第21話 尋問
……コランバイン?
聞いたことない名だ。
十中八九、作中にも出てきていない。
「こ、コランバイン!? こ、この男がですか!?」
「ああ。何回も顔を見たことがあるからな。流石の俺でも覚えた」
「……そんなにやばい人物なのか?」
『やばいというか、なんというか……』とぼやきながら、バーベナは口を開いた。
「こいつは、元々そこそこ名の売れた冒険者だったんだ。功績だけ見れば、王家が何らかの役職をつけていてもおかしくはなかった」
「そんなに凄いのか」
「ああ。ただ、問題は素行だ。気に入らない奴は殴る。酔ったら周りにいるやつを殴る。虫の居所が悪かったら殴る。そんな人間だ」
うわ、完全にやばいやつじゃん。
「そのくせして、腕利きの冒険者ときたもんだ。誰も手出しができん」
「まあ、そうだろうな」
「何回か貴族を殴って、流石に冒険者ライセンスは剥奪されたが、それでも腕っぷしと悪名──もとい、影響力は健在だ。王宮にもかなりの頻度で出入りしては、貴族から金を巻き上げて、それを酒代に使っているらしい」
やばすぎだろ。
てか、貴族を複数回殴って、その上でカツアゲまでしておいてまだ生きてるとか、どんだけ強いんだよ。
「こいつも、俺みたいに首輪を付けとけば扱いやすかったんだろうがな。そんな事もできないくらいの荒くれ者だ」
「まあ、持て余すわな」
「……で、どうする?」
「どうする、とは?」
面倒くさそうな表情で、バーベナはコランバインを指さした。
「こいつ、放っておいたらこの病院を荒らすぞ。先に言っておくが、俺の研究室には絶対に連れてくるな。王宮を戦場に変えたくなかったらな」
「そうだな……。……とりあえず、ここに置いておく。いいか?」
「いえ、その、あの……」
「後で金は払う。たっぷりとな」
そう言いながら、私は短剣を取り出した。
そして、鞘に彫られているカーディナリス家の刻印を見せつけた。
「ヒッ!! か、カーディナリス家……!! か、かしこまりました!!」
「ああ。それと、私とバーベナが見張っているから、絶対に暴れさせない。安心しろ」
「わ、分かりました。それでは、失礼いたします!!」
それだけ言い残し、医者は脱兎のごとく逃げ出した。
「おい、俺も残るのかよ!?」
「手伝ってくれ、バーベナ。私一人だと、それこそここを戦場にするぞ? 使える黒魔術なんて、あれくらいしかないんだからな」
「それはそうだが……。……ああ、分かった!! 乗り掛かった舟だ!!」
「それでいい」
そう言って私は、にやりと笑みを浮かべた。
◆
「う、うーん……」
バーベナが来てから、一時間が経った頃だろうか。
小さな呻き声が聞こえてきた。
そして、その瞬間に二人同時に警戒態勢に入った。
「…………。……こ、ここは……?」
「病院だ」
「病院……? ……ああ、思い出した。思い出したぞ!! あのクソガキ、よくも俺を……!!」
「うるさい。私は、お前を尋問するためにここにいるんだ。許可なく発言するな」
そう言うと、コランバインは鬼の形相でこちらを見てきた。
「尋問だと? お前、誰の差し金でそんな真似……!!」
「差し金も何も、私はこういう人間だ」
先程の医者の時と同様に、私は短剣の刻印を見せつけた。
「……ああ? その家紋、どっかで見たことあるな」
「カーディナリス家の刻印だ。私は、カーディナリス・エリヌス。この家の長男だ」
「カーディナリス、カーディナリス……。……ああ、あの侯爵家か。最近バカ息子がこっちに来たとは聞いていたが、まさかお前か?」
「ああ。……無礼な発言は、貴様の娘に免じて許してやろう」
「へっ、何が許してやろうだ。お前如きが、俺より上だと思うなよ?」
「そうか? なら、これでどうだ?」
バーベナをちらりと見る。
こちらの意図を察したのか、バーベナは小さく頷いた。
どうやら、治療直後の奴に使っても問題ないようだな。
「『トネール』」
「あ? うおっ!?」
周囲に被害が及ばない程度に、雷魔法を放った。
しかも、頭部目掛けて。
「……お前、ただの貴族じゃないな?」
「まあ、そこにいる奴の弟子だしな」
「一回もまともに教えたことは無いが、一応先生だ」
「あ? ……あ? お前、バーベナか?」
「よく知ってるな」
「当たり前だ。俺と同じ、王国の狂犬だろ? はっ、貴族程度に飼い慣らされやがって」
「……誰が飼い慣らされたって?」
あっ、やばい。
黒魔術使う時と同じ表情してる。
「落ち着け、二人とも。……特に、コランバインは尋問中だという事を思い出せ」
「ああ、そうだったな。いいぜ、その茶番劇に付き合ってやるよ」
「……だ、そうだ。頼んだ、バーベナ」
「先生使いの荒い弟子だな」
そう言いつつも、バーベナは指を鳴らし、あらかじめ頼んでおいた魔法を使ってくれた。
「あ? なんだ、この霧」
「俺特製の魔法だ。麻痺、激痛、その他諸々の効果がある」
「毒か? そんなもん、俺には……!?」
「……効果ないだろうが、魔法は別だ。特に、俺のはドギツイぞ」
……そうだった、バーベナもバーベナでやばいんだった。
魔法の詳細は聞いてなかったけど、この魔法、普通に悪役が使うやつじゃん。
「おい、エリヌス。支度はしてやったんだ。あとはやれ」
「ああ。さて、コランバイン殿。いくつかの質問に答えてもらおうか?」
「……いいぜ。どうせ動けないんだ。暇つぶしにやってやる」
……この強気な態度、どことなくバーベナ味を感じるな。
流石は狂犬二人。
「まず一つ目。お前は、ダフネ殿の父上で間違いないか?」
「ダフネ……? ……ああ、あいつか。そうだ。それがどうした?」
「二つ目」
コランバインの質問には答えず、言葉を続けた。
「ダフネ殿に殴られる直前、お前は何をした?」
「何って……。別に、なにも? ああ、そうだ。そういえば、あのガキから酒代をもらい損ねたんだ」
「……それは、ダフネ殿の事か?」
「ああ、そうだ。それが?」
「……いいや。三つ目。お前はどの程度の頻度で王宮に来ている?」
「酒代が無くなったらすぐだから、二日に一回じゃねえか? お前ら貴族の方が把握してるだろ」
「生憎と、私はまだ来たばかりなのでな」
「ああ、そうだったな」
「四つ目。ダフネ殿は、王宮に来ることはあるのか?」
「知らねえよ、あんなガキの事なんか」
「……五つ目。ダフネ殿とのけんかは、今日が初めてか?」
「んー……、そうだな。いつもはこっちが殴ってばっかだからな。俺の血とはいえ、あんな力を持ってるなんてな。化け物だ、ありゃ」
「……そうか。分かった」
「おっ、終わりか? なら、そろそろ暴れさせてもらうぞ?」
「させると思うか? この屑が」
……お。
コランバインの奴、一瞬で距離を詰めてきた。
ノーモーションで、どうやった?
それに、この魔法の中で。
……まあ、いいや。
「あばよ、大貴族殿」
段々と近づいてくる拳が、コマ送りになって見える。
……これは、まともに喰らえないな。
「暴れさせねえってのは、俺も言ったはずだぞ?」
「うぐっ!!! がはっ!!」
バーベナの手から小さな黒い球が出たかと思うと、瞬時にコランバインに直撃した。
そして、次の瞬間には、コランバインは吐血し、地面に倒れていた。
「魔獣捕獲用の魔法だが……お前には、これくらいでちょうどいいだろ?」
「この、くそ、や、ろう……」
……気絶したか。
王家が早々にバーベナに首輪を付けたのは、マジでファインプレーだな。
「おい、エリヌス。いくらなんでも油断しすぎだぞ」
「大丈夫だから、隙を見せたんだがな」
「ふん、偉そうに」
「……さて、こいつはどうするべきか……」
「牢屋にでも放り込んでおけ。お前の権力なら可能だろ?」
「可能だが……。……ダフネ殿が何ていうかだな」
「…………。……まあ、いい。お前の好きにしろ。俺は帰るぞ」
「ああ。助かった」
その言葉を言い終わる頃には、バーベナの姿は消えていた。
……さて。
「オリーブに頼んで、頑丈な鎖でも持ってきてもらうか」
猛獣の放し飼いは危ないからな、うん。




