17話~足りないもの~
『SUMMER DRAGON FESTIVAL~高校生バンドオーディション~』
【優勝バンド】──ORANJET──
サマドラへの出場権を見事に獲得したのは、アトムが率いるその四人組だった。
それも投票結果は……他のバンドに圧倒的大差をつける形での完全勝利。
勿論、13 SECONDS TIME BOMBは彼らの足元にも及ばなかった。
ハル達が期待していた「番狂わせ」など起きることもなく、実力者が当たり前のようにその栄冠を勝ち取る結果に終わったのである。
こうしてあっけなく、一世一代のスペシャルオーディションはその幕を閉じた……。
★
ハル達は楽屋で荷物をまとめると、そそくさと会場を後にした。
その際の彼らは絵に描いたように意気消沈し、それぞれが生気を失った絶望の表情を浮かべていた。
特に作曲担当であるレイはひどく落ち込んでおり「優勝できなかったのは俺の曲が悪かったせいだ」としばらくの間、自責を続けていた。
対してハルが「俺の方こそボーカルとして実力不足だった」と敗因のソースを何とか己に向けようとするのだが……そんな言葉は重ねれば重ねるほど、余計惨めな気持ちにさせられた。
どうであれ、彼らは現実を思い知らされたのである。
あくまで自分達が「井の中の蛙」に過ぎなかったという苦々しい現実を……。
ハル達が裏の搬入口に出ると、そこに設置してある自販機のベンチに一人の青年が腰を掛けていた。
青年は生温い都会の夜風に吹かれながら優雅にミネラルウォーターなどを嗜んでいる。
やがてハル達の気配に気づくと、ニッコリと笑顔を作ってから爽やかに挨拶した。
「やあ、お疲れ様。今日は楽しい一日だったね」
それはORANJETのボーカル・アトムであった。
オレンジ色のロングヘアを手櫛で梳かしながら、まるで雑誌の表紙を飾るファッションモデルのように堂々と足を組みながら縁台上に君臨している。
そんな華々しい都会のバンドマンに対して、もはや疲労困憊のハル達は社交辞令をかける気力すら湧いてこなかった。
ハル達は一言も発することなく軽い会釈だけで済ませると、そのベンチの前を足早に通り過ぎていった。
どうやら友好の輪は気づいてくれないらしい……そう察したアトムは残念そうに微笑むと、ペットボトルに入った軟水をグイッと飲んだ。
そしてみずみずしく潤したその喉で、肩を落としながら遠ざかっていく四つの背中に向かって声を放った。
「何をそんなに落ち込むことがあるっていうんだい?君たちの音楽は素晴らしかったよ。ただひとつ……『足りないもの』があっただけさ」
ハル達はピタリとその場で足を止めた。
そのままアトムは続けた。
「確かに……スキルやテクニック、アレンジやサウンド面、曲の善し悪しだとか……そういう細かい部分の問題点を挙げたらキリがないよ。でもね、重要なのはそこじゃないんだ。ロックバンドにとって最も大切なのは……そういう部分じゃない」
オーディションを制した優勝バンド、そのボーカリストからの重厚な言葉を背後から受け止めると、ハル達は自問自答するようにその場で俯いた。
拳をギュッと握りしめ、それぞれが必死に考える。
しかし……今の彼らにはどうしても……その明確な「答え」が解からなかった。
最後にアトムは全てを見透かすようにこう説いた。
「まあ、焦る必要はないさ。バンドに本気で向き合っていれば、君たちにもいつかその時が訪れるはずだよ。痛くて苦しくて……どうしようもなく叫びたくなるような……そんな瞬間がきっとね。その時が訪れたら君たちは……今よりもっと素敵な音を鳴らすことができるだろう」
★
ハル達は振り向くことなく、何も言わずにその場を去っていった。
彼らの後ろ姿からは最後まで悲愴感が拭えなかったが、その足取りはどこか……いつかまたリベンジを誓うかのような……そんな未来への闊歩にも見えた。




