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第20話 回復魔法

 ……事態は、思った以上に深刻だった。

 ダフネ様が父親を殺しかけたらしい。

 オリーブの話では、到着した時には完全に我を失っていたらしい。

 当のオリーブはというと、助けを呼んでいたダフネ様の妹を見つけて、そのまま駆け付けたそうだ。


 ……運が良かった。

 そんな感想しか出てこない。


「オリーブ。容体は?」

「……厳しいそうです。むしろ、なんで生きているのか不思議なくらいだそうで……」

「……そうか」


 何があったのかは分からないが、ダフネ様の何かを刺激する出来事が起こったのだろう。

 ……私たちが出て行った直後に。


 くそっ、なぜもう少しいなかったんだ。

 どうせ図書館へ向かっただけなのに。

 ……くそっ。


「この病院、回復魔法を使える人間はいないのか?」

「いますが、あの状態を回復できるほどではないそうです」

「……そうか」


 確かに、あれは酷かった。

 一瞬だけ、治療室の様子を見たのだが、完全に顔がぐちゃぐちゃになっていた。

 オリーブが病院まで運ばなかったら、どうなっていたことか。

 …………。


「……ちょっとだけ待ってろ」

「どうなさったのですか?」


「最高級の回復魔法を使える奴を連れてくる」


 ……あいつなら、大丈夫だ。

 ……多分。

 そして、回復させたダフネ様の父上から、真相を聞くんだ。

 何があったのか、何をしたのかを。


「オリーブは、ダフネ殿のところへ向かってくれ。……メンタルケアが必要なはずだ。本人も、家族も」

「……そうですね。分かりました。では、エリヌス様。お願いします」

「ああ」





 息を切らしながら王宮の門をくぐった私は、そのまま目的の部屋へと疾走した。


「おい、バーベナ!!」

「どうした、エリヌス。……また面倒事か?」

「回復魔法を使える人間が必要なんだ!! すぐに来てくれ!!」

「……何をやらかした?」

「私じゃない。この間言った騎士見習が、父親を半殺しにしたんだ」

「ああ、例のか。そんなにまずい状況なのか?」

「ああ。早急な手当てが必要だそうだ」

「……なんで俺が動かねばならん。それに、お前ほどの貴族が動く理由は?」


「あの娘に人殺しをさせたくない」


「……それだけか?」

「ああ。それ以上必要だとも思わん」

「……まあ、分かった。場所は?」

「中央通りの病院」

「分かった。手を出せ」


 言われたとおりに手を握ると、前にも味わった転移魔法の感覚がすぐに流れ始めた。





「……なるほど。これを治せと?」

「ああ」


 呼吸は……しているな。

 さっき見た時よりは、全体的に落ち着いているように見える。

 ……顔の傷以外は。


「できるか?」

「できるが、何をすればこんなになるんだ? その騎士見習とやら、こん棒で殴ったのか?」

「いや、素手だ」

「……末恐ろしいな。お前にピッタリだ」


 そう言って、バーベナは傷口の上に手を重ねた。


「おい、医者。どの程度処置を施した?」

「応急処置程度です……。ですが、とても治る見込みはないかと」

「いや、大丈夫だ」


 バーベナに代わり、私が返事した。


「こいつは、最高クラスの回復魔法を扱える」

「買いかぶりすぎだ、馬鹿」


 そんな事を言っている間にも、傷口はみるみるうちに治っていっていた。


「まさか、そんな……!! 奇跡だ!!」

「基礎魔法だ、能なし。というか、このくらいできないと王宮で魔法を研究させてもらえないんでな」

「なんと!! 王家お抱えの魔術師でしたか!! これは失敬」

「気にするな。それよりも、こいつ……治してよかったのか?」

「……どういうことだ?」


 そう言うと、バーベナは面倒くさそうに頭を掻いた。


「……こいつの名前は、コランバイン。元冒険者の大問題児だ」

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