10話~覚醒の声~
ブーストされた高音域、ビリビリとした倍音成分。
まるで金属音のようなシャウトが入り混じるスリリングなハイトーン。
唯一無二、天性、カリスマ……まさしく神懸かったロックボイスを店内に響かせると、ハルはあっという間にその一曲を歌い終えた。
すると……、
パリーン!
バーカウンターの方でグラスの割れる音がした。
武蔵が手に持っていたグラスを床に落とし、わなわなと驚愕の声を震わせていた。
「これは……おっタマげたわ……。やっぱり私の言った通り……あの子は絶対にボーカルなのよ……間違いなかったんだわ……」
★
全員が唖然とした表情でハルを見つめていた。
先ほどまで彼を茶化していたカナタは瞬きもせずに言葉を失っており、レイはメロンソーダのジョッキを手にしたまま固まっている。
そんなあっけにとられたギャラリーの中、いち早く叫んだのはミツナリであった。
「お、おい……ハル!お前……ボーカルをやれ!お前の……その声は……絶対にボーカリストだ!!」
興奮気味に話すミツナリの目はすっかり瞳孔が開いており、それは少し怖いぐらいに爛々としていた。さながら海賊が財宝の山を発見した時のような狂気じみた眼球の光りである。
しかし、当の本人はいまいちピンと来ていない様子で小さく首を傾げた。
「俺が……ボーカル?」
「ああ!お前のその声は天からの授かり物!間違いなくロックを歌う為にある声だ!」
「いやいや……そんな大袈裟な……俺はボーカルなんて柄じゃないし……」
「バカヤロウ!!その声を以てしてロックを歌わねェなんて……日本の音楽シーンにとっての大損失!ロックに対する冒涜だぞ!」
ミツナリは説得するように真剣な表情で続けた。
「いいか、よく聞け……楽器ってのは誰にでも弾けるし、練習すればある程度は上達もする。でもな、ボーカルの『声』ってのは先天的なもんで……こればかりは努力でどうこうなるもんじゃねェんだ。お前の歌声は……何万、何十万、いや何百万人を感動させることが出来るに違いねェ!だからボーカルをやれ!絶対にだ!!」
その力説に同調するように周囲からも期待の視線を注がれるハル。
だが……やはり本人の難色は消えないようだった。
「いや、でもよ……もし俺が仮に……本当に仮にだけど『ボーカル』に転向したとして……そしたら今度はウチのバンドにはベーシストがいなくなるんだよ。とてもじゃないけど、俺はベースボーカルなんて器用なことはできる自信ないし……ベースがいないんじゃバンド活動は……」
「あの~、ちょっといいかしら?」
バーカウンターの方から割って入るようにして声を飛ばしたのは武蔵だった。
全員がそちらの方向に視線を向けると、今度は武蔵が指を差しながらあっけらかんとして言った。
「ベーシストならピッタリの存在がいるじゃないのよ。ホラ……すぐそこ……アナタ達の目の前に」




