第19話 手紙
ダフネ様と別れてすぐの道で、私は少し考え事をしていた。
内容は、ダフネ様の家についてだ。
なんというか、あまりにも不釣り合いな家に感じた。
家自体は庶民にしては大きいはずなのに、中は荒れている。
だが、その荒れ方も、ここ数か月でああなったように見えた。
まあ、素人の眼だから当てにはならないが、それでも、私は違和感を覚えた。
そして、ダフネ様の母上の態度もおかしかった。
王宮の近くに住んでいるとはいえ、普通であれば、貴族が家に来ればもう少し何かしらの反応を示すはずだ。
私だって、見た目には気を遣っている。
……最低限だが。
それでも、貴族の一人だという事は、一見すればわかるはずだ。
それなのに、あの態度。
貴族を相手するのに、慣れているようにしか見えない。
……というか、家に貴族が来るのに慣れている状況ってなんだ?
思えば、ダフネ様は王宮に普通に侵入していた。
王宮の門番ともあろう者が、あんな子供を見逃すはずがない。
追い出されて然るべきだ。
なのに、中には入れていた。
という事は、ダフネ様が王宮に入ることは普通の事だという事になる。
……一庶民が?
なぜ?
そんな事を考えながら歩いていると、不意に誰かから触られたような気がした。
スリか?
そう思い、触られた辺りやポケットを探るが、特に変化はなく──
──いや、あった。
ズボンに差し込むように、一枚の封筒が入っていた。
……物はすられなかったとはいえ、相手はその道の人間だろう。
しかも、誰かに依頼されてるな。
封筒には、ご丁寧にも封蝋がされてあった。
この封蝋は……。
…………。
「おいおい、マジかよ」
つぅーっと、冷や汗が額を伝う。
ただ事じゃないぞ、これ。
……中身も、まず間違いなく、良い内容ではないな。
まあ、なんにせよ、ここで開ける訳にはいかない。
恐らく、中身を他人には見られてはいけない類のやつだ。
とりあえず、図書館に急ごう。
禁書庫なら、誰にも見られずに済むはずだ。
◆
……誰もいないよな?
禁書庫に到着するや否や、辺りをキョロキョロと見回し、人間どころか、ネズミの一匹もいないことを確認した。
「……ふぅ……」
あー、緊張した。
怪しまれないようにするのに必死で、ずっと汗が止まらなかった。
……でも。
「ここから、また緊張させられるんだろうな……」
溜め息交じりに、そう呟く。
内容が悪いことは確定している。
あとは、どの程度最悪なのかだ。
禁書庫の奥の奥へと移動し、再度周囲を確認する。
そして、ようやく安心できたところで、懐からナイフを取り出し、この忌々しい封蝋を切ろうと──
「エリヌス様!!」
──しようとした瞬間、図書館中に聞き馴染みのある声が響いてきた。
……オリーブ?
何の用で来たんだ?
……いや、考えるのはよそう。
切羽詰まった声をしていた。
緊急事態発生だ。
手紙は……懐に入れておけばいいだろう。
上着の内ポケットなら、バレる心配もまずない。
悩みの種を後回しにして身につけるのはなんとも気色が悪いが、事態が事態だ。
とりあえず、オリーブのところへ急ごう。




