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16話~それぞれの音楽~


『SUMMER DRAGON FESTIVAL~高校生バンドオーディション~』、開幕。



会場には溢れんばかりの観客達、審査員をはじめとした音楽関係者一同、そしてフロアの至る所にてライブビューイング用のビデオカメラが配置されていた。


この日、最終選考として行われるのは対バン形式による「ライブ審査」だ。


各バンドがステージにて魅力を競い合い、オーディエンスからの投票によってその勝敗を決する。


つまり来場した観客(ライブビューイング含む)からの「一般票」、審査員や関係者からの「特別票」……それら全ての合計獲得票が最も多いバンド一組にのみ、栄光への切符「サマドラへの出場権」が与えられるのである!



★



壇上にスモークが焚かれ始めた。


アンペグとマーシャルがL-Rで配置されたアンプリファイア、その真ん中に堂々と佇むのは光り輝くダイナミックマイク。


ステージ奥にはドラムセット、その左右にはフェンダーとギブソンがそれぞれ挑み顔で待機している。


やがて……場内の照明がパッと落ちると同時に、爆音のSEが鳴り響いた。


出囃子であるゴリゴリのアッパーチューンに客席が沸く中、13 SECONDS TIME BOMBの出番が始まった。


ゆったりとした足並みでステージに現れたバンドメンバーは、それぞれのポジションにつくと楽器を構えた。


この日、彼らはインディゴブルーを基調としたデニムの衣装に身を包んでいた。


カナタはカバーオール、ミツナリはショップコート、レイはウエスタンシャツ……そして色褪せた復刻の2ndと501をルーズに着崩したボーカリストは、ステージ中央に立つと不愛想な表情のままマイクを手に取った。


トレードマークの金髪をくしゃっと散らしながら客席を睨むハル。


そこに間髪入れずにドラムカウントが始まると、ライティングが一瞬にして舞台上を青く染め上げた。



彼らが披露した曲のタイトルは「FOREVER BLUE」。


この日のためにレイが書き下ろした、まっさらな新曲である。


清涼飲料水のCMにタイアップがつきそうな珠玉のメロディーライン、それは夏の始まりを彷彿とさせる爽快なロックナンバーであり、作曲者のレイにとっても渾身の自信作であった。



すかさずハルがモニタースピーカーに片足を掛けると、自ら歌詞を付けたサビ始まりを高らかに歌い上げる。


華奢な身体から繰り出されるハードロックボイス、そのアグレッシブな歌唱スタイルが観客を軽やかに挑発する。


続いてレイがピッキングハーモニクスを交えたギターリフで魅せると、ミツナリが波に乗るようなベースラインでグイグイと楽曲を引っ張っていく。


そしてカナタの跳ね上げるビートで会場全体を揺らすと、彼らはその存在感を余すことなくまざまざとフロアに見せつけていった──



★



オーディションも終盤に近付いて来た頃である。


客席の最前列にはオレンジ色のTシャツを着た女性集団が陣取り始めていた。


彼女達はフロア前方にある柵にかじりつくようにして、お目当てのバンドが登場するのをじっと待ち構えていた。


しばらくすると……天井のミラーボールがゆっくりと周り出し、そこに暖色のライトが当てられた。


光の粒が乱反射し、会場全体がオレンジ色の幻想空間に包まれると同時に、スピーカーから聴こえてきたのはCyndi Lauperの「Time After Time」である。


その曲がお決まりのSEなのだろう、たちまちファンからは大きな歓声が沸き上がった。



噂の実力派バンド──ORANJETの登場である。



緋色のサマースーツを着込んだ四人組がステージに現れると、場内にはさらに割れんばかりの歓声が鳴り響いた。


フォーマルなセットアップでステージに立つその井出立ちは、まるでブリティッシュロックバンドさながらの雰囲気である。


早速、ステージ上手にて黒髪をハーフアップにしたギタリストが落ち着いた表情でグレッチを肩に掛けた。名機・テネシーローズ、不朽のマスターピースに組み合わせるアンプは「オレンジ」だ。


ギタリストはSEがフェードアウトしたことを確認すると、ボリュームノブを回してから滑らかなアルペジオでイントロを奏で始めた。それは新しいようでどこか懐かしい、耳に残る叙情的なフレーズだった。リバーブの効いたクリーントーンが耳に心地良い。


その上にリッケンバッカーのベースラインが乗っかり、ドラムの洒落たフィルインからメロウなテンポが構築されると、場内はあっという間にORANJETが生み出す世界へと溶け込んでいった。


ほどなくしてステージ中央……エレガントなピークドラペルを着こなし、橙色のロングヘアをなびかせるのはカリスマボーカリスト・アトム。


彼は花飾りが添えられたマイクスタンドを指先でそっと抑えると、しなやかにその声帯を開き始めた……。




紛うことなき本物のクオリティ、極上の歌声が天地に響く──




力強くも透き通るようなベルティングボイス、神秘的なファルセット、甘美で優美なリリックス。


それは耳や心だけではなく、細胞にまで染み込んでくる永遠の揺らめきだった。


また何よりも素晴らしいのは、その声質や歌唱技術だけではない。


彼は……「歌」を歌っていたのである。


それは音程に合わせて簡易に喉を開くことではない。


曲の辻褄を合わせる為だけに言葉を発することでもない。


アトムは人々の記憶に寄り添うような……深い深い魂の領域でこだまするような……、



「完璧な歌」を歌っていたのだ──






『時計仕掛けのシンデレラ』


Lyrics : ATOM / Music : ORANJET


十二時を過ぎても 消えない魔法のガラスの靴が履ける

ファンタジーを詠めば


燃えるような恋なんて 世界の何処を探しても

この瞬間 今 此処にひとつ


咲くアルストロメリア 窓辺のステージへと

甘い夜に永遠(とわ)に溶けてゆく 狂おしく……


Baby, Dance Tonight

何処にも行かないで 誰にも見せないで

その笑顔は 今夜 私のものだけ

あの星より高く あの月より遠く 連れ去ってよ


たとえ 「嘘」でもいいから



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