24話~スノグリ~
光陰矢の如し。
夏の残暑も過ぎ去り、季節は秋へと向かっていた。
田園には豊かに実った稲穂が黄金色に輝き、遠くに見える山麓の木々は燃ゆるようにしてその秋風に揺れている。
季節が切り替わる瞬間というのは目に見えない、というか存在しない。
ただゆっくりと……ただじっくりと……少しずつ世界は変化していき、気付いた時にはもう、人々は新しい季節の真っ只中を生きているのだ。
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13 SECONDS TIME BOMBのバンド活動は益々の発展と成長を遂げていた。
毎週のように地元のライブハウスに出演しては精力的に対バン・イベント・インディーズバンドのオープニングアクトをこなす日々。
それにより個々の演奏力が飛躍したことは勿論、オリジナル曲の完成度も見違えるほどに洗練され、バンドのレベルはよりプロフェッショナルな領域へと歩みを進めていた。
何よりも特筆すべきは……キーボード兼マニュピレーターのポジションを担うフミの存在であった。
彼のメンバー加入はバンドへの音楽性に大きな変革をもたらした。
それは特に作曲面において。
今までバンドの楽曲制作を手掛けていたのはギタリストのレイだけであったが、そこにキーボーディストのフミが加わることにより、そのバリエーションはより多彩なものとなったのである。
レイが作る楽曲は『ストレート』──王道のハードロックやポップパンクをベースにしたものが多く、いわば古典的なコード進行によって作られるスタンダードな楽曲がメインであった。
それに対して、
フミが提案するのは『変化球』──ハイセンスな電子音を全面に押し出すデジタルロックを基調に、ダンサブルなミクスチャー、プログレからオルタナ、さらにはストリングスによるバラードまでをも幅広く生み出す傾向にあった。
そんなフミの先鋭的な作曲センスはリスナーからも高い評価を得ており、ライブ後のフロアでは観客同士でこんな会話が繰り広げられることも度々だった。
「新メンバーのフミが作る曲ってめちゃくちゃ良いよな。オシャレなサウンドでノリやすいっていうかさ~」
「そうそう!俺もどちらかというと、レイの曲よりもフミの曲の方が好みだな」
また、地元のライブハウスで共演するバンドマン達から振られる話題も同様であった。
「サーティーンってさ、フミ君が入ってから各段にサウンドが良くなったじゃん」
「フミ君の加入がもう少し早ければ……サマドラのオーディションも突破できてたかもしれないよね」
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ある日のライブ終演後。
地元の小さな箱「シルバーダック」の店長は、ステージを終えたばかりのハル達を裏の事務所にまで呼び出した。
相変わらずヤニ臭い&カビ臭い事務所にまで案内されたハル達は、室内にあるボロボロのソファに五人並んで腰を掛けた。
店長はそこに向かい合うようにして座ると、いつかと同じように話を切り出した。
「きみ達さぁ……『スノグリ』って知っているよね?」
これまたいつかと同じように首を傾げるボーカリスト・ハル。
バンドマンだというのに何も知らない彼を見て、呆れるような表情で店長は説明を始めた。
「日本の二大ロックフェス、その一つはもう知ってるよね?きみ達が前回、オーディションに参加するも……残念ながらその出場は叶わなかった夏フェス・サマドラだよ。そして、もう一つというのが……今度は真冬に開催されるロックフェス『SNOW GRIFFON CARNIVAL』、通称・スノグリさ」
「真冬のロックフェス……スノグリ……」
無知なるフロントマンがなんとなく理解したであろう様子を確認すると、店長はさらに続けた。
「スノグリは都内のドーム会場で行われる屋内型のロックフェスなんだ。動員数で言えば野外フェスよりは劣ることになるけど……屋内フェスならではの幻想的な演出や、凝りに凝ったステージセットが魅力なのさ。実際、その空間でしか生み出せない圧巻のライブパフォーマンスで、今までも数多くのバンドが『伝説』を作り上げてきたのがスノグリの歴史なんだよ。まさしくサマドラと肩を並べる……日本最高峰のロックフェスってワケさ」
それから店長は腕を組んでから宙を見つめると、やがて思い出すようにしみじみと言った。
「そんなロックフェスといえば……きみ達にはやっぱり『因縁』ってものがあるだろう?」
──ハル達は唇を噛んだ。
近々で思い出すのは今夏……ちょうど彼らが海の家でアルバイトをしている時のことだった。
バイトの休憩中に誰かがたまたま見つけたネットニュースの内容……その見出しには「念願のフェスデビュー!高校生ロックバンド『ORANJET』!サマドラのメインステージを大きく揺らす!」と書かれていた。
その記事にはORANJETのフェスでのライブ写真が多数アップされており、数万人のオーディエンスを燃え滾るように熱狂させた、という立派なライブレポートまで掲載されていた。
もしも「あの日」の結果が違えば……そこに名前が載るのは自分達のバンドだったかもしれない……そう思うと、未だに悔しさを消せずにいるハル達なのであった──
ソファの上で拳を握りしめ、いかにも悔恨を滲ませているメンバーの姿を見ると店長はニヤリと笑った。
「まあ……『次こそ』ロックフェスの大舞台に立つのは……きみ達だと信じているけどね」
(次こそ……?)
すかさず疑問の表情を浮かべるハル達。
そんな彼らの目の前に、店長は手に持っていたタブレットの画面をピンチアウトしてから提示した。
拡大された画面に映っていたのは、スノグリの公式サイトにある特設ページ。
ハル達はそれを見るとドクン!と心臓を高鳴らせた。
そこには……、
『SNOW GRIFFON CARVIVAL~高校生バンドオーディション開催~』の旨が記載されていたのである──
概要や要項は前回のサマドラオーディションと全く同じで、優勝者にはメインステージの出演枠が与えられるという内容であった。
「こ、これって……まさか!?」
ハル達がルアーに食いついたブラックバスのような激しいアクションを取ると、店長はアドレナリンに満ちたアングラーのような目つきで即座にリアクションした。
「そうさ!フェスへの出場権を懸けた熱い戦い……あの『高校生バンドオーディション』が再び開催されるんだ!それも今度は冬のロックフェス……スノグリの舞台を懸けた熱い戦いがね!さあ、みんな……リベンジの時だ!次こそは絶対に、絶対に……フェスへの出場権を掴み取ってくれよな!!」
こうして、ハル達のロックフェスへの挑戦が再び始まった──
同時に……とある「事件」も……。




