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124.裁かれるべき罪とは

「彼女はしばらくの間はこのままで大丈夫よ。それより……


本当はもう一人、この舞台に上がるはずだった人物がいます。

ダンテ、力を貸してくれますね?」


学園長が三人を見渡し、それからダンテに告げた。


「もちろんです。取り逃がしてしまい、申し訳ございません」


(もう一人? 取り逃がした?)


クィアシーナは頭の中が疑問でいっぱいになる。


"これまでのことはガブリエラが全て仕組んだもの。

カロン殿下が裏で指示したが、それは彼女の意思でもあった"


これで解決したのではないのか。


リンスティーは、眠るガブリエラの頭を労わるように撫でていた。

その様子を見ながら、彼も同じ疑問を抱いたらしい。


「ダンテ、取り逃がしたって、一体誰のことを言ってるんだ? カロン殿下か?」


リンスティーの問いかけに、ダンテは静かな口調で答えた。


「まさか。兄よりもっと姑息で、取るに足らない人物だよ。けれど――」


彼の表情に怒りが滲んだ。


「ガブリエラを連れてくるのに精一杯で、敢えて見逃してやってただけだ。

引きずり出してでも、ここへ来る必要がある」


(それは一体、誰?)


学園長が両手を合わせ、念じるようにして目を閉じた。

その途端、彼女の合わせた手の中から緑の光の粒子が飛び出し、部屋中に舞い散った。

そうかと思うと、緑の光る粒子は目にも見えないスピードで部屋を出ていってしまう。


クィアシーナが彼女の圧倒的な魔法に目を奪われていると、

目を閉じたままの学園長が告げた。


「――見つけました。生徒会館、執務室の中です」


「都合がいいな。ここと転移式で繋がってるから、すぐにでも拘束可能だ。

……リンスティー、悪いけど、付いて来てくれないか。

クィアシーナ、君は学園長とここに残っていて。すぐに戻って来るから」


「わかりました」


クィアシーナが頷くと、ダンテとリンスティーは学園長室から続く扉を抜けて出て行った。

部屋には、クィアシーナと学園長、そして眠らされているガブリエラの三人だけが残る。


ガブリエラに目をやると、先ほどまで荒かった呼吸が嘘のように、穏やかに眠っていた。


「……ガブリエラさんは大丈夫なのでしょうか」


思わず、彼女を心配する言葉が口から漏れた。

先ほどは吐血までしていたのだ。

今は眠っていても、目を覚ましたときどうなるのか、クィアシーナには見当もつかなかった。


クィアシーナの言葉に、学園長は顔を伏せた。


その様子だけで、彼女の先が長くないことを嫌でも悟らされてしまった。


「――魔法というのは、通常、魔力を源として力を行使します」


ガブリエラの容態を尋ねたはずなのに、学園長は魔法の仕組みについて語り始めた。

クィアシーナは黙って、その話に耳を傾ける。


「けれども、過去に禁止された古い魔法はこの限りではありません。

足りない力を、術者の生命力から捻出します」


学園長はふと、ガブリエラへ視線を向けた。


つまりガブリエラは、自身の生命力を使って禁術を操ったということになる。


そう結論づけようとしたところで、学園長はなおも続けた。


「……それだけではありません。

さらに、行使した内容に応じて必ずどこかに反動を受けます。

精神魔法であれば精神を、物理魔法であれば肉体の一部を。

術者の欠片を奪い取り、それを力へと変えるのです」


「ダンテが先ほど使っていた魔法もそう。

人の五感を奪うような業の深い魔法は、使い続ければ術者の五感をも失わせる」


「もっとも、ダンテの場合、

その制約を受けないよう、時間制限を設ける改良を加えていたようですが」


「こ、こわ……」


リスクが高すぎる魔法を、自力で改良してまで使うなんて。

一国の王子が、一体何をしているのだろうか。


(じゃあ、今回の場合、ガブリエラさんの代償というのは……)


「ガブリエラさんは、術をかけた者をマインドコントロールする、呪いのような魔法を使い続けてきたと思うのですが……

つまり、代償は生命力で、反動は彼女の精神に支障を来す、ということなのでしょうか?」


学園長の話を整理すると、そういうことになるのだろう。

しかも、ジガルデに至っては長期的に魔法をかけ続けていた。

そして今、それより軽いとはいえ、全生徒に魔法をかけたのだ。それがどれほどの代償を支払うことになるのか、クィアシーナには想像もつかなかった。


「あなたの言う通りよ。身体の方はもうボロボロでしょうね。精神だって、よく持った方なんじゃないかしら。

意識をしっかりと保っていたのだから」


「……」


そこまでして、魔法を使い続けていたなんて。

ジガルデは一年かけて、魔法の経年劣化で意識を取り戻したらしいが、彼女の方は――


「彼女の意識があるうちに、本人の口から真実を聞ければいいのだけれど……」


ガブリエラを見つめる学園長の目は暗い。


「そういえばクィアシーナさん、ダンテに借りている『王家の指輪』を今日は持っているかしら?」


突然話題が変わって尋ねられたことで、クィアシーナはつい言葉に詰まった。


「あ、えっと、はい。指にはめています。

でも、ここに来る途中で新旧生徒会メンバー数人に掛けられていた魔法を吸い取ったので、少し黒ずんでしまっていますが」


「……少し見せてください」


学園長はそう言うと、クィアシーナの手をとり、嵌まったままの指輪をまじまじと眺める。


「そうね……これくらいなら大丈夫かしら?」


(国宝が壊れないラインを保ってるってことなのかな……)


もちろん、怖くて聞けやしない。


「大丈夫なら、良かったです」


適当に返しておくことにした。


学園長がクィアシーナの手を離した、そのとき。


ダンテたちが出て行った先の扉の向こうから、場違いなほど騒がしい声が聞こえてきた。


「――離してっ! 私が何をしたっていうの!?」


(この声……)


甲高い声の主は、以前と変わらず黒髪のツインテールを振り乱し、リンスティーの背に担がれている。

ただ、身体は拘束魔法で縛られているらしく、顔から下はぴくりとも動いていない。


連れて来られたのは生徒会副会長、ブレンダ・マクレンだった。


「ガブリエラとは打って変わって、威勢がいいね。マクレン嬢。君は少し落ち着いた方がいい」


「余計なお世話です! なんでこんなことをされなきゃいけないわけ!?」


「なぜか?」


ダンテの声のトーンが、すっと落ちた。


「――君は今から裁かれる立場だ」


勢いよく啖呵を切っていたブレンダが、一瞬だけ息を呑んだ。


ガブリエラが横たわるソファーの前に、ブレンダを担いだまま、リンスティーが近づいてきたので、

クィアシーナは慌てて立ち上がり席を譲る。


彼は空いたソファーを一瞥すると、背に抱えていたブレンダを、ソファーに雑に転がした。


「痛い! 拘束魔法を解いてください! 変に身体が固まってるから、ちゃんと座ることもできないわ!」


「……少し口を閉じろ」


リンスティーが低く押し殺した声でブレンダに言う。


「見えるか? おまえのせいで、あいつの身体はもうボロボロだ」


彼の瞳には、静かな怒りが滲んでいた。


(どういうこと? ブレンダのせいで、ガブリエラさんが?)


しかしブレンダは、その怒りをものともせず、ガブリエラにちらりと目線を向けると「フフッ」と小さく笑った。


「フフッ……私のせいなんかじゃないわ? 元々この人は、ジガルデ様を筆頭に、ダンテ殿下、アリーチェ、それからそこにいるクィアシーナ。

加えて狂ったように、全校生徒にまで手をかけていたんだから、当然の報いでしょう?」


「――じゃあ、ガブリエラに呪詛をかけたことは認めるんだな」


ダンテが厳やかな声で告げた。


リンスティーと違い、感情を殺した、裁くものとして彼はその場に立っていた。


「すみませんが、何のことをおっしゃっているのか、私にはわかりませんが?」


(どういうこと? ブレンダが、ガブリエラさんに呪詛をかけた?)


クィアシーナの頭に疑問符が浮かぶ。


ガブリエラに呪詛をかけて、ブレンダに何の得があるというのだろうか。


「……ガブリエラから、一度感じたことのある魔力の渦が見える。

それは前に王家の指輪で吸収し、()()()()()()()()()()()()()()()()()だよ」


ダンテが告げた内容は、クィアシーナが講堂で魔法を受けたときのことを指していた。

あのときと同じ魔力ということは、ブレンダがガブリエラになんらかの魔法を放ったとみて間違いない。


「そんなもの、あなたにしか見えないのでは証拠にならないと思うのですが?」


(確かにそうだけど……)


クィアシーナに魔法のことはわからない。

けれどブレンダの言う通り、ダンテほどの力がなければ見えないのなら、それでは彼女がやった証拠にはならないのではないかと思ってしまう。


「もちろん、私にもわかりますよ。

そして私は、ガブリエラさんの魔法をあなたにお返しすることもできます」


見守ると言っていたはずの学園長が、淡々と口を挟んだ。


学園内に大規模な結界を張っているという実力の持ち主である学園長なら、確かに造作もなさそうだった。


「でも、なんの魔法かもわからないのでしょう?

――私はただ、ガブリエラ様に魔力補給をしてあげていただけだっていうのに、あんまりだわ」


目を伏せ、悲しげな表情を浮かべるブレンダだが、クィアシーナとリンスティーの表情は逆に冷ややかになる。


「生徒会のメンバーの魔力を吸い取っていたのは、やっぱりブレンダ、あなただったのね。

みんな……魔力の枯渇で倒れる寸前だった。今は回復薬を飲んで保健室で休んでるけど、キャロルさんとグローリアさんは病院に連れていってもらうように手配したの。

もしかしたら――手遅れになるかもしれなかった。それを、ただ魔力補給してあげただけだっていうの?」


クィアシーナはブレンダの被害者面に我慢できず、怒りを抑えながら彼らの現状を伝えた。

けれども、ブレンダには響かない。


「魔力の枯渇ごときじゃ死にはしないわ。回復薬を飲んで寝たら、それで十分。我らが会長様であるガブリエラ様のお役に立てたんだから、彼らも本望なんじゃない?」


(だめ、挑発に乗るな。我慢しろ……)


ぎゅっと拳を握りしめたまま、クィアシーナは黙り込む。


その沈黙を破ったのは、リンスティーだった。


「グローリアとキャロルは、魔力枯渇の症状じゃなかった。おまえか、ガブリエラか――一体二人に何をした?」


リンスティーの静かな問いに、ブレンダは嘲るようにして答えた。


「やだ、怖い顔しないでくださいよ、()()()のリンスティーお姉様?」


どうやら彼女は、人を苛立たせる才に溢れている。

しかし、その安い挑発に乗る者はいなかった。


「彼女たち、ガブリエラ様の言うことしか聞かないっていうから……

私に忠誠を誓わせてあげただけです」


ふんっと顔を背け、いじけるようにして言ったあと、彼女はさらに話を続けた。


「私こそ貴族主義の筆頭、マクレン家のご令嬢なんですから!

そこの、なんちゃって中立派のシュターグ家のガブリエラ様より、私の方がずっとカロン殿下の役に立つんですからね……」


「カロン殿下?」


「ええ、そう! 彼が将来王になったときの国政シミュレーションを、途中で降りようとするなんて、私から言わせたら、ガブリエラ様の忠義心こそ紛い物よ!」


「あ、馬鹿なんだ」

思わず口から出てしまった。


以前、デリックがブレンダのことをこう言っていた。


『マクレン嬢は貴族主義の筆頭だけど、本人にそこまでの求心力はない』


今まさに、その言葉を裏付ける場面だった。

カロン殿下の名前を出した時点で、忠誠相手に疑いが向くことに気づかないのだろうか。


「は、なんですって?」


クィアシーナの言葉に怒りをあらわにしたブレンダだったが、隣のダンテは顔を覆って笑いを堪えていた。


「……さすがクィアシーナだね! 君は本当に面白い」


「やめてください。全く褒められてる気がしません」


ここまで来ると彼女も止まらない。


「ちょっと! 二人で人を笑いものにしないで!

私はね、禁術だって練習せずに扱えるくらい、すごい実力の持ち主なのよ!

ガブリエラ様は習得に時間がかかったって言ってたし、私のほうが何もかも、彼女より上なんだから!」


「……なるほど?」


ダンテはまだ笑いをかみ殺しつつ、ブレンダを見守った。


「そうよ!」


「私の方が、カロン殿下の意向を忠実に再現できるし、私の方が、彼の隣に並び立つのにふさわしい!」


「だから、私が彼女を使ってあげることにしたのよ! 私の忠実な駒になって、カロン殿下のお役に立てるように!」


ブレンダは自爆していることにも気づかず、次々と自白してくれて、これにはクィアシーナも思わず頬が緩くなってしまい、それを隠すように手を口に当てた。


(逆にいままでよくボロが出なかったな……そこはガブリエラさんが上手くやってたってことか)


「……じゃあ、おまえの“すごい”実力をもって、グローリア、キャロル、それにガブリエラにまで呪詛をかけたというわけか」


クィアシーナやダンテが状況を楽しむ中、リンスティーだけは真剣な面持ちで問いかけた。


「あら、ようやく私の実力を認めてくださるんですね?」


返ってきたのは、皮肉めいた肯定。


(やっぱり、馬鹿だった……)


呆れを通り越して、思わず同情すらしてしまう。


ガブリエラよりは罪が軽いかもしれないが、彼女もまた、何らかの裁きを受けることは確定した瞬間だった。



続きは金曜日に更新します。日曜日に完結予定です。

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