↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/132

第22話 強引な取引

「ああ!! 待ってください、ダフネ殿!!」


 ……ん?

 ベッドの横でコランバインを見張っていると、不意にオリーブの声が聞こえてきた。

 ……っていうか、ダフネ様?

 来たの!?

 いや、今接触させるのは……!!


「父さん!!」


 病室の扉が勢いよく開き、転がり込むようにダフネ様が入ってきた。


「エリヌス。父さんは?」

「……今は眠ってます。傷は完璧に治しましたから、大丈夫なはずです」


 嘘は言ってないし、何も問題はないな。

 ただ、私たちが無理やり眠らせたことも言っていないだけだから、うん。


「も、申し訳ございません、エリヌス様!! 制止したのですが……」

「構わん。それで、ダフネ殿。私たちが帰った後、何があったのですか?」

「……そ、それは……」

「……オリーブ」

「申し訳ございません。わたくしにも話してくださらなくて……」


 ……ふむ。

 …………。


「……治療後、少しの間だけ目を覚ましていたのですが、その時に簡単な状況は聞きました。彼が──コランバインが、あなたから酒代をもらおうとした、と。本当ですか?」

「……うん」

「では、その時に何があったのですか?」


 ……正直、何となく察しはついているが。


「いつもみたいに、僕からお金を取ろうとしてきた。それで、ポケットに入れてたこれが見つかりそうになった」


 ダフネ様が示したのは、私の財布だった。


「咄嗟に隠したのだが、そのせいで父を怒らせてしまった。そして、いつもみたいに騒ぎ始めたんだ。……母もいるのに」

「妊娠中ですからね。気になるのも無理はないです」

「僕は、家族みんなが大切なんだ。母も、妹二人も、三人目の妹も、全員が大切なんだ。だから、だから……」

「カッとなった、と」

「うん。殴られたから、殴り返してしまった」


 ……典型的なクズ親と娘か。

 ……って、あれ?


 今、三人目(・・・)の妹って……!?


 作中設定だと、妹は二人しかいないのに?

 ……これは、後で少しばかり動く必要がありそうだな。

 とりあえず、今はダフネ様のことが先だ。


「ダフネ殿は、家族を守ろうとしたんですね?」

「……うん。でも、結果的に家族を──父を傷つけてしまった」


 ……しょうがないとは思うんだがな。

 私だったら、魔法で確実に殺してるし。


「ダフネ殿は、父上のことが好きなのですか?」

「……うん」

「本当に?」


 若干言い(よど)んだのが引っ掛かり、つい聞き返してしまう。


「父だって、家族の一人だ。大切に決まっている」

「金を奪うのに?」

「それでも、だ。父はかっこいいんだ。昔は強くて、皆から頼られてたんだ」

「でも、今は違う」

「今だってそうだ!! エリヌスのように、我が家に来る貴族だって沢山いる!! 誰一人として、父を嫌ってなんかいない!!」


 ……ああ、これ、あれだ。

 家族というフィルターが強すぎるんだ。


 バーベナの話を聞く限り、家に来る貴族たちは、奪われた金を返すように要求していたのだろう。

 それに、自他共に認める狂犬だ。

 皆に頼られていたのは本当だとしても、それは腕っぷしだけで、人柄ではないのだろう。

 ……いや、何かがきっかけで変わったという可能性もあるが。


「申し訳ございません、失礼な物言いをしてしまい。……ですが、ダフネ殿。一つだけいいですか?」

「……なんだ?」

「知っての通り、暴力、特に親族に対する暴力は、重たい罰が課されます」

「うっ」

「まあ、それはコランバインも同じですが。それでも、ダフネ殿も近いうちに処罰されるでしょう」

「そ、それは……。……でも、今までは」

「今までは、黙認されていただけです。ですが、私はこれでもそれなりに大きな貴族です。あなた方を裁く程度の権力は、十分に保有しています」

「やめてくれ!! 僕はどうなってもいいが、父がいなくなれば、家族は食べていけなくなる!!」

「それが?」

「……え?」


 極めて冷徹に、私は言葉を続けた。


「私からすれば、あなた方はただの庶民です。そんな庶民の生き死になど、私からすれば取るに足らない事です」

「そ、そんな……」

「……エリヌス様」

「黙れ、オリーブ。……話は最後まで聞いていただきたい」


 ほんの少し睨みながら、私はさらに話した。


「……先程も言いましたが、私にはあなた方を裁く権力があります。……裏を返せば、揉み消す権力もあるのです」

「……家族を助けるためだったら、何でもやる。どんなことでも言ってくれ」

「では、これでどうですか?」


 指をピンと立て、ダフネ様に笑いかける。


「この街から離れたところにある、私の屋敷に住んでください」


「……それは、私だけか?」

「いえ。妹君と母上と一緒に」

「エリヌス様」

「前から話には出していただろう? それが少々早まっただけだ」

「……何かあったのですか?」

「……ちょっと事情が変わっただけだ」


 そう言いつつ、バレないように額の汗を手の甲で拭う。


「あ、それと。ダフネ殿。一応言っておきますが、父上はこの街に置いていきますよ?」

「え……」

「さっきご自分でおっしゃっていたでしょう? 父上は貴族連中から頼られている(・・・・・・)と」

「そ、それは……」

「それに、我が家でまた流血沙汰が起こってはかないませんからね。……分かりますか、ダフネ殿。これがどれだけ好条件な取引か」

「……もちろんだ」

「この取引を飲んでもらわない限り、これだけの騒ぎを揉み消すという事はできません」

「…………。……少しだけ、考える時間をくれ」

「駄目です、この場で決めてください」


 焦りの色が言葉に出やしないか、細心の注意を払いながら言葉を吐く。


「決断するときは、常に一瞬です。そして、今がその時です」

「…………分かった。……分かった。エリヌスの言うとおりにする。だから、頼む。家族を助けてくれ」

「承知しました」


 思わず、安堵の混じった笑みを浮かべる。


「では、明日までに家族に話しを通しておいてください。オリーブも、今晩中に準備を」

「分かった」

「わたくしもですか?」

「ああ。私の代わりに、ダフネ殿を守って(・・・)やってくれ」

「!? ……かしこまりました」


 理解の早い部下で助かる。


「ダフネ殿。私は、まだこの街にやり残したことがあります。ですので、オリーブとともに、明日の昼、私の屋敷に行ってください」

「分かった」

「それでは、オリーブ。ダフネ殿を家に連れて帰ってやれ」

「かしこまりました。……エリヌス様も、お気をつけて」

「ああ。ダフネ殿。では、また」

「……ああ」


 二人が出て行ったのを確認し、嘆息する。

 ……オリーブは、何か察してくれたようだな。

 少々強引だったが、状況が状況だ。

 仕方ないだろう。


 懐に入ったロベリア家(・・・・・)の封蝋が入った手紙に手を触れ、私はそんな事を考えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。