27話~EMOTIONS~
都内、某日──
いよいよ『SNOW GRIFFON CARVIVAL~高校生バンドオーディション~』と銘打たれたビッグイベントの幕が切って落とされた。
前回のサマドラオーディションと同じく、会場となるのはキャパ3,000人を誇る東京屈指の大型ライブハウスである。
すでに一階のスタンディングフロアには満員御礼の観客達、二階の椅子あり席には審査員と関係者、それからネット配信のためのビデオカメラが複数台入っている。
さあ、これより!
全国から集められた選りすぐりの高校生バンド達が熱い火花を散らし合う!
優勝者のみに贈られる、ただ一枚のプラチナチケット……『スノグリへの出場権』を掴み取るために!
★
間もなく13 SECONDS TIME BOMBの出番が始まろうとしていた。
ハル達は楽屋で衣装に着替えると、ワックスとハードスプレーを使ってそれぞれのヘアスタイルを臨戦態勢へとセットした。
それから円陣を組んで気持ちを一つにした後、スタンバイのためにいざ舞台袖へ。
メンバーが楽屋を後にして、ステージに向かうための通路を歩いている途中……たった今ほど出番を終えたばかりの都会のバンドマン達が向こうから歩いてきた。
それは前回オーディションの覇者であり、またしても対峙することになったハル達の宿敵……東京出身の四人組ロックバンド・ORANJETであった。
「やあ、サーティーンのみんな。また会うことになったね」
トレンチコートのポケットに両手を突っ込み、オレンジ色のロングヘアをなびかせながら声を掛けてきたのはボーカリストのアトムである。
アトムはライブ直後だというのに汗一つかいていない、まるで西洋人形のような涼しい表情を浮かべていた。王者の貫禄とでもいうべきか、相変わらず余裕綽々といったところだ。
反対に……血気溢れるハル達は以前と同じように軽い会釈のみで済ませると、その敵対するライバルバンドの目の前を不愛想にすたすたとすれ違っていった。
ある種、ロックバンドとしての正しい姿勢を貫いたハル達。
そんな彼らの尖った後ろ姿を見届けると、アトムもやはり満足気に微笑んだ。
「うん、いいね。以前に会った時よりもみんな良い顔をしている。どうやら君たちも……『答え』を見つけたようだ」
★
黒いダブルのライダースジャケット、針のように細いスキニーデニム、そのロールアップした足元にはマーチンのクレイジーボム。
王道のロックファッションに身を包んだ金髪のボーカリストがステージに登場すると、会場には大きな歓声が沸き上がった。
ハルがマイクスタンドの前に立つと、そこに向けて一本のスポットライトが当てられる。
オンライン配信のために入っているビデオカメラもまた彼の姿を捉える。
客席の人だかりを見渡すと……ハルはマイクに向かってゆっくりと口を開いた。
「こんばんは。13 SECONDS TIME BOMBのボーカル、ハルです」
出だしからMCが入ると、超満員の群衆が静かに目と耳を傾ける。
真っ暗な会場内、唯一スポットライトに照らされている中でハルは続けた。
「俺は今まで……本当に何もない空っぽな人間でした。ロックに出会うまでは……バンドを始めるまでは……夢も目標も、生き甲斐もクソもない……そんな退屈な人生を送っていたんです。でも、そんな自分だからこそ……いつもステージに立つ度に思うことがあるんです。それは……音楽に出会えて良かったということ。そして今……こうして同じステージに立っている仲間に出会えて良かったということです。考えると……性格も何もかも違う五人組が集まって……だけど、それでも……おんなじ夢に向かって、おんなじ音を鳴らせるバンドっつーのは……本当に『奇跡』みたいなモンなんだって……心からそう思います」
ハルはステージに立つメンバー達にアイコンタクトを送ると、曲を始める合図を出した。
レイがギターのボリュームノブをひねったことを確認すると、ハルも間髪入れずに声量を上げる。
「まあ、伝えたいことは音で伝えます!今日は全身全霊、とことん鳴らします!この曲が今、俺たちが鳴らせる等身大のメッセージです……『EMOTIONS』!!!!!」
ハルがタイトルコールを叫んだ瞬間、レイが腕を振り下ろして爆音のギターリフをかき鳴らした。
ゴールドトップの歪んだ音が会場内に鳴り響くと、狼煙が上がるようにして渾身のロックアンセムが解き放たれる。
それは先日──レイが一夜にして書き上げた有無を言わさぬ「ストレートなロックナンバー」であった。
疾走するオーバードライブに合わせて、カナタが全身を激しく揺らしながらエネルギッシュな8ビートを叩き込む。
そこにグルーヴ感のあるゴリゴリの重低音を展開していくミツナリ。いつものように低位置で構えたジャズベースをハードピックで暴走させる。
そしてKORGのワークステーション、その鍵盤上に力強く両手を叩きつけるようにして指を躍らせるのはフミ。多彩なエフェクトで高揚感と臨場感を創り出す。
彼らが放ったエモーショナルなバンドサウンドは、まるで風を切るジェットコースターのように一気に加速し、その未来へと突き抜けていった。
いよいよステージから身を乗り出すようにして、ハルがモニタースピーカーの上に片足を乗せる。
そしてマイクスタンドを両手で強く握りしめ、シャウトするように唯一無二のその声が絞り出されると…………、
観客の心はたちまち黄金色の弾丸で撃ち抜かれた。
その声には「感情」が纏われ、その歌には「魂」が宿っていた──
やがてハルが激流のようなサビからロングトーンで間奏に繋げると、レイが足元のフットスイッチを踏み込んでギターの音をブーストさせた。
ハルと同じくダブルのライダースを着こみ、いつもは下ろしているウルフヘアを激しく逆立てたレイ。
マーシャルのアンプ直で構築した荒々しいサウンドメイク、時にミスタッチやハウリングさえ味方につけるような鬼気迫るギターソロを炸裂させる。
その轟音に共鳴するように、会場の温度はメーターを振り切って急上昇していった。
気づくと……ヒートアップするオーディエンスが一斉にコールを始めている。
拳を上に突き上げ、叫び、歓声を飛ばし、中には目頭を熱くさせているような観客の姿もちらほらと見える。
心血を注いだ13 SECONDS TIME BOMBのライブパフォーマンス、それに相応するような燃え滾るレスポンス。
そしてレイがファットなギターソロを弾き終え、ハルが最大出力でラストのサビを叫んでいる頃には……会場にはバンドとオーディエンスが一つになるような一体感が生まれていた。
それはハル達が今までに感じたことのない、けたたましい熱量が渦巻いては押し寄せる……まるでロックが一つの生命体になっているかのような……震えるような感覚であった。
彼らはまさしく今、世界の中心をそこに創り上げていたのだ──
『EMOTIONS』
Lyrics : HALU / Music : RAY
夢の運び屋 パンクスはいつでも
その髪を逆立てている
旅路に迷った少年が
大切な人の声 失くさぬように
冷たい雨の中 落ちこぼれたメロディ
錆びついたまま 終わらない歌
もう どうやったって もう どう生きたって
隣り合わせ 僕がいつか苦しい瞬間は
君を呼ぶから そう何度でも 鳴らしてくれ
"EMOTIONS"




