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21話~最強の5人~


ゴンゴン!


……


ゴンゴンゴン!!


……



窓を叩く雨音をかき消すように、執拗に繰り返されるノックの音は不快なトーンで鳴り響いた。


ガチャリと部室のドアが開くと、そこから覗かせた顔もまた不快な声を響かせた。


「どうも、雨夜クン。また一人でランチタイムかい?」


部室の中にねっとりとした冷笑を見せてきたのは伊本であった。


今日も今日とて、頭髪に塗布しすぎたグリースがギラギラと不気味に光っている。外の湿気を含んでいるせいか、小太りなその体型もいつにも増して水風船のように膨らんでいた。


伊本は室内に入ると、その分厚い眼鏡を中指で押し上げながら切り出した。


「ところで、先週の話だけど……部員を集めることはできたのかな?」


デスクで弁当を食べていたフミは箸を止めると、そのまま俯いて沈黙した。


その反応は…………全てを物語っていた。


伊本はにちゃりと口角を上げると、全く気持ちのこもっていない残念そうな声を出した。


「あ~あ~、どうやら無理だったみたいだねぇ。じゃあ約束通り……本日の生徒議会にて『パソコン研究部は廃部』という審議案を出させて貰うとするよ。ご愁傷様」


何を言い返す訳でもなく目線を伏せたまま沈黙を貫き通すフミ。


そんな萎縮した小柄な下級生の姿を見ると、伊本は顔を歪ませながら舌打ちをした。


「ふん……相変わらず陰気だね。君みたいな人間を見ているとさぁ……可哀想に思えてくるよ。優れた音楽の才能があるって?素晴らしい賞を獲得したって?そんなものがあったって、結局……分かち合える友達が一人もいないんじゃ意味がないじゃないか」


伊本は鋭い捨て台詞を吐くと、いかにもスッキリとした足取りで部室を後にしようとした。


その時だった。


室内に絞り出すような声が小さく響いた。


「と、友達って……そんなに必要なものなんでしょうか……?」


「……はあ?」


伊本が思わず振り向くと、そこには精一杯に抗おうとする少年の視線があった。


「別に……友達なんていなくたって生きていけるし……友達がいなくても……人生で困ることなんて何もないじゃないですか。僕はただ……友達を必要としていないだけです。そういう……人間なんです」


弱々しくも初めて抵抗を見せたフミに対し、伊本は嘲笑しながらさらに強く否定した。


「くく……なんだよ、堂々と開き直って正当化か?いるいる~、たまにいるんだよなあ~、こういうヤツ。『自分は特別だから周りと話が合わない』とか『あえて人と関わらないようにしてる』とか言っちゃう変わり者……でもそれって結局さぁ、自分にとって都合の良い予防線を張っているだけなんだよね。雨夜クン……そういう考え方はみっともないから金輪際やめたほうがいいよ」


今度は何も言い返すことはできず、デスクの上で磔になったように固まるフミ。


そこに伊本が語気を強めて追い打ちをかけた。いよいよその本性を剥き出しにし、醜く尖った言葉のナイフを振り落とすかのように。


「ふん……陰気で……根暗で……!毎日一人ぼっちで……部室に閉じこもって……!こそこそ隠れるようにメシ食ってるお前みたいなヤツに友達なんて一生出来る訳ないんだよ……バーカ!!」



その時であった。


部室棟の通路の方から、賑やかな笑い声と共に走ってくるような足音が近づいてきた。



ダダダダダ……ガチャリ!!



「よう、フミ!一緒に昼メシ食おうぜ!」


「がっはっは!今日の購買争奪戦はワシの独壇場じゃった!見てみい、この戦利品の数々を!お前にも一個分けてやろうか、フミ?あ、ちなみにチリドッグはやらんぞ。メロンパンならやる」


乱暴にドアを開けて部室内に入って来たのは……ランチボックスの包みを持ったハルと、両手に大量のパンを抱えたカナタであった。


二人は当たり前のようにして部室の中に入り込むと、フミが座るデスクの両隣にそれぞれ腰を掛けた。


伊本は突然の出来事に目を丸くしながら物申す。


「お……おい。なんだキミ達は……?部外者が勝手に部室に入ることは許されな……」


伊本がそのガラの悪い金髪頭とツンツン頭に対してせかせかと喋り出した時である。


さらにもう一人の少年が猛ダッシュで部室の中に駆け込んできた。



スタタタタ……ガチャリ!!



「お~い、みんな~!家からたこ焼き器持ってきたんだけどさ~!これからみんなでたこ焼きパーティーしない?家庭科室からタバスコも持ってきたから『ロシアンたこ焼き』やろうよ~!ん……あれ?このタバスコ、賞味期限がとっくに切れてるな……ま、いっか~!」


右手にはたこ焼き器とタバスコ、左手には材料が入ったスーパーの袋……そんなファンキーな出で立ちで登場したのはレイであった。


レイはすかさず部室内に入ると「あれ、この部屋ってコンセントどこ~?てか、この部屋って換気扇ある~?」などと間抜けなことをペラペラと云い始めた。


自分の存在を完全にスルーしておきながら、のんびりとランチタイム……それもたこ焼きパーティーなどを始めようとしている不届き者の集まりに、伊本は思わず声を荒げた。


「おい、キミ達!僕の話を聞いているのか?部外者が勝手に部室内に出入りするなと言っているんだ!!それに……たこ焼きパーティーだと?ふざけるな!先生にチクって全員『停学処分』にしてや……」


伊本が最後まで言い切る手前だ。


突如、その背後に悪寒が走った。


ゾクッとするような殺気を感じて、伊本がおそるおそる振り向くとそこには……、


「ひっ……!キミは……隣のクラスの……く、久保田クン……!」


「よう、伊本ォ~。今、『停学』だとかなんとかって聞こえたけど……俺の可愛い後輩達になんか用かァ~?」


切り裂くような冷酷な目で伊本を震え上がらせたのは、カップ麺を片手に持ったミツナリであった。


ミツナリは入り口付近を塞ぐように立っていた伊本に対し「どけよ。早く食わねェと麺が伸びちまうだろうが」と強引に道を開けさせると、堂々と部室の中に入ってからデスクに深々と腰を掛けた。


そしてカップ麺の蓋の上に割りばしを置くと、思い出したかのようにその口火を切った。


「そういやよォ、伊本……最近、タメの間じゃ噂になってるぜ?」


「う、噂……?」


「なんでも……お前が一年生のとある女子に告白してあっさりフラれたっていう話だ」


「ぎ、ぎくぅ……!な、なぜそれを知っている?」


「一年の中じゃあアイドルみてェに可愛い学年のマドンナなんだってなァ~。しかも、そのフラれた理由は……なんだっけか……その子が『パソ研に好きな人がいるから』っていう話だったとかなんとかって……そんな噂を聞いたけどなァ」


容赦ない暴露をするミツナリ……慌てふためく伊本……そして少しだけ赤面するフミ。


さらに不敵な笑みを浮かべながらミツナリは続けた。


「お前さァ、まさかとは思うけど……そんなくだらねェことを理由に『嫌がらせ』なんかを働いたりしてねェよな?例えば、このパソ研に対して……あるいは特定の人間に対して……」


「そんなことは……ない!断じてあるものか……!」


「へェ、だったら生徒会の副会長がこんなところに一体何の用だ?」


「ぼ……僕はただ……雨夜クンと大事な話をしていただけだ……!生徒会役員として、校則に則って、部員の少ない部活動は廃部にすべきだという話を進めていただけで……!」


「ふーん、そうか。でも俺はこんな噂も耳にしたんだよなァ」


「ま……また……噂かい?」


「というのも、最近出来た『eSports同好会』……元々いたパソ研の部員達に声を掛けて、その設立を促したのは伊本……お前だっていう話だ。なんでもよォ……意図的にパソ研の部員を減らして潰した後に、今度は『eSports同好会』を部活へと昇格させる……その話に乗ってくれりゃ、従来よりも多くの部費をそっちに流すからって……そういう手回しが裏であったとか」


「そ、そんな話はデタラメだ!あくまで根も葉もない噂だろう……!ふざけるのも大概にしたまえ!と……とにかく、久保田クン!キミが何と言おうと、僕は校則に則って行動しているだけだ!この『パソコン研究部』は部員の頭数が不足している!だから、何が何でも……本日の生徒議会で廃部の審議案を……!」


その時だ。



ガサガサ……ぴらり。



ハル、カナタ、レイ、ミツナリの四人は学ランの内ポケットから、それぞれ一枚の紙を取り出して伊本に見せつけた。


それはパソコン研究部への「入部届」だった──


しっかりと名前は記入済み、それぞれ保護者の印鑑まで捺印されている彼らの入部届を見ると、フミは驚きの表情を浮かべて見せた。


だが、それをさらに上回る驚愕の表情で叫んだのは伊本であった。


「なにィ!?にゅ……入部届だと!?まさか……キミ達、全員……このパソコン研究部に入部するというのか!?」


全員の声を代表してミツナリは言った。


「確か校則では……部員の頭数は五人以上いればいいんだよな。じゃあ俺たち、全員合わせて条件クリアだ。これで廃部の話は当然、チャラだよな?」


デスクに座る五人組の姿を見て、伊本は納得いかない様子で再び叫んだ。


「ば、バカな……!ありえない!き……キミ達は一体何だっていうんだ!?」


ここぞとばかりにニヤリと笑ったのはハルだった。


そして隣に座っていたフミの肩にがっしりと腕を回すと……当たり前のようにして言い放った。




「見ての通り、俺たちはフミの『友達』っすよ」




★




伊本が部室を去っていった後も、フミは様々な感情を隠すかのようにずっと俯き続けていた。


その肩をバシッと叩きながらハルが笑顔で言う。


「さあ、メシにするぞ!」


「…………はい」




──彼らが和気藹々とランチタイムを始めた頃。


窓の外ではもうすっかりと雨が上がっていた。


雲の切れ間からは光が差し込み、青空も垣間見えている。


どうやら……長かった梅雨も明けたらしい。


相変らず俯きながら弁当を食べる少年の目元に……ほんの少しの残雨を置いて──




★



翌週、地元のライブハウス。


13 SECONDS TIME BOMBのステージにはギター、ベース、ドラム、中央にマイクスタンド。


その奥には……譜面台にノートPCを取り付けた電子キーボードが配置されていた。



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