第23話 お話し合い
翌朝、ダフネ様たちは私が手配した馬車に乗って街を出た。
御者には、乗客の一人が妊婦であると告げ、遠回りになってもいいから安全運転で行け、とかなり多めの額を渡しておいた。
オリーブは、昨晩から出発直前まで憂慮しているような表情だったが、ダフネ様たちを安心させるためか、彼女らの前では明るく振舞っていた。
……それと、やはりダフネ様には既に二人の妹がいることを確認した。
二人とも、明るい笑顔を浮かべながらも、片方はダフネ様から距離を置いているようだった。
……恐らく、昨日の光景を見たのだろう。
それ以上に、妹が二人いるという情報が重要だ。
何度記憶を探っても、ダフネ様は作中で妹は二人いるとしか言っていない。
という事は、この子は流れる可能性が高いのだろう。
私と会っていなければ、だが。
ダフネ様が悲しむような事態、私が引き起こすはずがない。
ダフネ様の母上には、今回の旅が、昔、父がお世話になったコランバインへの恩返しだと伝えた。
やはり、コランバインの影響力自体は知っているのか、若干の不安を顔に出しながらも、馬車に乗ってくれた。
……ダフネ様は、最後まで暗い表情を浮かべていた。
そうして馬車は出発し、私は笑顔で見送った後、魔導書を読みながら、本来ならば衛兵がいる場所──少々金を掴ませた──に待機した。
◆
それから、何時間が経過しただろうか。
太陽が少し傾き始めた頃、馬車が走る音が聞こえてきた。
……ハァ。
ほとんど読み終わっていた魔導書を音を立てて閉じ、私は視線を平原の方へと向けた。
「止まれ、御者」
大声で私が命令を出すと、慌てた様子で馬車は止まった。
すぐさま私は馬車に近寄り、御者に話しかけた。
「中の者と話したい。ここで降ろして、後はこの場から離れろ」
「は、はあ。分かりました」
かなり困惑した様子だったが、御者は馬車に向かって声をかけた。
すると、すぐに扉が開く音がし、馬車はそのまま走り去っていった。
……ふぅ。
「お久しぶりです、父上」
「御託はいい。さっさと話せ」
日差しのせいか、焦りのせいか。
額に汗をかきつつ、私は苛ついた様子の父と対峙した。
◆
……さて、どうしたものか。
いざこの人と話すとなると、少し緊張してしまう。
……まあ、単刀直入に言うほうがいいだろう。
父も察しているだろうし。
「これ、私も受け取りました」
「……そうか」
懐から手紙を出すと、父はため息を吐いた。
「父上の事です。分かっているでしょうし、それ以上に、もう受け取っているのでしょう?」
「……まあな」
「……で、結論は?」
「セッシリフォリアに会った時に話す、では駄目か?」
「この場でお願いします」
そう言うと、父は再びため息を吐いた。
「私は、この案に賛成だ。お前は?」
「大反対です」
笑顔のまま、私はそう返した。
「そうだろうな。お前が最大の障壁となることは、私も奴も理解している」
「だから、今のうちに引き込もうとしたんでしょうね」
「だろうな。まあ、私なら、すべてが終わった後に話すがな」
「父上の性格なら、そうでしょうね。……私から殺されるリスクを考えていない」
そう言いながら、私は一歩近づいた。
「ですが、奇妙な点が一つ。私に殺されることは考えないにしても、道中で襲われる可能性は考えなかったのですか? 護衛も無しにここまで来るだなんて」
「……途中まではいた。ここが見える前に別れたがな」
「セッシリフォリア侯爵の差し金ですか?」
「言うまでもなかろう」
「ですね」
もう一歩、私は近づいた。
「父上」
「……なんだ?」
「父上もセッシリフォリア侯爵も、どちらも慎重なお方です。どうせ、何か奥の手を持っているのでしょう?」
「察しがいいな」
「あなたの息子ですから」
そう言うと、父は胸にかけてあるアミュレットを見せつけた。
「この中には、セッシリフォリアと契約を結んだ悪魔を閉じ込めてある。私が合図を送れば、いつでも飛び出すという訳だ」
「試験運転は?」
「もうやった。向こうに、護衛団の死体がある。見てくるか?」
「……いえ、結構です」
……道中の護衛は切り捨てか。
まあ、当然と言えば当然。
作戦を知られている可能性もあるしな。
「さて、エリヌス。そろそろ、私からも話をさせてもらおうか」
「どうぞ。私から聞きたいことは、すべて聞きましたので」
表面では余裕を装いつつ、心中で警戒心を固めながら、私は父の言葉を待った。
「私から、最後の説得だ。……そして、最期の警告だ。お前も、王家の暗殺に協力しろ!! そうすれば、確固たる地位を約束するぞ!!」
「死んでも嫌です。生憎、この国にはまだ利用価値があるので。あなた方では、その価値すらゼロになる」
「そうか。なら、心苦しくはあるが、この場で死ね」




