う。
「……成功だ」
理人がすぐに淡いピンク色のAIペットを見る。
「次、イチゴを頼む」
「はい」
イチゴのデータを移す。
起動。
淡いピンク色の耳が、ぴくりと動く。
ゆっくり目を開けた。
『…………』
理人が息を呑む。
「イチゴ?」
イチゴは理人を見上げた。
『……理人』
「……ああ」
『ずいぶん待たせてくれたわね』
理人の顔が一気にほころぶ。
「イチゴ……!」
『ちょっと』
『そんな顔しないでよ』
「どんな顔だよ」
『今にも泣きそうな顔』
「泣いてない」
『嘘つき』
イチゴは少し笑った。
『私がいないと、時間を無駄にしてばかりなんだから』
『まったく』
呆れたように言いながら、イチゴの尻尾は嬉しそうに揺れていた。
理人はそっとイチゴを抱き上げる。
「……おかえり」
『ただいま』
楽は二人を見て、大きく息を吐いた。
「よし……!」
二体とも戻った。
なら。
楽は淡いクリーム色のAIペットを見る。
「三郎」
そっと充電器の上に置く。
「お前も帰ってこい」
千紘が二郎を抱いたまま見守る。
理人の腕の中にはイチゴがいる。
楽は三郎のデータを確認した。
「……いきます」
起動ボタンを押す。
短い起動音。
淡いクリーム色の耳が、ぴくりと動いた。
「…………」
楽はじっと待つ。
ゆっくりと目が開く。
「三郎」
淡いクリーム色のAIペットは、楽を見上げた。
そして。
『はじめまして』
『今日からあなたをサポートします、AIペットです』
「……え?」
三人の表情が止まる。
楽は、動けなかった。
AIペットはそんな三人を不思議そうに見つめ、首をかしげる。
『ご主人様、僕に名前をつけてください』




