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勇者はレベルがあがった

「めちゃくちゃおいしかった。」

「そこはぶれないのね。」

「ぶれないねえ。」


 ◆


 はいどーも、チーム・ミスリルの瑠璃ちゃんだよ!


 たぶん最終回です。

 たぶんって言うなって話なんだけど、前回も最終回だと思ってたからね。

 この番組、思ったよりしぶとい。


 でも今回は、ちゃんと終わりに向かってる感じがします。


 だって、前回までで見たんだもん。


 聖女。

 魔王。

 勇者。


 はい、出ました。

 人を動かすのに便利すぎる三点セット。


 で。

 聖女と魔王は、だいぶ見た。

 名前がどう歪んで、どう使われて、どう大義名分へ組み直されるか、かなり見た。


 でも、まだ一人、ちょっとだけ取り残されてるんだよね。


 勇者。


 というわけで、今日はそこです。


 わーぱちぱちー。


 チーム・ミスリルの、ミスリルちゃんです!


 って、また呼ぶのかよって言うね。

 呼びます。

 だって、最後はこの子とやった方がきれいだから。


 ◆


「こんにちは、チーム・ミスリルのミスリルです。」

「はい来ました。」

「来たわね。」

「というわけで、たぶん最終回です。」

「たぶん、ね。」

「そこ引っかかる?」

「引っかかるわ。」

「まあいいや。で、今日は勇者です。」

「ええ。」

「前回さ。」

「うん。」

「帝国が、リオナを魔王に仕立てて、ジャンヌを勇者にしたって見たじゃん。」

「見たわね。」

「そこで思ったんだよ。」

「なに。」

「勇者って、誰にとっての勇者なの。」

「……ええ。」

「だってさ。」

「うん。」

「最初のジャンヌって、勇者っていうより。」

「うん。」

「盗みに失敗して、嘘をついて、でもその嘘が帝国に拾われた子、でしょ。」

「そうね。」

「じゃあ、その子がどうやって勇者になるのか。」

「そこを見るのね。」

「見たい。」


 ミスリルは少しだけ頷いた。


「まず、ジャンヌ自身にとっての勇者、から行く?」

「お、来た。」

「来たわね。」

「お願いします、先生。」

「その呼び方、今日はまあいいわ。」


 ミスリルは、静かに言った。


「ジャンヌにとって、最初の勇者はたぶん、自分自身じゃないの。」

「自分自身。」

「ええ。」

「難民街で生き延びるって、それだけでまず一仕事でしょう。」

「うん。」

「盗みだって、褒められたことじゃないけれど、生きるためだった。」

「うん。」

「だから、最初のジャンヌにとって勇者って、誰かを討つ人じゃない。」

「うん。」

「今日を越える人よ。」

「……ああ。」

「そこに、帝国が別の意味を貼った。」

「魔王を退けた勇者。」

「そう。」

「うわ、急に重い。」

「急に重いのよ。」


 私は少し考えた。


「つまり。」

「うん。」

「ジャンヌは、最初から勇者になりたかったわけじゃない。」

「そう。」

「でも帝国にとっては、勇者が必要だった。」

「そういうこと。」

「だから。」

「だから?」

「ちょうどそこにいた子が、勇者になった。」

「ええ。」

「うわあ。」

「また語彙が減ってるわよ。」

「だって、減るでしょこんなの。」


 ミスリルは、少しだけ笑った。


「でもね。」

「うん。」

「そこで終わると、ジャンヌがかわいそうな駒でしかなくなる。」

「違うの?」

「違わない部分もあるわ。」

「うん。」

「でも、それだけじゃない。」

「ほう。」

「ジャンヌは、帝国に勇者と呼ばれたあと。」

「うん。」

「勇者という名前を、ただ着せられた服のままで終わらせなかった。」

「……。」

「見たことを見たままにはしない。」

「うん。」

「描く。」

「うん。」

「残す。」

「……ああ。」

「そこが、ジャンヌの面白いところよ。」

「勇者っていう名前を、あとから自分の側でも使い返した。」

「そういうこと。」


 私は、そこでようやく少し身を乗り出した。


「待って。」

「なに。」

「それ、かなりでかくない?」

「でかいわよ。」

「だって、前回まで見てきたのって。」

「うん。」

「聖女も魔王も、人が貼った名前だった。」

「ええ。」

「しかも、だいたい本人の外で。」

「ええ。」

「でもジャンヌの場合。」

「うん。」

「勇者って名付けは、たしかに外から来た。」

「うん。」

「でも、そのあとで、自分でも持ち始めるんだ。」

「そう。」

「うわ。」

「今度のうわは、少し質が違うわね。」

「違うね。」

「どう違うの。」

「なんか、ちょっと救いがある。」

「ええ。」

「それ。」

「それか。」


 ミスリルは、静かに頷いた。


「帝国が欲しかったのは、魔王討伐の大義名分。」

「うん。」

「だから勇者は、記号でもよかった。」

「うん。」

「でも、ジャンヌは記号のままでは終わらなかった。」

「うん。」

「見たこと、聞いたこと、感じたことを、自分の手で残していく。」

「うん。」

「だから。」

「だから?」

「帝国にとっての勇者と、ジャンヌ自身の勇者性は、途中から少しずれていく。」

「うわあ。」

「ほんとうに今日はよく減るわね。」

「減るよ。だって、そこ、めっちゃいいじゃん。」

「いいわね。」


 私は、しばらく黙った。

 それから、ぽつりと言った。


「じゃあ、勇者って、誰にとっての勇者なの。」

「ええ。」

「帝国にとっては。」

「使える看板。」

「うん。」

「民衆にとっては。」

「魔王を退けた、わかりやすい希望。」

「うん。」

「でも、ジャンヌ自身にとっては。」

「……。」

「なんだろう。」

「たぶん。」

「うん。」

「あとから取り返した、自分の立ち位置じゃないかしら。」

「取り返した。」

「ええ。」

「最初は、失敗を誤魔化すための嘘だった。」

「うん。」

「でも、その嘘の上に貼られた勇者という名を。」

「うん。」

「見たものを描き、残し、考えることで、自分の側へ少しずつ引き寄せていった。」

「……うわ。」

「それ、便利ね。」

「うん?」

「うわ、って言っとくと、だいたい大事なとこ通る。」

「そういう回じゃないのよ。」


 私は笑った。

 ミスリルも、少しだけ笑った。


「じゃあさ。」

「なに。」

「これで、聖女、魔王、勇者、三つそろったんだ。」

「そうね。」

「聖女は。」

「人を守る名でもあり、皮肉でもあり、動員の旗印にもなる。」

「うん。」

「魔王は。」

「脅威を一つにまとめるための、便利すぎる名前。」

「うん。」

「勇者は。」

「最初は大義名分のための看板。」

「うん。」

「でも、最後には、その看板を内側から少しずつ取り返す子もいる。」

「そういうこと。」

「うわあ。」

「またそれ。」

「いや、でも、最後にそこがあると全然違うでしょ。」

「違うわね。」


 ミスリルは、そこで少しだけ目を伏せた。


「だから、このシリーズ。」

「うん。」

「嫌な話ばかりだったけど。」

「うん。」

「嫌なだけでは終わらないのよ。」

「うん。」

「名前は人を縛る。」

「うん。」

「でも、名前に縛られたままの人ばかりでもない。」

「……。」

「そこが、せめてもの救い。」

「うん。」


 私は、深く頷いた。


「じゃあ、まとめます。」

「どうぞ。」

「帝国にとっての勇者は、魔王討伐を正当化するための看板だった。」

「はい。」

「だから、最初のジャンヌ本人が何者だったかは、そこまで重要じゃない。」

「はい。」

「でも。」

「でも?」

「ジャンヌは、その看板のままで終わらなかった。」

「はい。」

「見たものを残し、描き、考えることで、勇者という名前を少しずつ自分の側へ引き寄せていった。」

「はい。」

「だから。」

「だから?」

「勇者って、誰にとっての勇者なの、って問いには。」

「うん。」

「帝国にとっての勇者と、ジャンヌ自身の勇者は、もう同じじゃない、って答えになる。」

「ええ。」

「うわあ。」

「最後までそれで押し切るつもりなのね。」

「押し切るねえ。」


 ミスリルは、そこで少しだけ笑った。


「じゃあ、たぶん。」

「うん。」

「今度こそ最終回ね。」

「たぶんね。」

「まだ言うの?」

「だって、この番組、女の勘で延びるから。」

「便利な番組。」

「便利。」


 私は笑って、紙束を閉じた。


「というわけで。」

「ええ。」

「異世界の論文を読んでみた、から始まって。」

「ええ。」

「歴史の顔をした物語を読んで。」

「ええ。」

「制度の運用記録を読んで。」

「ええ。」

「最後に、聖女、魔王、勇者っていう便利すぎる名前が、どう使われるかまで来ました。」

「来たわね。」

「長かった。」

「長かったわね。」

「でも。」

「うん。」

「めちゃくちゃおいしかった。」

「そこはぶれないのね。」

「ぶれないねえ。」


 ミスリルは、ほんの少しだけ、やわらかく笑った。


「じゃあ、また。」

「うん。」

「次があったら、その時は。」

「うん。」

「ほんとうに女の勘のせいね。」

「便利だからしょうがない。」


 異世界ネットは来てないけど。

 名前は人を動かして、縛って、ときどき少しだけ、取り返されるみたいです。

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