第12話「ペット同伴居酒屋」
「そういえば」
楽がスマホを見ながら言った。
「あのペット同伴OKの居酒屋、予約なしでも入れるみたいです」
「しかもAIペットもOKですよ」
「へぇ、最先端だな」
理人が感心したように言う。
「今日行ってみません?」
「いいね」
「私も気になってた」
その日の夜。
四人と三匹は、その居酒屋を訪れていた。
「いらっしゃいませ!」
「AIペットもご一緒ですね」
「もちろん大丈夫ですよ」
店員は笑顔で案内した。
『よろしくでちゅ』
三郎がぺこりと頭を下げる。
『邪魔はしないよ』
二郎も軽く会釈する。
『ありがとう♥』
イチゴが微笑んだ。
店員は一瞬固まった。
「えっ……」
「しゃ、喋るんですね!?」
三匹はきょとんと店員を見上げる。
『よろしくでちゅ』
「へ、返事した!?」
「しかも普通に会話してる……」
楽が苦笑する。
「まだ試験運用中なんです。詳しいことは話せないんですけど」
案内された席には、小さなペット用のクッションまで用意されていた。
千紘が目を丸くする。
「本当にペット歓迎なんだ」
「では……皆さまのお飲み物をお伺いします」
三匹はテーブルの端に並び、人間たちをじっと見つめていた。
『人間は飲むためだけに集まるのか?』
二郎が不思議そうにつぶやく。
『違うわ♥』
イチゴはくすっと笑う。
『今日は、いっぱいおしゃべりする日なのよ』
三郎は楽しそうに尻尾を揺らした。
『人間は喋ることに意味を感じてるでちゅ!』
「それが楽しいんだよ」
千紘は笑いながら答えた。
「仕事の話もするけど、それだけじゃない」
「くだらない話をして、笑って、気分転換するんだ」
『くだらない話に価値があるのか?』
二郎は首をかしげた。
「あるある」
楽が頷く。
「むしろ、その時間があるから仕事も頑張れるんだよ」
『なるほどでちゅ』
三郎は感心したように耳をぴんと立てた。
『人間は効率だけで生きてないでちゅ!』
「そういうこと」
黒瀬はジョッキを手に取り、小さく笑う。
その時、店員が料理を運んできた。
「お待たせしましたー!」
湯気の立つ焼き鳥、枝豆、唐揚げがテーブルいっぱいに並ぶ。
『おぉ……』
三匹は揃って料理を見つめる。
『食べないのに見るのか?』
二郎が三郎を見る。
『見るだけで十分でちゅ』
『また始まったわ♥』
イチゴは呆れたように肩をすくめた。
「お前、昨日も俺の唐揚げずっと見てたよな」
楽が笑う。
『観察でちゅ』
「絶対違うだろ」
「本当は食べてみたいんだろ?」
『味のデータもあるでちゅ』
『でも食べたことはないでちゅ』
四人はしばらく料理をつまみながら、他愛ない話で盛り上がった。
黒瀬がグラスを置いた。
「お前達は入社してどのくらいだ?」
千紘が答える。
「私は五年目です。UI・UXデザイナーをやっています」
「ここに入社したのは、人が使って楽しいものを作りたかったからです。
便利なだけじゃなくて、毎日ちょっと笑顔になれるものを作りたくて」
理人も続けた。
「俺も同じ五年目です。ハードウェア設計です」
「ものづくりが好きだったので。
長く使える製品を作りたいと思って入社しました」
楽が照れくさそうに笑う。
「俺は三年目です。今はAIペット開発を担当しています」
「もともとはAI開発チームにいて、AIを教えれば教えるほど成長していくのが面白くて、この会社に入りました」
黒瀬はジョッキを口元へ運び、小さくうなずいた。
「そうだったな」
少し考えるように楽へ視線を向ける。
「天野」
「お前は、なぜAI開発チームから異動になったのか?」
「……理人と千紘にも、話してやってくれないか?」
楽は苦笑してうなずいた。
「ええ。構いませんよ」
三郎の耳がぴくりと動いた。
楽の動きが止まった。 箸を持ったまま、しばらく料理を見つめる。
店の賑やかな笑い声だけが聞こえていた。
「それは――」




