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魔王誕生秘話

「最終回だと思っていた時期が、私にもありました。」



「こんにちは、チーム・ミスリルのミスリルです。今日は私が呼ぶわね。チーム・ミスリルの瑠璃ちゃんです。」

「はいはいどうも、ご紹介に預かりました、瑠璃ちゃんだよ~!」

「見てたわよ。」

「がっつり?」

「がっつり。その上で言わせてもらうけど、いい線いってたわ。」

「ん?なんか含みないっすか?」

「含めたもの。」

「その心は?」

「外が近いわ。」

「ん?なぞかけ成立してる?」

「なぞかけって何かしら。」

「あ~、そこはいいや。で、どういうこと?」

「まず反省しなさいな。前回は最終回じゃなかった。」

「最終回だと思っていた時期が、私にもありました。」

「はい、じゃあいってみましょう!」

「ドンドンパホパホ~!」

「まず、前提から直すわね。」

「はい。」

「あなた、前回までずっと、外って言う時。」

「うん。」

「辺境伯領の外側くらいを想定していたでしょう。」

「……してた。」

「ええ。そこが近いのよ。」

「外が近い、ってそういうことか。」

「そういうこと。」


 ミスリルは、紙束の上に指を置いた。


「これはね。辺境伯領の外側の民衆が、勝手に膨らませた噂の要約じゃないの。」

「違うの?」

「違うわ。帝国が、自分たちの政治的利益のために、整えて流した物語。」

「うわ。」

「しかも、ただの噂話じゃない。」

「うん。」

「布告の顔をしてる。」

「うわあ。」

「語彙が順調に減ってるわね。」

「だって、減るでしょこんなの。」


 私は身を乗り出した。


「じゃあさ。」

「うん。」

「王国の聖女が、帝都に現れて堕落した。」

「ええ。」

「これ、どこまで本当?」

「ほとんど本当じゃないわ。」

「ほとんど。」

「ええ。そもそも、リル本人は帝都に行っていないもの。」

「……は?」

「いたのは、リオナとラヴィよ。」

「待って。」

「ええ。」

「王国の聖女、じゃないじゃん。」

「そう。」

「帝都に現れた時点で、もう別人?」

「ええ。もう別人。」


 私は額を押さえた。


「うわ、初手から大事故。」

「でも、帝国にはそれで十分だったの。」

「十分なんだ。」

「ええ。必要だったのは、事実そのものじゃないもの。」

「じゃあ何。」

「使える筋書きよ。」


 ミスリルは、淡々としていた。

 でも、淡々としているぶんだけ、嫌な感じがした。


「帝都で起きたのは、ほんとうは些細な事件。」

「些細?」

「難民街の少女が、袋を盗もうとしたの。」

「うわ。」

「そこで手首を掴まれて、逃げた。」

「誰に。」

「リオナに。」

「……うん。」

「その時、その子は圧倒的な力と目に怯えた。」

「うん。」

「そして、自分の失態を誤魔化すために、恐ろしい魔王に襲われたって言いふらしたのよ。」

「うわあ。」

「似顔絵つきでね。」

「似顔絵つき?」

「ええ。」

「仕事が細かいな、その子。」

「必死だったのでしょうね。」

「まあ、そうか。」


 私は少し笑いかけて、やめた。


「で、その噂を。」

「帝国が拾った。」

「拾った。」

「ううん。」

「違う?」

「利用した、の方が正しいわ。」

「うわ。」

「リオナを、堕落した王国の聖女。」

「うん。」

「つまり魔王として認定した。」

「はい。」

「そして、その少女ジャンヌを。」

「うん。」

「魔王を退けた勇者として認定した。」

「うわあ。」

「今度のうわあは長いわね。」

「いや、長くなるでしょ、そこは。」


 私は紙束をぱたぱた振った。


「待って待って。」

「ええ。」

「勇者って。」

「ええ。」

「盗みに失敗して逃げた少女じゃん。」

「そうとも言えるわね。」

「そうとしか言えなくない?」

「でも、帝国に必要だったのは、失敗した盗人ではない。」

「うん。」

「魔王に最初に立ち向かった勇者よ。」

「……うわ。」

「便利でしょう。」

「便利すぎるでしょ。」


 ミスリルは、少しだけ目を細めた。


「帝国が欲しかったのは、大義名分なの。」

「魔王討伐。」

「そう。」

「しかも、ただの討伐じゃない。」

「うん。」

「王国の象徴である聖女が堕落した。」

「うん。」

「その脅威が、教国の聖地に向かっている。」

「うん。」

「なら。」

「なら?」

「他国へ介入する理由になる。」

「うわあ。」

「王国の問題じゃ済まなくなる。」

「そういうこと。」


 私は、そこでようやく深く息を吐いた。


「なるほどね。」

「ええ。」

「王国の聖女を魔王にする。」

「うん。」

「教国の聖地を脅かす。」

「うん。」

「帝国が最初に立ち向かったことにする。」

「うん。」

「勇者も帝国から出したことにする。」

「そう。」

「うわ、全部入りだ。」

「全部入りよ。」

「嫌な豪華セット。」


 ミスリルは、静かに続けた。


「しかも、それだけじゃないわ。」

「まだあるの?」

「あるわよ。」

「やだなあ。」

「そのあと、天文国の首都が壊滅するでしょう。」

「うん。」

「帝国は、それすら魔王の怒りと結びつける。」

「……ああ。」

「そうやって、最初に作った筋書きへ、あとから起きた別の出来事まで接続していくの。」

「うわ。」

「また見え方が変わった?」

「変わる。」

「でしょうね。」


 私は、しばらく黙った。

 それから、ようやく言った。


「そっか。」

「ええ。」

「前回まで見てたのは、辺境伯領の中で、どう名前が歪んでいったか、だった。」

「そう。」

「でも今回は。」

「うん。」

「帝国が、その歪んだ名前を、国際政治に使える形へ整え直してる。」

「そういうこと。」

「うわあ。」

「語彙力が残念な子になってるわよ。」

「だって、さっきから全部、うわあ案件なんだもん。」


 ミスリルは、そこで少しだけ笑った。


「つまりね。」

「うん。」

「王国の聖女が、帝都に現れて堕落した。」

「うん。」

「この一文は、事実の要約じゃない。」

「うん。」

「帝国が欲しかった世界の見え方、そのものなの。」

「……。」

「しかも、短い。」

「短いねえ。」

「短いから強い。」

「嫌だなあ。」

「嫌ね。」


 私は、紙束の文を指でなぞった。


「敵は教国の聖地へと、イシュの民を率いて向かっているとの情報が入った。」

「ええ。」

「これも、情報が入ったって顔してるけど。」

「ええ。」

「もう、号令だね。」

「そう。」

「確認じゃなくて、動員。」

「そう。」

「聖地を守れ。」

「そう。」

「魔王を討て。」

「そう。」

「帝国こそ先に立て。」

「そういうこと。」


 私は、そこで笑ってしまった。


「最終回だと思ってたのに。」

「ええ。」

「最終要約です、みたいな顔して。」

「ええ。」

「ぜんぜん最終じゃなかった。」

「でしょうね。」

「むしろ。」

「うん。」

「最終的に人を動かすための、完成版だった。」

「その通り。」


 ミスリルは、わずかに頷いた。


「辺境伯領の外側で、聖女の名が脅威になる。」

「うん。」

「そこまでは、前回までで見たわ。」

「うん。」

「でも今回は、その脅威が帝国の布告に乗る。」

「うん。」

「聖女は魔王になり。」

「うん。」

「少女は勇者になり。」

「うん。」

「天空の台地は脅威の根城になる。」

「うん。」

「全部、帝国にとって都合よく、ね。」

「うわあ。」

「まだ減るのね。」

「いや、減るでしょこんなの。」


 私は机に突っ伏しかけて、なんとか持ちこたえた。


「じゃあ、まとめます。」

「どうぞ。」

「この文は、事実を丁寧に伝えるための要約じゃない。」

「はい。」

「帝国が自分たちの利益のために、噂と誤認と偶然を、使える筋書きへ並べ替えた布告。」

「はい。」

「リル本人は帝都に行っていない。」

「はい。」

「いたのはリオナとラヴィ。」

「はい。」

「勇者ジャンヌも、最初から勇者だったわけじゃない。」

「はい。」

「でも帝国は、それでいい。」

「はい。」

「欲しいのは、魔王討伐という大義名分で。」

「はい。」

「教国の聖地を脅かす敵と、それに立ち向かう勇者の物語だから。」

「はい。」

「つまり。」

「つまり?」

「外が近いんじゃなかった。」

「ええ。」

「外、めちゃくちゃ遠かった。」

「そういうこと。」


 ミスリルは、そこで少しだけ笑った。


「だから、まだ終われなかったのよ。」

「終われなかったねえ。」

「ええ。」

「でも、これで見えた。」

「なにが。」

「名前が歪むだけじゃない。」

「うん。」

「歪んだ名前は、他国に持ち出されて、もっとでかい嘘の骨組みにされる。」

「そう。」

「そこまで行くんだ。」

「行くのよ。」


 私は深く頷いた。


「よし。」

「なに。」

「今度こそ、最終回っぽくなってきた。」

「っぽく、ね。」

「っぽく。」

「ええ。」

「たぶんね。」

「たぶん?」

「この番組、女の勘で延びるから。」

「便利な番組ね。」

「便利。」


 私は笑った。


「というわけで。」

「ええ。」

「次は、たぶんほんとに終わりに近い。」

「ええ。」

「聖女と魔王と勇者が、どれだけ便利に使われるか、だいぶ見ちゃったからね。」

「見てしまったわね。」

「うん。」

「じゃあ、また次回。」

「また次回。」


 異世界ネットは来てないけど。

 外は、思っていたよりずっと遠くて、ずっと都合よく話をまとめるみたいです。

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