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人間ってめんどくさい  作者: 季波


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19/28

第18話「寂しいって、なんだ?」

その日の夜。

千紘はいつものようにソファに座り、本を読んでいた。



その隣には、二郎が丸くなっている。



ページをめくる音だけが、静かな部屋に響いていた。



『千紘』



「ん?」



『もう十一時だぞ』



「まだ十一時でしょ」



『明日も仕事だ』



「分かってるよ」



『昨日も同じこと言ってた』



「あとちょっとだけ」



『その「あとちょっと」が長いんだ』



千紘は本から顔を上げ、二郎を見る。



「相変わらずうるさいなぁ」



『生活リズムを守らせてるんだ』



「はいはい」



いつものやり取り。



毎日のように繰り返してきた会話だった。



千紘は再び本へ視線を落とす。



けれど、文字がなかなか頭に入ってこない。



来週。

二郎は会社へ返却される。

そうしたら、この声も聞こえなくなる。



「……ねえ、二郎」



『なんだ?』



千紘は本を閉じた。

「二郎たちってさ」 

「寂しいとか、ないの?」



二郎は首をかしげた。

『寂しい?』



「ほら……もうすぐ私たちと離れるでしょ」



『ああ』



「二郎は、寂しくないの?」



二郎は少し考えるように千紘を見つめた。

『ないぞ』



「……そっか」



『俺たちは、人を癒したり、生活を助けたりするために作られてる』



千紘は黙って二郎を見る。



『別れるときに俺たちが寂しがったら、人間も困るだろ』



「……そういうところまで考えて作られてるんだ」



『そういう設計だからな』



「そっか……」



千紘は小さく笑った。

「じゃあ、寂しいのは私だけか」



二郎がじっと千紘を見つめる。



『千紘は寂しいのか?』



「……ちょっとね」



『まだ俺はここにいるぞ』



「そうだね」

千紘は二郎を抱き上げた。



『おい』



「なに?」



『まだ寝る時間じゃないぞ』



「さっき寝ろって言ったじゃん」



『本を読むのをやめろと言ったんだ』



「細かいなぁ」

二郎を抱えたまま、千紘は寝室へ向かった。

ベッドに入り、いつものように二郎を隣へ置く。



「おやすみ、二郎」



『うん。おやすみ』



千紘は目を閉じる。

少しして、二郎がもぞもぞと動いた。



「あと少しなんだから、我慢してよ」



『むぅ……狭いぞ』



「いいの」



『横暴だ!』



千紘は二郎を見つめ、そっと抱き寄せた。

二郎は、それ以上何も言わなかった。



いつもと同じ夜。


いつもと同じ声。


いつもと同じ温かさ。


それなのに千紘には、その全部が少しだけ特別に思えた。



二郎は、そんな千紘をじっと見つめていた。


(人間は、こういうとき寂しくなるのか)

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