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人間ってめんどくさい  作者: 季波


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2/10

第2話「一日一回、必ず撫でろ」

「それから」

黒瀬が三人を見る。



「一日一回、必ず撫でろ」



沈黙。

千紘が二郎を見る。

二郎も千紘を見る。



「……撫でる?」



「ああ」



「毎日?」



「毎日」



「忘れたら?」



「やってみればわかる」



「何それ怖い」



「以上。今日からテスト開始だ」



「雑!」



その日の夜。

千紘は自宅のリビングで、ソファに寝転がっていた。

手にしているのは、大好きなミステリー小説。

一冊読み終わるたび、次の一冊に手を伸ばす。

ソファの横には、読み終えた本がどんどん積み上がっていた。



『読むの早くない?』

二郎が、積み上がった本を見上げる。



「早くない。面白いから、これが普通」

千紘はページをめくる。

「えっ、こんな展開だったの?」

数ページ戻る。

「うわぁ、これ見逃してた」

また戻る。

ぶつぶつ言いながらページを行ったり来たりする千紘を、二郎はじっと見つめた。



『……忙しいな』



「今いいところなの」



『ねぇ、それ倒れそうだよ』

二郎は本の山を見上げた。

『危ないよ?』



「大丈夫、大丈夫」



『大丈夫じゃ――』

二郎が本のそばをちょろちょろ動く。



「こら、動いたら危ないでしょ」

千紘は二郎をひょいと抱き上げた。

「はい、ここにいなさい」

そのまま膝の上に乗せ、何事もなかったように読書を再開する。



『離して』

二郎が手足をばたつかせる。



「ちょっと、今いいところ――」

その時。

ぐらっ。

積み上がった本が傾いた。

「あ」

どさどさどさっ!



『うわぁっ!』



「二郎!」

千紘の膝の上にいた二郎めがけて、本が雪崩れ込んだ。



『ううっ……』



「あっ、ごめん! 大丈夫!?」

慌てて本をどかし、二郎を引っ張り出す。



『うん。百キロくらいまでなら耐えられる』



「すごいな」



『でも気をつけてよ!』



「うん、ごめんね」

千紘は自然に二郎の頭を撫でた。

ふわふわした人工毛を、ゆっくり撫でる。

「あったかい」



二郎の垂れた耳が、ぴくっと動いた。

『……ふふ』



「え?」



二郎は目を細めた。

どこか嬉しそうに見える。



千紘の手が止まった。

「今、笑った?」



『気のせい』



二郎はぷいと目をそらした。



「もう一回撫でたら笑う?」



『本日のなでなでは完了しました』



「急に業務連絡!」

千紘は散らばった本を片付けながら、さっきの二郎の顔を思い出す。

ほんの一瞬だったけれど。

確かに、笑っていた。

なんだろう。

胸の奥が、少しだけ温かくなった。



その頃、楽の家では――。

三郎の耳が、ピンッと立った。



「なんだ? なんだ?」



『気配を感じる』



「気配?」

「もしかして、超常現象とか?」

楽の目が輝く。

「面白そう」



『違う。虫の気配だ』



「なんだ、虫か」

楽はあっさり興味を失った。

「じゃ、捕まえてきて」



『気配を感じるだけだ。捕まえることはできない』



「そっか」

楽は少し考える。

「捕まえることまでできれば、もっと人気出そうなんだけどな」


楽はふと三郎を見た。

表情が読めない。


「三郎、今どんな気分かなぁ」

専用アプリを起動し、状態を確認する。



――激怒MAX (●`ε´●)



「えぇっ、ブチギレじゃん!」

「はははっ」

楽は腹を抱えて大爆笑した。



『笑うな、虫をどうにかしろ』



「そのうちどっかいくだろ」



数時間後。



虫のことなど、すっかり忘れていた楽は、ふとアプリを開いた。



「もうなでなでもしたし、機嫌戻ったかな?」



――激怒MAX (●`ε´●)


「まだ怒ってんじゃん!」


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