15話~ORANJET~
「うお~!すっげ~!高層ビルだ~!大きな交差点もある!高級車もたくさん走ってんじゃ~ん!テンション上がるぜ~!やっふふ~い!」
「やめんかレイ!あんまりはしゃいでいるとワシらがはるばる田舎から来たことがバレてしまうじゃろうが!」
「馬鹿……カナタ……!お前の喋り方が一番田舎臭いんだから……ちょっと口を閉じてろ!」
「お前らなァ……落ち着けっての。仮に田舎モンだとバレようが、都会人はそこまで他人に興味なんかねェよ」
東京の街のド真ん中。
憧れの大都会に足を踏み入れたことによりテンションMAXのレイ、それを制止するカナタをさらに慌てて制止するハル、そして……そんな三人のやり取りを保護者のように見守るミツナリ。
彼らが新幹線に乗って都内に到着すると、地元のジメジメとした雨模様が嘘のようにカラッと晴れていた。頭上には人口着色料のような水色の空が広がっており、立ち並ぶビルの隙間からは太陽のビームが燦々と降り注いでいる。
田舎ではまだ雨傘が欠かせないシーズンだというのに、こちらの群衆はオシャレに日傘などを差して歩いているではないか。
同じ日本でもこうも違うものなのか……少年達(特にレイとハル)はまるで異国に訪れたかのようなカルチャーショックに打ちのめされていた。
★
早速、ハル達はオーディションが行われる会場へと向かった。
そこは都内でも有名な大型のライブハウスで、収容人数はなんと……3,000人!ハル達がいつもライブを行っている地元の小さな箱「シルバーダック」(最大キャパ100人)と比べると、まさしく手足が震えるような規模であった。
──集合場所である裏の搬入口。
そこには楽器ケースを抱えた百戦錬磨の猛者の集いが、早くもバチバチと鋭い視線をぶつけ合っていた。
いずれも予備選考を通過した精鋭揃い、本日のオーディションで火花を散らし合うライバルバンドという訳である。
ハル達は身構えながらも、同じようにその場に鎮座した(決して田舎者だとバレないようにスカした表情を浮かべながら)。
すると……その場所からは、ふと奇妙な光景が目に入った。
搬入口前の道路に設置されたガードレール、そこに腰を掛けるようにして数多くの女性集団がたむろしているのである。
彼女達は全員揃って何やらロゴがプリントされたオレンジ色のTシャツを着ていた。
(なんだ、あれ……?)
ハルがその光景を訝し気に眺めていると、やがて目の前の道路に一台のワゴン車が走ってきた。
ブォーーーン……ブォォォン……ガチャン……カッチカッチカッチ……
ワゴン車はおもむろに徐行してくると、ハザードランプを点灯させてから搬入口前に停車した。
「キャー!!!」
それを目にした女性集団は歓声をあげながら、あっという間に車体の周りを取り囲んだ。その勢いたるや、まるでスキャンダルを追いかけるマスコミのように。
人海に包まれたワゴン車のスライドドアがゆっくり開くと、車内からは四人組の青年が姿を現した。
彼らもおそらく本日のオーディションに参加するバンドマンなのだろう……それぞれが楽器ケースを手にしている。
そして──その中の一人である。
唯一、楽器ケースを手にしていない手ぶらの青年がいた。
彼が車内から姿を現した瞬間、周囲の空気はガラリと一変した。
夏空に向かって高く伸びた向日葵のようなスタイル、さらりと風になびくオレンジ色のロングヘア、西洋絵画さながら美しく整ったその容姿には……吸い込まれそうな青い瞳がガラス玉の輝きを放っていた。まるで一人だけが異なる世界線をその目に映しているかのように……。
青年は光沢感のあるロングシャツの裾をはためかせながら、可憐な足取りでワゴン車から降り立った。
そして周囲を取り囲む女性達に向かって、この世の全てを見透かしたような甘い微笑みを送って見せた。
すかさず女性達が叫ぶ。
「キャアアア~~~!!!!」
その青年はあっという間に女性達に囲まれると、写真や握手を求められ、大量のプレゼントなどを手渡され始めた。
他のバンドマンとは明らかに一線を画している……そんな不思議なオーラを纏う青年の姿を、ひいてはその光景をハルは遠くから興味深そうに眺めていた。
すると、横から口を開いたのは相変わらずロックオタク健在のカナタであった。
「アイツらはのう……東京出身の高校生バンド『ORANJET』じゃ」
「オランジェット……?」
「うむ。今まさに大勢のファンに囲まれているオレンジ色のロングヘアがおるじゃろう……あいつがボーカルの『ATOM』という男じゃ。その人気は見ての通り抜群……奴らはまだ自主制作のミニアルバム1枚しか出しとらんが、既にインディーズシーンで確固たる地位を獲得しているんじゃ。ちなみにじゃがのう……奴らのバンドは来年、高校を卒業すると同時にメジャーデビューすることがもう決まっているという噂もあるんじゃ」
「メ……メジャーデビュー!?」
声を揃えて驚くハル達。
カナタはそのまま続けた。
「なんでもメジャーデビューの契約にあたり、複数のレコード会社がオランジェット争奪戦をしたそうじゃ。それもそのはず……ボーカル・アトムのカリスマ性に加えてメンバー全員のルックスも整っているし、楽曲はラブソングメインのポップロック。あれは間違いなく黄金の卵を産むじゃろうな」
それを聞いたレイが顔を真っ青にする。
「ま、マジかよ……。じゃあ今日のオーディション……そんな凄い奴らにも勝たなきゃいけないってこと~?なんか俺……ちょっと自信失くしてきたかも……」
読んで字の如く、住む世界が違いすぎる都会のバンドマンを前にしてレイは早くも及び腰だ。
しかし……こちら側には一切としてひるまない男もいた。
両耳のリングピアスを鋭く光らせ、狼のようなその目にメラメラと闘志を燃やしていたのはミツナリである。
「おいおい、弱気になる必要はどこにもねェだろ?確かにあいつらの方が有名かもしれねェけどよ……俺たちだって同じく、オーディションの予備選考を通過した選りすぐりバンドの一つなんだ。メジャーデビューが決まっているバンドだと?上等じゃねェか……俺たちの方がもっとカッコいい音を鳴らせるってこと、証明してやろうぜ」
その威勢のいい啖呵に乗るように、ハルもまた血気盛んな態度でメンバーを鼓舞した。
「そうさ!都会のバンドマンが一体何だっていうんだ!ビビる必要はどこにもない!今日は俺たちが『番狂わせ』ってモンを起こしてやろうぜ!!」
さあ、いよいよ運命のオーディションが幕を開ける──




