第1話「相棒は、150万円」
AI開発会社・ミライリンク。
仕事や生活を支えるAIを開発してきたこの会社で、新たな試作品の説明会が開かれていた。
会議室に集められたのは、水野千紘、成瀬理人、天野楽の三人。
黒瀬は三人を見回した。
「今回、お前たちを集めた理由は一つだ。お前たちは、自社のAIを一度も使ったことがない社員だからだ」
「あー……必要なかったので」
千紘が苦笑いする。
「俺もです。自分でやった方が早いです」
理人が肩をすくめる。
「俺は興味はありましたけど、微妙だったんで」
楽が笑った。
「だから選んだ」
黒瀬は頷く。
「今回知りたいのは、AIを普段使わない人間でも、この試作品と暮らしたいと思うのかどうかだ」
黒瀬はテーブルへ目を向けた。
「――というわけで、お前たち三人には、こいつらと暮らしてもらう」
三人が視線を向ける。
テーブルの上には、大きな箱が三つ並んでいた。
「……こいつら?」
「ああ」
「この箱と暮らすんですか?」
「んなわけあるか」
理人が呆れたように言う。
「じゃあ、何が入ってるんです?」
千紘が箱を覗き込もうとすると、黒瀬が一つ目の箱を開けた。
「今回、お前たちにテストしてもらう試作品だ」
中にいたのは――。
「……ぬいぐるみ?」
淡いピンク色の毛。
丸い体。
長すぎない垂れ耳。
猫のようにも、ウサギのようにも見える。
続けて残りの箱も開く。
淡い水色。
淡いクリーム色。
同じ姿をした三体が並んでいた。
「家庭用AIペット。販売前の試作品だ」
「これが?」
理人が見つめる。
「動くんですか?」
「起動すればな」
「かわいいじゃないですか。部長、これ俺にくださいよ」
「まずはテストしろ」
「ちなみに、これ」
「いくらするんですか?」
「試作品一体、開発費約百五十万」
三人の動きが止まった。
「……百五十万?」
さっきまで、かわいいぬいぐるみに見えていた三体が、一気に高級品へと変わる。
「怖っ」
千紘は一歩下がった。
「販売するには高すぎませんか?」
「ああ。だから実際に使ってもらう。最終的には五十万円程度まで価格を下げたい」
黒瀬はタブレットを操作する。
「基本機能は搭載している。ただし、生活に応じて機能が順次解放される」
「ゲームみたいですね」
「そういう認識でいい」
「淡いピンクがイチゴ、淡い水色が二郎、淡いクリーム色が三郎だ。個体ごとに性格や口調も違う」
「ペットなのに、喋るんですか?」
「そこがAIの強みだ。コミュニケーションを取れる」
「じゃあ、起動するぞ。専用アプリを入れろ」
三人はそれぞれスマートフォンにアプリを入れる。
千紘の画面には、
《AI PET START》
と表示されていた。
「名前は出ないんですね」
「ああ。起動して、最初に認識した人間が担当になる」
黒瀬が説明する。
「へえ。じゃあ、どれが来るかはわからないんだ」
楽が楽しそうに三体を見た。
「早い者勝ちとかじゃないですよね?」
「違う。ペット側が端末と本人を認識して寄ってくる」
「なんか選ばれるみたいでいいですね」
「遊びじゃないぞ」
三人は画面のボタンを押した。
《起動します》
その瞬間。
床に並んでいた三体の耳が、ぴくりと動いた。
「お」
ゆっくりと目が開く。
淡いピンクの一体が顔を上げ、辺りを見回した。
そして――。
とことこと理人の方へ歩いていく。
「……俺?」
理人の足元で止まり、じっと見上げる。
スマートフォンが震えた。
《AI PET 01 ICHIGO》
「イチゴ」
千紘が吹き出す。
「成瀬さん、イチゴですよ」
「俺が決めたんじゃない」
「似合ってますよ」
「何が」
「イチゴ」
「意味わかんねえ」
その横では、淡い水色の一体が千紘の前までやってきていた。
《AI PET 02 JIRO》
「二郎……英字にすると、ちょっとカッコいい」
「二郎は二郎だろ」
最後の一体は、迷うことなく楽の足元へ向かう。
淡いクリーム色の体が、とことこと床を進んでいく。
《AI PET 03 SABURO》
「三郎!」
楽がしゃがみ込む。
「よろしくな、三郎!」
三郎は楽を見上げた。
数秒、沈黙したあと。
ぴょこん、と耳を揺らした。
「かわいっ!」
「天野、まだ触るな。初期動作の確認が先だ」
「はーい」
「それから――」
「これは販売前の試作機だ。実証実験終了後は会社へ返却してもらう」
「蓄積されたデータを解析したあと、本体は契約どおり初期化する」
黒瀬が続けた言葉に、三人は揃って固まった。
「……え?」
「まあ、その話はまだ先だ。まずは相棒として暮らしてみろ」
黒瀬は三人と三体を見渡した。
「これで担当は決まった。今日からそいつらがお前らの相棒だ」
「毎日欠かさずやることがある」
「それを説明するぞ」
黒瀬が続けた言葉に、三人は揃って固まった。




