ex.1 第一回生徒会メンバーギャップ選手権
気まぐれで追加してみました。
*本編終了後くらいのマグノリアンとクィアシーナのお話です*
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クィアシーナが相談箱の仕分けを終え、オヤツをつまみながら冊子を読んでいたところ、会議室の扉が開く音が聞こえた。
「なに食い入るように見てるんだ?」
側によって手元を覗き込んできたのは、二階の掃除を終えてきたマグノリアン。
「お疲れ様です、マグノリアンさん。
今ちょうど、ファンクラ部の最新号を読んでたところなんですけど……」
「あー……」
聞かなきゃよかった――そんな遠い目をしながらマグノリアンは返事をする。
学園が正常に戻ってから、クィアシーナはファンクラブの活動にのめり込んでいた。……たった一人の、ジガルデ親衛隊として。
マグノリアンも後輩の趣味に文句を言う気はさらさらない。
ただ、あまりにも熱心なので、ちょっと、いや、かなり引いていたりする。
(早く熱が冷めて欲しい……最近、あの人が機嫌悪いのは明らかにコイツのせいなんだから)
今、執務室のクィアシーナの机には、ジガルデの切り抜き写真が一面に貼られている。それだけではなく、旧生徒会が特集されているバックナンバーの冊子や謎の写真集がところ狭しと並んでいた。
クィアシーナが仕事の合間に写真を見てウットリしているのがここ最近の日常。
そして……その様子を見て、リンスティーがあからさまな嫉妬で周りに八つ当たりをするのも、一連の流れだったりする。
(八つ当たりの相手の大半は俺なんだから、ほんと勘弁して欲しい……)
そんなマグノリアンの気苦労も知らず、クィアシーナは含みある笑顔を向けながら冊子の説明を始める。
「今回の特集はめちゃくちゃ面白いんですよ~。なんと、生徒会現メンバーの"新旧ギャップランキング"なんです!」
興奮気味に言ったものの、クィアシーナの紹介も虚しく、マグノリアンは興味なさげに彼女が仕分けた手紙を持って部屋から出て行こうとする。
「……ちょっとは興味持ってくださいよ」
「いや、マジで微塵も興味が湧かない」
ぶんぶんと手を振り、頭を下げる。
「なんかごめん」
マグノリアンから真面目に謝られ、クィアシーナは「謝らないでください、余計に腹が立つから!」と頭をガリガリと掻きむしる。
「でも、マグノリアンさんもちゃんと内容を聞いたらきっと気になると思うんで、無理矢理読んであげますね」
「いや、本気で遠慮したいんだけど……」
しかしクィアシーナがマグノリアンのボヤキなど気にするはずもなく、最初のページを捲ってランキングの一部をお披露目する。
「ほら、出て行こうとしないで、隣座ってください。まず下位からですよ」
「……」
マグノリアンは渋々と部屋に戻り、クィアシーナの隣の椅子を引く。
一度言い出したらこの後輩が中々引かないことを知っているため、どこか諦めの気持ちで付き合ってやることにした。
(というか、生徒会メンバーの冊子なら、コイツも載ってるだろうに、よく恥ずかしげもなく見れるな)
生徒会の面々は目立つし、こうしてファンがいるのはわかってるが、マグノリアンはいまいち自分も生徒会のメンバーとして持ち上げられているのが不思議でしょうがなかった。
だって、他のメンバーと違って女子からチヤホヤされた思い出なんかほとんどない。
ファンクラ部で自分を特集するから、と言われたときは、「え、俺、需要あんの?」とむず痒くてしょうがなかったくらいだ。
「はい、しっかり見てくださいね」
クィアシーナはお構いなしにマグノリアンの目の前に冊子をおく。
結局、否応なしに目を通す羽目になってしまった。
飛び込んできた見出しは――
「特集! 生徒会メンバーの今と昔。一番変わったと思うのは誰? ランキング!」
(うわぁ……嫌な予感しかしねぇ……)
まだ見出ししか見てないのに、俗な内容に逃げ出したくなる。
けれど、そんなことクィアシーナが許すはずもないので、黙って最初のページに目を落とした。
「まず第八位。ビクターさんですね。写真のとおり、あの人、一年のときから全然変わってないんですよね~」
八位・ビクターの名前とともに、彼の一年のときの写真と今の写真が並べられている。
たしかに、一年前のほうは少し幼さがあるものの、無邪気な少年らしい彼の雰囲気は、今と何も変わっていなかった。
「ふーん、これは納得だな。ビクターはずっとこんな感じのままだ」
思わず、マグノリアンから同意の言葉が漏れた。
「こんなに変わらないってのも逆にすごいですよね~」
クィアシーナが感想を口にしたあと、ページをめくって続けて言った。
「それで、一票差で第七位になったのがドゥランさんです。
ドゥランさんは、髪形も表情も一年前と今でまったく同じだから、どっちがどっちか間違い探しをしたくらいですよ。絶対ビクターさんより順位が下だと思うんですけどね」
「あー、アイツも出会ったときからほとんど変わってないからなあ」
冊子の写真は、風景が違うくらいで、一年前と今と、立ち姿すら同じように写っていた。編集したやつも、よく新旧の見分けがついたものだ。
「つぎ、第六位は誰だと思います?」
さっきに比べて冊子に食いつきを見せるマグノリアンに、クィアシーナが横から尋ねると、マグノリアンは「ううん」と頭を悩ませて唸った。
「難しいな……アレクシスさんとか?」
「すごい! その通り! ちょっと写真見てくださいよ!
第八位、七位の二人とは雲泥の差があるから」
雲泥の差でギャップがあると言われ、どれどれとアレクシスの写っているページに目を落とす。
「え、若っ!」
「でしょ!? なんかアレクシスさん、昔は今よりももっと線が細かったんですね」
写真に写っているのは、一年生の頃と思われるアレクシス。
短いふんわりとしたピンクブロンドをかきあげたポーズの美少年がそこにいた。
今のアレクシスはもう少し筋肉質で雄々しく、青年の色気を伴っている。
「うわぁ、こんな美少年してたんだ……俺は二年の途中からのアレクシスさんしか知らなかったから、確かにこれは驚きかもしれない」
「ですよね!? でも、これでまだ六位ですよ。次の第五位は……誰だと思います?」
クィアシーナはページを捲らずに焦らしてくる。
(め、面倒くせぇな……)
しかし言葉には出さず「じゃあ、ルーベントさんで」と適当に答えた。
「え、すごい、大当たりです」
マグノリアンは適当に答えたわりに、思いがけず答えを当ててしまったことに心が僅かに弾む。
クィアシーナが「ほら、見てください」と第五位のルーベントの写真が載っているページを広げると、思わず驚きの声が漏れた。
「うわ、こっちもすげぇ違う……」
ルーベントは高位貴族だが、マグノリアンとは生徒会に入るまで直接の関わりがなかった。
マグノリアンが初めてルーベントと会ったときは、ガタイのいい身体という印象が強かった。
だからこそ――
「どっちかっていうと、ヒョロッヒョロの少年ですよね。一年生の頃のルーベントさん」
「ああ……ひよっ子感がすごい。二年の途中ではもう今の感じに仕上がってたから、一年ちょっとでめちゃくちゃ成長したってことか?」
写真に写っているルーベントは、ザ・成長期前の少年という出で立ちだ。
制服は在学中に大きくなるのを見越してか、かなり大きめのサイズを着用しており、見るからに服に着られている。
「剣術部に入って、遅い成長期が来たんですかね……いやぁさすが五位」
(いや、これで五位かよ……)
四位以上はどんな驚きのギャップが待ってるんだろうか。
いつの間にか、マグノリアンは上位四名のギャップが気になってしょうがなくなっていた。
完全にクィアシーナの思惑通りになっているが、当の本人は気付かない。
「続いて四位です。はい、誰か当ててください」
「四位か……」
マグノリアンは顎に手をあてて真剣に頭を働かせる。
ここまで来たら消去法だ。
なんとなくではあるが――我らが会長様は一年生の頃からずっと変わらないままなのでは、と思い至る。
上位三組には入ってないのではないだろうか。
「ダンテさんか?」
「残念! 外れてしまいましたね!」
(くそっ、間違えた。――いや、間違えたからってなんのダメージもないんだけど)
心の中で悪態をつくマグノリアンは、すっかりクィアシーナのペースにはまっていた。
「正解はなんと――
私でした~! まだ生徒会歴も入学歴も浅い私が、まさか上位に食い込むとは思ってませんでしたよー」
「!」
はは、とあっけらかんと笑うクィアシーナに、マグノリアンは衝撃を受けた。まさかのランクインである。
マグノリアンはすぐさまクィアシーナにどんなギャップが?と冊子のコメントに目を通す。
『最初はただの地味な子だと思ってたのに、実はヒーローだったから』
『コネか何かで生徒会に入ったかと思いきや、ちゃんと選ばれるだけの実力を持っていたことがわかったから』
『大人しい印象だったのに、貴族主義で幅を利かせてた人を一発でノックアウトしてた』
これらのコメントに、マグノリアンは頷きながら納得した。
だって、自分もクィアシーナの第一印象は"大人しい庶民の女子生徒"だったのに、生徒会に入って一週間以内に"全く普通じゃないたくましい奴"に印象が様変わりしていたのだから。
ちなみに、彼女のページの新旧写真では、旧には学園の入学願書に使ったであろう証明写真のような姿が、もう一方にはクィアシーナが鉄板ローファーを片手に無表情に振り向いている、さながら暗殺者のような姿が写っていた。
「複雑ですが、何事においても順位が上だと嬉しいですよね。フフ……」
――含みある言い方が、怖い。
やや引いた様子のマグノリアンを気にもとめず、クィアシーナは再びページに手をかける。
「さあ、お待たせしました、ベスト三ですよ!
まず第三位! それは……」
……ごくり。
マグノリアンは固唾を呑んで、クィアシーナの発表を聞く。
「ばーん!」
クィアシーナがページをめくると同時に、三位の名前を叫んだ。
「ダンテ会長でした~!」
「うわー……ダンテさんは四位じゃなくて三位だったか……」
マグノリアンは自身の予想が外れ、悔しさで額に手をやり項垂れる。
クィアシーナはマグノリアンの様子を見つつ、ダンテが三位に選ばれた理由の説明を始める。
「ダンテ会長は一年生のときから変わらずキラキラしてたみたいなんですけど、この間の学園の事件で暗黒面を見せたことでギャップ第三位に選ばれたみたいです」
「そっちかよ」
クィアシーナが言っている学園の事件とは、ダンテが禁呪を受けたことで、身分差は絶対という反平等を生徒に強いたときのことだろう。
「この写真、ヤバくないですか? 王子様のくせに、完全に悪の帝王ですよね」
クィアシーナがページに写っている写真を指さす。
そこには、髪をオールバックにしてゴミを見るような視線を向けた絶対零度のダンテが写っていた。
もう一方の写真は、最近撮られたであろうガッツリカメラ目線のキラキラスマイルのダンテ王子殿下の姿がある。
――確かに、この差は凄まじい。
「闇堕ち感すげぇな……というかこのときのダンテさんをよく写真に収めることが出来たな。ファンクラ部のメンバーってほんと恐ろしい」
彼女たちの度胸や熱量、そして執念には本当に感服する。
「ありがとうございます」
「なんでおまえがお礼を言うんだよ」
「いえ、メンバーを代表して言ったまでです」
「……正規メンバーじゃないくせに、よく代表なんて言えたなぁ」
実は、クィアシーナは正式なファンクラ部会員ではない。ジガルデファンクラグループのメンバーが足りず、かといって他のメンバーグループに入るわけにはいかずで、部員になれないまま"よく部の集まりに顔を出す人"に留まっていた。
「心はずっとファンクラ部の部員なんで」
しれっと言いのけ、続ける。
「さて、残すところあと二人です。どっちが一位かわかりますか?」
「あと二人か……リンスティーさんと、……ん?」
そこで、ようやくある事実に思い当たった。
(あれ、俺の名前――まだ残ってる?)
「リンスティーさんかマグノリアンさん。どっちがギャップ・ナンバーワンだと思います?」
探るように顔を覗いてくるクィアシーナに、マグノリアンはいったん頭に湧いたことを置いといて、ふっと鼻で笑って答えた。
「そんなの、一位はリンスティーさんに決まってんだろ。というか、俺が残ってる意味がそもそもわかんねーし」
マグノリアンには心あたりがなかった。
入学から今まで、至って普通に過ごしてきたのだから。
……まあ、途中実家から勘当されて、生活がガラッと変わってしまったのだけども、そんなものはギャップに含まれないだろう。
そう、思っていたのだが。
「フフ」
なぜか、クィアシーナが意味深げに笑った。
「じゃあ、衝撃の二位をお見せしますよ……それは――」
(一体なんの笑いだよ⋯⋯)
意味深な笑みとためを作り、クィアシーナがゆっくりとページをめくっていくと――
「!」
マグノリアンの目に、"第二位・リンスティー"の文字が飛び込んできた。
「は!? 嘘だろ!? リンスティーさんが二位だと!?」
マグノリアンは思わずガタンと音を鳴らして椅子から立ち上がった。
「ね~びっくりですよね。こんなに昔と今でギャップがある人だっていうのに、まさか二位だとは」
リンスティーのページは、一年生の頃、二年生の頃、今の写真と他のメンバーと違って三つの写真が並べられていた。
一年生のときのリンスティー。
銀のウェーブがかった髪をきっちりと一つに結び、窓の外を見ている写真は、どこか憂いのある表情が薄幸の美少年という印象を見る者に与えている。
二年生のときのリンスティー。
見慣れたお姉様姿で、髪を肩から片手で払い絶対的な美貌で自信ありげな笑みを浮かべている。事情を知らない人が見ると、一体一年で何があったんだ、という変貌っぷりである。
そして、三年生の今の写真。
髪を短く切り、柔らかく微笑んで王子様対応している最近の姿が写っていた。
「どう考えても、この人こそ学年によって差がありすぎだろ。俺がこれを上回るなんて、万が一にもありえないんだけど」
マグノリアンがリンスティーの写真から目を離し、心底解せないといった顔でクィアシーナに文句を言う。
「でも、それがありえるから第一位なんですよ。私もびっくりしましたが、見たらこの結果には納得でした」
「納得って……第一位のページを見せてくれ」
「はいはい、ただいま」
クィアシーナは言われたとおりにページをめくって冊子をそのままマグノリアンへ手渡した。
彼は奪うように冊子を手に取り、一位のページを見る。
そして、目を丸くして口から声が漏れた。
「――は?」
「ね? 納得じゃないですか?」
冊子を持った手が震える。
開いたままの第一位のページ。
そこには。
「なんていうか、びっくりするほど、垢抜けたんですね。
マグノリアンさんって」
クィアシーナの言葉に、ごとんと頭を机に突っ伏した。
(嘘だろ。俺、こんなんだったっけ――?)
"衝撃のマグノリアン様の一年生のお姿!"
そんな見出しとともに、良く言えば真面目そうで、悪く言えば野暮ったい男子生徒が写っている。
このオレンジの赤毛は、間違いなく自分のもので。
「このときは髪短かったんですね」
今は肩につく長さの髪をハーフアップにしているが、確かに一年生の頃はかなり短かった。
短い髪をきっちりと七三に分け、寸分の乱れもないように使用人にセットしてもらうのが朝の日課で。
「制服もお手本のような着こなしだし」
制服のシャツのボタンは襟元は上まで、ブレザーも全てのボタンをきっちりととめる。ネクタイもきゅっと上まで結ばないと気が済まなかった。
……いつからだろうか。
ネクタイを締めることはなくなり、むしろインナーにTシャツを着用し、ブレザーは羽織るだけのものとしてボタンをとめるなんてことをしなくなったのは。
「なんか眼鏡かけてるし」
そう、目が悪いわけではないのに、このときは毎日眼鏡をかけていた。
――眼鏡をするとかっこいいと本気で思っていたのだ。頭が良さそうに見えるから。
(これは、黒歴史――)
「コメントでは、"真面目な貴族の坊っちゃんが、庶民化したことで爆イケになった"ですって。本当にその通りですね」
「庶民化って言うなよ……」
呻くような呟きが漏れる。
(そうか、勘当されて特別寮から一般寮に行ってからだ。アイツらにだんだん毒されていったんだった……)
純粋な貴族の自分が、それまで踏み入れたことのない未開の地。
一般男子寮。
恐ろしいくらいに荒れた館内に、聞き慣れない言葉遣いの粗野な態度の寮生たち。
さながら、野性の群れに放り込まれた血統書付きの兎の気分だった。
その過酷な環境を生き残るために、周りに馴染むことから始め――
結果、馴染み過ぎた。
今では「え、マグノリアン先輩って元は貴族の人だったんですか? ははっ、冗談きついっすよ~」なんて、勘当されたことを知らない一年生に貴族であったことを疑われる始末だ。
「おめでとうございます」
「マジで嬉しくねぇ……」
「私は今のマグノリアンさんのほうが素敵だと思いますよ」
「……そりゃどうも」
机に頬をつけたまま力なく返事をするマグノリアン。
そんな彼を見て、クィアシーナは内心思う。
(今度、みんなに掛け合って、一年生のときの格好のマグノリアンさんを再現してもらおう――。
きっと、マグノリアンさんファンはインテリな彼を見て、鼻血を吹いて倒れるに違いない)
そんな恐ろしいことを彼女が計画しているとも知らず、マグノリアンは「どうかこの冊子がファンクラ部以外に出回りませんように」、とひたすらに願うのだった。
(おわり)




