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鳥獣憐みの令

 はい、というわけで、いってみまっしょう!チーム・ミスリルの瑠璃ちゃんだよ!


 長い。


 いや、知ってたよ?

 貼った時点でうすうす気付いてた。

 これ、一回で読むやつじゃない長さしてるなって。


 法ができました。

 運用が広がりました。

 社会が歪みました。

 そして、誰の名前で刻まれたか。

 そこまで一気に読まないと、たぶんおいしいところが抜ける。


 まず、第一印象。


 すっごい丁寧。

 そして、すっごい嫌。


 いや、文章が嫌って意味じゃないよ。

 文章はむしろ、めちゃくちゃ親切。


 順を追って説明しよう。

 獣人期はやや複雑であるため。


 はい、ありがとう。

 こういう記録、大好き。

 整理してくれて助かる。


 でも、整理されればされるほど、嫌なんだよね。

 なぜならこれ、最初から最後まで、

 善意が制度になって、

 制度が運用になって、

 運用が金になる

 って流れを、めちゃくちゃ落ち着いた筆致で追ってるから。


 怖いねえ。


 で、最初にいちばん大事なのはここです。


 鳥獣憐みの令が発布された。

 孤児院ができた。

 リルの功績として認知された。

 罰則金と寄付金で急速に拡大した。


 はい。

 もうここで、法と施設と金が一体化してる。


 つまり、単なる理念じゃないんだよね。

 かわいそうだから守ろう、で終わってない。

 守るための法があって、

 収容するための場所があって、

 回すための金が入る。


 この時点で制度です。

 しかも、ちゃんと回る制度。


 だから強い。

 だから歪む。


 ここ、すごく大事。


 しかもさらに嫌なのが、

 当初積極的に収容されたのは、奴隷制の闇、片親をイシュの民とする孤児たちだった、ってところ。


 これね。

 出発点だけ見たら、わりと救済なんだよ。

 そこは否定しにくい。

 実際、助かった子はいたんだと思う。

 安息を得る者もいた、ってちゃんと書いてあるしね。


 ここ、逃げてないのが良い。

 孤児院は全部地獄でした、じゃない。

 救われた人もいた。

 でも、それと隔離施設化することは両立する。


 うわあ。

 好き。

 嫌だけど好き。


 つまりこれ、制度批判の文章としてすごくえらいんだよね。

 最初から全部悪でした、にしない。

 良かった面があったことを認めた上で、それでも拡大すると何が起きるかを追ってる。


 で、ここからがもう、社会科の授業で見せたいくらい上手い。


 犬猫期。

 害獣期。

 家畜期。

 獣人期。


 はい、来ました。

 段階整理。

 こういうの、読み物として強いんだよね。


 最初は、犬猫などの無意味な虐殺を減らしたい。

 でも罰金収益は落ちていく。

 じゃあ次の対象を探す。

 害獣へ広がる。

 農村が死ぬ。

 次に家畜へ広がる。

 畜産が死ぬ。

 外壁の内と外で格差が出る。

 その豊かになった自然に、イシュの民がいる。

 そして最後に獣人へ行く。


 きれい。

 きれいすぎて最悪。


 なにが最悪かって、

 毎段階で、その場その場の理屈があるんだよね。


 犬猫はかわいそう。

 害獣も傷つけるのはだめ。

 家畜だって命。

 獣人も守られるべき。


 単体で切ると、どれもそれっぽい。

 でも、連続で見るとわかる。

 これ、守る対象が広がってるんじゃない。

 罰則の射程が広がってる。


 そして射程が広がるたびに、

 法を動かす側と、

 法に動かされる側の差がでかくなる。


 外壁の内側は守られる。

 土地の恩恵もある。

 害獣も来ない。

 でも外壁の外側は違う。

 家畜を失って、自然だけが戻ってくる。


 はい、ここ。

 めちゃくちゃ大事。


 法って、同じ文言でも、同じようには落ちないんだよね。

 置かれた場所で、効き方が変わる。


 だから、内側では聖女。

 外側では脅威。


 このズレが、後ろで効いてくる。


 あと、私が今回いちばんうわあってなったのはここです。


 動物を利用した恫喝。

 獣人を利用した恫喝。


 いや、怖。

 でも、すごい。

 記憶ってこう残るんだよね。


 前に犬や野獣を盾にして人を罰金へ追い込んだ記憶がある。

 だから次は、人の法に縛られないイシュの民が同じことをするんじゃないかって恐れる。


 でも実際には、

 イシュの民は脅かすどころか、困窮した人に手を差し伸べている。

 なのに、人間の側はそこに過去の恐怖を重ねてしまう。


 これ、すごく嫌なリアルさがある。

 相手が実際に何をしたかより、

 こちらが何を恐れているかで対象化が進むんだよね。


 で、その恐怖が適応保護法と結びついて、

 保護の名のもとに捕獲が進む。


 はい。

 来ました。

 保護。


 こういう単語、ほんと強い。

 保護って言われると、いったん善意に見えるじゃん。

 でも中身は収容。

 しかも積極的捕獲。


 うわあ。

 好き。

 嫌だけど好き。


 そして、この記録がさらにえらいのは、

 解放と収容が同時に進行するという奇妙な結果をもたらした

 って、ちゃんと書いてるところ。


 そうなんだよ。

 ここ、雑に奴隷解放の良い話でした、にも、

 隔離の悪い話でした、にも寄せてない。

 両方が同時に起きてる。

 だから、奇妙なんです。


 しかも、その奇妙さの中心に、ずっと刻まれ続ける名前がある。


 リル。


 ここでようやく、鳥獣憐みの令と歪みが一本に見えてくる。


 法の施行や運用拡大の節々には、民衆に姿を見せることのないリルの名が刻まれ続けた。


 うわあ。

 これだよね。


 姿は見えない。

 でも名前だけは刻まれる。

 功績としても刻まれる。

 脅威としても刻まれる。


 内側では聖女。

 外側では皮肉を込めた聖女。

 しかも、どちらも名前だけが先に動く。


 はい。

 また来ました。

 謁見の間現象です。


 今回は肩書きじゃない。

 名前。

 名前だけが先に行く。

 その名前に、それぞれの立場から意味が貼られる。


 つまりこれ、

 前回の命名権バトルが、

 制度に入った結果でもあるんだよね。


 誰が人を名乗るのか。

 誰が異種と呼ばれるのか。

 だけじゃない。


 誰の名で法が動いたことになるのか。

 その名前が、誰にとって救いで、誰にとって脅威になるのか。


 そこまで行ってる。


 うわあ。

 きれい。

 きれいすぎて怖い。


 なので、今回の総評です。


 この記録は、

 鳥獣憐みの令がどういう法だったか

 を説明しているだけではありません。


 善意が制度になり、

 制度が運用になり、

 運用が金と恐怖と記憶に接続され、

 最後に一つの名前へ回収されていく過程を記録した文章です。


 しかも厄介なのは、

 その始まりに救済があったこと。

 安息を得た者がいたこと。

 そこを消していないこと。


 だから、この歪みは、

 最初から全部悪でした

 では片付かない。


 良いことを制度化したら、

 どこで、どういう段階を踏んで、こんなことになるのか。


 それを、

 犬猫期。

 害獣期。

 家畜期。

 獣人期。

 って、ほとんど教材みたいに見せてくる。


 怖いねえ。

 でも、めちゃくちゃ良い記録です。


 そして私は、ここで思いました。


 犬猫を守る話から始まったのに、

 最後に刻まれるのが、民衆に姿を見せることのないリルの名、なの、

 あまりにも上手すぎる。


 だってこれ、制度の中身を全部知らなくても、

 人は名前だけで怖がれるから。


 はい。

 そういうわけで。


 鳥獣憐みの令と歪み。

 分けたくなるほど長い。

 でも、読むなら一気に。

 その方が絶対においしい。


 というわけで、今回はここまで。


 次回は、たぶんもう少しだけ、この名前の重さに触れることになる気がしています。


 本文貼っとくよ~!


 ◆


 鳥獣(ちょうじゅう)(あわれ)みの(れい)発布(はっぷ)された。


 法の施行(せこう)に合わせ、リルの名を(かん)した孤児(こじ)(いん)設立(せつりつ)され、社会的にリルの功績(こうせき)として認知(にんち)されることとなった。罰則(ばっそく)金や寄付(きふ)金によって孤児院は急速に規模(きぼ)拡大(かくだい)し、運営(うんえい)基盤(きばん)を確立していった。当初(とうしょ)積極(せっきょく)的に収容(しゅうよう)されたのは、奴隷(どれい)制の(やみ)、片親をイシュの民とする孤児たちだった。


 街の外壁(がいへき)内、中央広場から上流にかけて広がる斜面(しゃめん)には、「黄金の穀倉(こくそう)地」と呼ばれる土地が存在する。一般にはほとんど知られていないが、この土地には生産能力を緩やかに増強する魔法が宿っており、需要に応じて作物の収穫量を補う効果があった。


 イシュの民の性質は、総じて(おだ)やかであった。

 孤児院での生活はすべての収容者にとって過酷(かこく)さはなく、日々の暮らしに不自由はなかった。中には安息(あんそく)を得る者もいた。外部から見れば孤児院はイシュの民の孤児を保護する施設と映るが、法の拡大が進むにつれ、イシュの民の隔離(かくり)施設として利用されることとなっていく。


 当初、犬や猫などの無意味な虐殺(ぎゃくさつ)は減少せず、罰金(ばっきん)による収益は順調に積み上がった。この時期は後に「犬猫(けんびょう)期」と呼ばれる。

 風車からの監視や警邏(けいら)の強化に着手し、無駄な虐待は著しく減少した。だが罰金による収益は徐々に減少したため、次なる対象(たいしょう)を求めた。害獣(がいじゅう)を傷つけることも罰則の範囲とされたが、農村では駆除(くじょ)ができず、農作物への被害(ひがい)が広がっていく。「害獣(がいじゅう)期」である。

 この時期、法の抜け道として「動物を利用した恫喝(どうかつ)」が各地で横行した。富裕層の一部は、犬や野獣を盾に法を操り、他者を罰金に追い込む。動物が人を縛る手段として使われた記憶は、社会の奥底に残ることとなった。


 やがて役人の巧みな話術により、罰金対象は家畜にまで拡大される。恫喝被害を受けて、運送用など一部を除いて動物の所有そのものも規制されたことが特徴である。「家畜(かちく)期」だ。

 この段階で恫喝は収束するが、農耕と畜産は急速に衰退し、外壁の外側の村々では生活が困難になっていった。

 外壁の内側では、土地の恩恵により収穫量が保たれ、外壁のおかげで害獣もおらず、目立った影響はなかった。だが、外壁の外側では自然が豊かさを取り戻し、家畜を失った人々にとって、森や野に生きる獣たちが新たな脅威(きょうい)となった。


 その豊かになった自然を()()とするのがイシュの民だった。

 彼らは人の法に縛られず、必要な分だけ狩猟(しゅりょう)を行い、自然と共に静かに暮らしていた。だが、かつて「動物を利用した恫喝」が蔓延(はびこ)った時代を知る人々は、同じことが再び起こるのではないかと恐れた。

 人の法に縛られないイシュの民が、法を用いて人を脅かすようになる――そんな不安がまことしやかにささやかれ、外壁の外側の民衆(みんしゅう)の間で静かに広がっていった。


 このころ、鳥獣憐みの令の影響が、文字通り三者三様(さんしゃさんよう)様相(ようそう)(てい)していた。


 イシュの民は、外壁の外側の人々を(おびや)かすどころか、生活が困窮(こんきゅう)していた人々に(こころよ)く手を差し伸べるが、根深い選民思想(せんみんしそう)から、人々はそんな彼らを奴隷として位置付け、労働力や食料確保の手段として都合(つごう)よく利用した。

 家畜がいなくなると穀物(こくもつ)以外の食料(しょくりょう)輸入(ゆにゅう)に頼ることとなり、それが財政(ざいせい)圧迫(あっぱく)し始めたのもこのころである。


 鳥獣憐みの令の最後の適用は、獣人――すなわちイシュの民に対してだった。これが、民衆の恐怖(きょうふ)心による「適応保護(てきおうほご)法」の悪用を招いた。後に最も注目される「獣人(じゅうじん)期」である。


 獣人期はやや複雑(ふくざつ)であるため、順を追って説明しよう。

 かつて孤児院の設立とともに犬猫期に施行された適応保護法は、表向きには、孤児の保護と社会適応を目的とした法である。下層(かそう)で扱われてきた彼らには職も土地もなく、言葉も風習も異なっていたため、保護の名のもとに収容されることは自然な流れとして受け入れられていた。

 奴隷がいなくなっては困るという社会的背景から奴隷の所有には規制(きせい)を設けず、犬猫期や害獣期同様、対象を害することのみを禁ずる。


「獣人――イシュの民を利用した恫喝」

 かつての恐怖が形を変えて鎌首(かまくび)をもたげる。――所有が禁じられないのであれば、イシュの民がいなければいい。

 こうして適応保護法を根拠に、奴隷として扱われていた獣人のみならず、自由に暮らしていた者たちまでもが、保護の名のもとに積極的に捕獲(ほかく)されていったのである。


 鳥獣憐みの令の公布(こうふ)当初から動物愛護(あいご)の精神のもとに、領主(りょうしゅ)の娘、リルを聖女と呼ぶような統制(とうせい)が取られていた。寄付金のためである。

 外壁の内側では素直に定着していくが、外側では民衆を中心として、鳥獣憐みの令が適応保護法と合わさり、奴隷解放(かいほう)の側面を持つことになった結果、聖女という呼び名には皮肉(ひにく)が込められた。同時に適応保護法による新たな隔離を生む法として機能し、解放と収容が同時に進行するという奇妙(きみょう)な結果をもたらした。

 その法が、リルの一声によって施行されたのだ。


 法の施行や運用(うんよう)拡大の節々には、民衆に姿を見せることのないリルの名が(きざ)まれ続けた。

 孤児院の設立や運営における功績とあわせ、社会的評価は確固(かっこ)たるものとなるが、名前だけが独り歩きし、とりわけ外壁の外側の民衆には脅威として刻まれることとなる。

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